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2004年
5月14日
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私の母は大正10年生まれで今年満83歳になった。当然第二次世界大戦も経験している世代である。受けた教育や社会通念も、当然のことながら男中心の考え方に立脚しており、「三つ子の魂百まで」と言われるとおり今でもその考え方に変わりない。「男とはかくあるべきだ」、「女はこうでなくてはならない」と言った“男と女のあるべき姿”が極めて明確にイメージされている。したがって、その母に育てられた私にも少なからずその影響が残っている。「男はベラベラ喋るな」、「泣き言は言うな」、などは今でもトラウマのように残っているが、中には「男は台所に入るな」のように都合よく使わせてもらった教えもある。あまりにも素直に聞きすぎたせいか、都合よく使いすぎたせいか定かではないが、お陰で料理のレパートリーは手足の指を使えば事足りてしまう。勿論、甘いものを除けば何でも酒の肴になる私としては、学生時代に良くやった“野性味風キャベツの生かじり”も立派な料理の一つとしてカウントしている。 |
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そんな私の血を受け継いでいる筈なのに、我が家の息子達は意外や意外、結構色々な料理を作ってしまう。先日の母の日も、息子二人の見事な料理が食卓を飾った。右の写真がその料理である。ボールをそのまま食卓に出しているところはご愛敬として、品数4品、家内のリクエストであるドリアを始め、パスタ、サラダ、レモンの利いた鳥肉(料理名は、私の分かる範囲でなるべく平易に表現した)、どれもこれもお世辞抜きにうまい。私の料理とは比べものにならない。
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振り返ってみれば、確かに「男は台所に入るな」とは言ってこなかったが、ここまでできるとは正直驚きである。浪人中の息子にはやや複雑な思いもあるが、家内と二人、色々な意味で至福の時間を過ごさせてもらった。いつの間に覚えたのだろうかと感慨に耽っていたが、煮物も器用に作っていたことを思い出した。都合が良いところだけは頑なに守ってきた私と比べるべくもないが、「男子厨房に入る」にも何の抵抗もなく、多分レパートリーも手足の指だけでは足りないのだろう。脱帽である。
彼らに負けない私の得意料理はないかと手の指を折ってみたが、“みそ汁”、“目玉焼き”、“焼きめし”、“野菜炒め”などなど、なにやら小学生の家庭科で作った記憶のあるものしか浮かばない。足の指に移っても、“刺身”、“大根下ろし”、“とろろ汁”など、素材の持つ旨味をそのまま
活かしてはいるが、料理と呼ぶには少し怪しい手合いが並ぶ。何かこれはというものがないかと思案していたが、数年前家族に絶賛を博した料理があることを思い出した(私も時々は台所に入ることを名誉のために付け加えておく)。イカの料理である。
女優壇ふみの父、壇一雄(1912〜1976)が書いた「壇流クッキング」(中公文庫)に登場する料理である。私好みの極めて簡単な料理で、しかも蟹味噌のような味がして本当に美味い。壇命名の料理名は、「イカのスペイン風」である。私と同様に「男は台所に入るな」の教えを頑なに守ってきた仲間のために、家族の賞賛を得ること間違いなしのこの料理法を簡単に紹介しよう。
どんなイカでも良いようだが、軟骨とトンビを除いて内臓ごとぶつ切りにし、良く混ぜ合わせる。それに塩コショウと酒で下味を付け、15分ほど放置する。押しつぶしたニンニク一欠片と唐辛子を1本入れたサラダ油を煙が上がるまで熱し、イカを入れてバターとかき混ぜればこれでできあがりである。至極簡単である。
是非試していただきたい。酒の肴にもなるし、ご飯に載せて食べても美味い。多分あなたの株は上がり、一本余分に付くこと請け合いである。なお、私の説明で不安な方は「壇流クッキング」を読まれることをお勧めするが、これからの老後を考えると、粗大ゴミにならないためにも「男子厨房に入る」が宜しいようだ。 |
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【文責:知取気亭主人】 |
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『檀流クッキング』
【著】檀 一雄【出版社】:中央公論新社
【ISBN】:4-12-200273-7(1992/05出版)
【ページ】:236p (16cm)
【販売価格】:\620(税込) |
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