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10月19日から21日にかけて西日本を襲い甚大な被害を発生させた台風23号の被害全容を把握するいとまもない10月23日17時56分、新潟県中越地方を震源とするマグニチュード6.8の強い地震が発生した。「新潟県中越地震」と命名された今回の地震は、内陸部の活断層が動いて発生した直下型地震で、しかも震源が浅かったこともあり、道路や鉄道など交通インフラを中心に住民生活に壊滅的な被害を与えた。震源地に近い中越地方では強い余震がいまだに続いており、本震から1時間も経たないうちに震度6強の強い揺れを2回、避難生活が5日目に入った27日昼前にも震度6弱と本震と変わらぬほどの強い揺れを4回観測している。
相次ぐ台風の襲来で辟易していたところに今度の地震である。いつまで自然災害が続くのだろうか。いくら災害大国日本といっても、いい加減にしてほしいものだ。特に、震源域となっている中越地方は、7月12日夜から13日にかけて襲った集中豪雨で甚大な被害を受け、その傷が癒えぬうちの震災である。お見舞いの言葉も無い。
これまでに分かったところでは、28日現在、亡くなった人は35人を数え、負傷者は2000人に達しようとしている。全村民の一時離村を決定した山古志村の約2200人を始め、9万人近い人たちが自宅を離れ体育館や駐車場、あるいは校庭などに避難している。強い余震が続く中、家を失った人は勿論のこと傷んだ住宅に戻れない人たちが、不便な避難生活を余儀なくされているのだ。アスファルトの上に直接布団を敷き寝ている姿が放映されたが、涙が出る。
また、『建物の中にいるより安全だから』と言って、車の中で寝起きしている人たちの疲れきった表情は、避難生活の過酷さを如実に物語っている。孤立した地域では石油の供給もままならず、『ガソリンを節約するために“寒くなってきたらエンジンをかけ、温まったら止める”を繰り返している。だからほとんど寝ていない』と、ため息交じりに語る言葉に力は無い。ところが、その安全であるはずの車の中で亡くなっていく人たちもいる。やはり体力のない老人に多いが、中には「チャイルドシートに固定された2ヶ月の赤ちゃんが、余震の激しい揺れで突然死した」、というなんともやりきれない痛ましい報道もあった。
そんな悲しい被災報道が続く中で、崩壊した瓦礫の中から92時間ぶりに2歳の男児が奇跡的に救出されたニュースは、被災した人たちや救助に当たる人たちに勇気と生きる希望を与えてくれた。残念ながら母親と幼い姉が救出されることはなかったが、祈るような気持ちでテレビに見入っていた被災者の人たちに一筋の希望を与えてくれた幼い命に涙せずにはいられなかった。『良くぞ生きていてくれた。がんばったね!』と、心の中で叫び勇気付けられた人がどれだけいたことか。私もその一人だ。「大きな!大きな拍手!」を送りたい。
この母子が巻き込まれた斜面崩壊に代表されるように、今回の震災では地滑りを含めた土砂災害が数多く発生しているのが特長だ。もうひとつ、これまでに経験したことがない特筆すべき震災があった。日本の大量高速輸送に警鐘を鳴らした新幹線の脱線事故がそれだ。これまで40年間無事故を誇り、世界にその安全性の高さを誇示してきた新幹線が、走行中地震に遭遇し、営業開始40年にして初めての脱線事故を起こした。運良く対向列車も転覆することも無かったおかげで大惨事を免れることはできたが、無事故神話はもろくも崩れ去り、最新技術の地震対策が根底から問われる重大な事故となった。JR東日本は地震に対し無策であったわけではなく、阪神淡路大震災を教訓に橋脚の補強を行い、「コンパクト・ユレダス」と呼ばれるシステムを導入して万全と思われる対策を講じていた。それにもかかわらず今回の事故が発生したことは、安全運行に大きな課題を抱えたことになる。導入したシステムの課題も顕在化した。
ユレダスの仕組みはこうだ。地震発生後最初に到達するP波(Primary
