いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
 

『巨大地震の恐怖』

戻る

   2004年 11月 05

 衝撃的な本が出版された。しかも、これほどタイミング良く出版された本がかつてあっただろうか。勤務医石黒耀(いしぐろ あきら)の「震災列島」(講談社)である。なぜ、タイミングが良いかといえば、題名が示すように地震を扱っている小説であることは間違いないのだが、第1刷発行が10月22日、つまり10月23日に発生した「新潟県中越地震」の前日に発行されているのだ。重大な事故や事件が起こると、追随するように発行される本はこれまでいくらでもあったが、発生直前に先取りする形で出版された本の記憶はない。しかも、11月1日に実施された新札発行のイベントと呼応するように、本書の中でも巨大地震発生直後に新通貨を発行させている。このほかにも、自然科学の世界で今ホットな話題となっている長周期地震動やメタンハイドレートなども重要なキーワードとして登場させている。とにかく、地震や地学に関心を持っている者にとっては、本当にタイミングの良い本なのだ。
 内容も迫力がある。以前四方山話で紹介した小松左京の「日本沈没」(第15話)に勝るとも劣らない衝撃的な筋書きで、しかも新潟県中越地震の甚大な被害を被った今、超高層ビルの倒壊や名古屋市の壊滅など、書かれている内容は小説とはいえ真に迫るものがある。何時起こってもおかしくないと言われる東海地震と東南海地震を題材にしているが、地震に絡めて首都移転や財政危機など日本が抱える諸問題を巧みにちりばめ、社会背景の的確さと科学的根拠に基づいた内容や構成は読む者を飽きさせない。
 また、一般の人にはなじみのないボーリング屋を主人公にしていることも、同じように土や岩石を扱う者として、本書をより身近なものに感じてしまう。「ボーリング屋というほとんどの人が知らない職業を世に知らしめてくれた」という意味でも、拍手を送りたい。この本を読めば、業界の中で伝説的な話となっている「地質踏査をしている地質屋を指差し、『勉強しないとあのおじさんのようになってしまうよ!』と、子供に諭した母親がいる」などというばかげた話もなくなるだろう。

 粗筋を一言で言ってしまえば、「ボーリング屋である父親と祖父が、やくざに暴行され自殺した娘の敵を打つサスペンス物」となる。主人公の職業を除けば、一見どこにでもありそうな小説だ。ところが、敵討ちの大道具が火曜サスペンス劇場には登場したことがないものなのだ。大道具として利用されるのは、なんと東海地震と連動して起こる東南海地震の大津波である。これまで地すべりを殺人の道具として利用した小説は読んだことがあるが、それとて極めて特異だ。ましてや地震、しかも津波を利用したサスペンス物など読んだことがない。ところが、書かれている内容は殺人を除いてどれもこれもが在りえることで、シミュレーションをしているような錯覚に陥ってしまう。
 敵役のやくざも東海地震を利用して土地の買収を推し進めようとするが、東南海地震が連動して起こることは知る由もなく、連動を予測した父親の術中にまんまとはまってしまう。連動を予測する過程や二人が思いを遂げるまでに各地で発生した自然現象や被害状況は、科学的根拠に基づいているだけあって、まるで報告書を読んでいるようだ。また、「静岡県浜岡町にある浜岡原子力発電所が水蒸気爆発を起こし220万人が被爆した」とか「死者は4万人を超え、被害総額は200兆円を超えるだろう」、あるいは「消費税は12%。地震発生直後10日間は銀行預金が凍結され、その後銀行で新通貨に交換される。ただし兌換率は50%で、国民の現金資産の5割、約700兆円を国が没収する」といった内容は違和感がまったくない。むしろ、「もし東海地震と東南海地震が連動して起これば、そうなるだろう」と思わせてしまうほどリアルティがある。
 さらに、私もインターネットで知った「メタンハイドレート層の大規模崩落により8000年前にノルウェー沖で発生したストレッガ海底地すべり」や「メタンハイドレートの大規模崩落によって発生するメタンガスの暴噴」、さらには「ミュンヘン再保険会社が発表した世界主要都市の自然災害危険度ランキングで、東京が1位となりニューヨークの百倍の危険度がある」などの話も、実に効果的に語られている。浜岡原発の持つ危うさや無計画な都市開発など、これまで政府が行ってきた政策上の問題提起も怠らない。

 いずれにしても、「東海地震は何時発生してもおかしくない。もし起こればこれくらいの被害が発生してしまう」という警鐘を人々の心に鳴らし、巨大地震の恐ろしさを教えてくれる本だ。新潟県中越地震で地震の恐ろしさを知った今、「東海地震、東南海地震、南海地震は遠からず起こる。明日起こるかもしれない」ということを肝に銘じ、起これば震源地に近い静岡県や警戒地域はもちろんのこと、東京、横浜、名古屋などの大都市、さらには遠く離れていても軟弱層が厚く堆積している地域には甚大な被害が発生することを覚悟しておく必要がある。そんな思いをさせる秀逸の本である。

【文責:知取気亭主人】

      


『震災列島』
【著】石黒 耀

出版社】:講談社
【発行日】:
2004年10月22日
【ISBN】:4062126087
【ページ】:491p (19cm)
【販売価格】:\1,890(税込)

 

戻る

 

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.