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そんな虫が会社にもいた。似てはいるが私のことではない。久し振りに太陽が顔を見せた昼休み、4階にある緑地の草むしりをしていて、芝の根本でうごめく小さな虫を見つけた。悔しいけれど焦点が合わないので何の虫かは定かでないが、冬ごもりしていた虫なのだろうなにやら動きが鈍い。抜き取った草の根と共に無理矢理地上に引っ張り出してしまったのかもしれない。彼(いや彼女かもしれない)にとったら迷惑千万な話しだが、天気も良いし、寝過ぎは虫にとってきっと良くないだろうから(?)、まあ許してもらおう。
ところで、毎年3月5日前後になると天気予報の気象歳時記コーナーで、『今日は啓蟄で、冬ごもりの虫が這い出してくる日だと言われています』、との話題が決まって報じられている。正直言って「啓蟄」について調べたこともなく、これまで詳しい意味を知らないまま私の得意な“知ったか振り”をして、『今日はもう啓蟄か。もうすぐ春だ、早いものだな』などと使っていた。これでは年頭に決めた『見てごザル、聞いてごザル、言ってごザル』の精神に反すると言うことで、新たな知識を入れることにした。情報源は、子ども達が使っていた三省堂の「漢和辞典[第四版]」である。
漢和辞典に依れば、「啓(けい)」は、拝啓や一筆啓上などのように使われている「申し上げる」の意味の他に、「開く、あける」と言った意味も有るそうだ。「啓蟄」の場合は、後者の意味で使われている。
一方、難しい字の「蟄」は、“ちつ”あるいは“ちゅう”と読み、「冬、虫が土や穴などの中に隠れて、活動をやめている」とか「かくれる、こもる、ひそみかくれて外へ出ない」の意味があり、虫とくっついた「蟄虫(ちっちゅう)」はそのものズバリ「冬ごもりしている虫」を意味する。「蟄」にその様な意味があると分かれば、時代劇の中で時々耳にした「蟄居(ちっきょ)」も合点がいく。時代劇を余り見たことがない若い人達のために少し説明すると、「蟄居」とは武士が自宅に幽閉されることで、漢和辞典に依れば「江戸時代に武士に科した付加刑の一つ、表門をしめて外部との交通を許さないもの」とある。確か、水戸黄門にはその様な場面が良く出ていたような気がする。
少し横道にそれたが、二つの漢字を組み合わせた「啓蟄」は、「冬、虫が土や穴などの中に隠れて、活動をやめている」状態を「開く、あける」と言うことになる。すなわち、「冬ごもりの虫が這い出る」の意味になるわけである。短い単語ではあるが、すごい内容のある言葉だと思う。何でこのような言葉が必要になったかは、想像の域を出ないが、農耕民族にとって豊かな実りを確実なものにする大切な農業暦だったのだろう。
ゆっくりとしたしかも豊かな自然の営みを、たった二文字に表し暦にしてしまう昔の人の表現力と観察眼のすばらしさに、ただただ感心するばかりである。
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