wave:初期微動、疎密波)を感知すると同時に送電をストップし、S波(Secondary
wave:本格的な揺れ、横波)が到達する前にブレーキをかけ停止させるシステムだ。ところがこのシステムは、P波とS波の到達時間に列車が止まるだけの間隔がないと有効に働かない。今回のように、直下型でしかも震源が浅いと、到達時間の遅れはほとんど無く、せっかくのシステムも有効に機能しなくなる。マグニチュード8クラスの巨大地震が想定されている東海地震や東南海地震などのプレート型地震はこの間隔が大きく、「ユレダス」は有効だと言われてきたが、こと東海地震に限ってみると震源域が東海道新幹線直下付近にも想定されており、今回と同じように到達時間の遅れがほとんど無い可能性が高い。したがって、今回と同じような事故、いやいやそれ以上の大惨事が起こる可能性が極めて高いことが皮肉にも実証され、新たな地震対策の必要性がクローズアップされる事故となってしまった。ただ事故は残念であったが、このような事故や失敗は科学技術の発達に欠くべからざる出来事で、今回の事故もより安全な運行システム構築への発明の母となってくれるものと信じている。
ところで、今回の地震で最先端技術の結晶である新幹線の安全神話が崩れたように、東京を中心に建設されている技術の粋を集めた超高層ビルや大都市周辺のコンビナートが、予想だにしない被害の危険にさらされていることをご存知だろうか。
地震波は、前述したP波とS波が良く知られているが、それ以外に表面波と呼ばれる長周期地震動がある。S波の後に来る波で、人間がほとんど感じることが無いほどゆったりとした揺れをもたらす。その揺れが、最先端構造物である超高層ビルや長大橋、さらには石油タンクなどの巨大構造物に壊滅的な被害を与えるかもしれないというのだ。NHKスペシャル地震波プロジェクトの手による「地震波が巨大構造物を襲う
大地震が起きた時、あなたは大丈夫か」(近代映画社)に、その衝撃的な内容が詳しく書かれている。2004年1月18日に放映された番組を本にしたものだ。
周期数秒から数十秒の揺れが減衰しないで5分、10分と長く続くのが長周期地震動の特徴で、巨大構造物の固有振動数と似たような周波数であるため、共振を起こし予想以上の揺れが生じてしまうらしい。1983年に発生した日本海中部地震のときに、なんと東京にある超高層ビルのエレベーターの管制ケーブルが切断された事実(エレベーターそのものに直接的な被害は無い)も記載されている。こういった事故はほとんど漏れ聞こえてこない。さらに、これまでに建設された巨大構造物の安全性に長周期地震動がほとんど考慮されていないという事実は、衝撃的だ。「阪神淡路大震災以後に建設された巨大構造物はすべて安全だ」という安心感も懐疑的に見る必要があるのかもしれない。しかも、長周期地震動は地質的に軟らかい地盤が厚く堆積した盆地構造を持ったところで強く現れ、それが丁度東京や名古屋、大阪などの大都市圏と一致するらしい。さらに、遠く離れた地震でも時間をかけ伝わり影響を受けることが、メキシコ地震で実証されている。したがって、東海地震などプレート型の巨大地震発生時には、遠くだからといって決して安心しないほうが良い。大都市圏に住んでおられる方やオフィスがある方には、一読をお勧めする本だ。しかも早いほうが良い。
いずれにしても、今回の新幹線脱線事故に象徴されるように、最先端の技術だからといって全能ではないことが明らかになった。そして、我々が諸々の施設に安心して身を委ね生活していくためには、今回経験したような事故や災害を教訓にして、安全確保に向けた更なる技術の開発が求められていることだけは確かだ。それが、亡くなった人たちへの最大の供養になるような気がしてならない。
なお、第31話「大地震への備え大丈夫ですか」で紹介した「大震災
サバイバル・マニュアル」(朝日新聞社、朝日文庫)を今一度紹介する。ぜひ、ご家庭の地震対策マニュアルとして参考にしていただきたい。 |