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リーダーシップ

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   20040213

 私の住んでいる金沢は、昨日に続き今朝(11日)も氷点下の気温で、まるで冷蔵庫の中である。雪の上を歩けば、バリバリと音を発てる。暦の上では立春を過ぎたのに、まだまだ寒い日が続きそうだ。平野部でもこの寒さ、標高1600mを越す山ではさぞかし寒かっただろうと思う。
 福井、石川の県境にある大長山(標高1671m)の山頂付近で遭難した関西学院大学ワンダーフォーゲル部のパーティー14人は、救助要請から約49時間後の9日、幸いにも全員無事に救出された。大がかりな救助劇だったにも拘らず、14人全員が命に別状なく凍傷も中程度以下であったことは、家族は勿論救出に当たった関係者にとても朗報であった。 
 11日付の朝日新聞には、遭難から救助までのパーティーの証言が掲載されている。それに依れば、『入山3日目の5日から天候が急変して風雪が強まり、引き返すことに決めた。翌6日には雪の重みでテントが押しつぶされる危険が迫り、雪洞を掘りこれに避難した』とある。そして、救助要請をし49時間後に全員救出される訳であるが、彼らはなぜ全員が無事救出されたのだろうか。その要因は何だったのだろうか。
 遭難した原因は「調査が不十分だった」とか、「豪雪への認識が甘かった」、或いは「未熟だった」とか、専門家からは色々な原因が取り沙汰されているようだ。しかし、10日の朝日新聞に、医師で世界的な登山家の今井通子氏は、『そのような見方は本当の原因が見えなくなってしまう』、『学生達はしっかりしていた』とのコメントを寄せている。私もその意見に賛成だ。厳冬期の登山は、遭難の危険性と背中合わせであることは誰もが認めるところである。したがって、遭難をすれば常に「△△に対する認識が甘かった」が言われるが、違う側面から見ないと本質が見えないような気がする。それは、「何故助かったのだろうか&何故助けることができたのだろうか」、という側面である。或いは、「何故助からなかったのだろうか&何故助けることができなかったのだろうか」とも言える。その最も大きな要因が「リーダーシップ」であると思う。刻々と変化する状況の中で先を予見して的確な判断を下し、チームを安全な行動に導くためには、最も重要な資質ではないだろうか。

 今から99年前の1905年(明治35年)の1月下旬、青森県の八甲田山で起きた悲劇は、正に“リーダーシップの有る無し”が生死を分けた史実として、大変参考になる。風雲急を告げる日露戦争に向け、軍の寒冷地装備と寒冷地教育の調査を目的として2つの連隊が競い合い雪中行軍を行うわけであるが、一つの連隊はほぼ全滅、他方は対照的に全員が行軍を成功させることになる。映画にもなったので鑑賞された方も多数居られると思うが、今回紹介する新田次郎著の「八甲田山死の彷徨」(新潮文庫)には、両連隊のリーダーの違いが克明に描かれている。
 ほぼ全員が八甲田山の雪に倒れたのは青森歩兵第五連隊、そして雪中行軍を成功させたのは弘前歩兵第三十一連隊である。第五連隊は210名の大隊偏性であったが生存者は僅か11名、一方第三十一連隊は、地元新聞の従軍記者を含め38名の隊員全員が生還している。行軍を成功させた第三十一連隊隊長を率いたのは徳島大尉だが、彼がいかにして困難な行軍を成功させたか、その要因となったと思われる出来事をいくつか紹介する。
 まず一つは、全ての権限を彼に集中させるように上官に交渉しこれを認めさせたこと、が挙げられる。次には、隊の規模を自分が全て掌握できる人数に絞り、しかも隊員は参加希望者を募り面接してやる気のあるものを選別したこと、が挙げられる。三つ目の要因は、荷物を少なくする為と暖を取る意図があったと思われるが、宿泊を全て民宿にしたことである。そして、私が考える最も大きな要因で最後のひと踏ん張りを引き出したと思われるのは、隊員全員に「気温測定」や「積雪深測定」など目標(使命)を持たせたことである。
 これらは、表現を変えれば「権限の集中」や「人心の掌握」、「リスク回避」等となり、いずれも有事の際には欠くことのできないことであるが、極限状態になった時にどこまで頑張れるかは個々人の心の有り様によるところが大きい。その意味では、平時で言うところの「生きがい」に通じるものを持っている者ほど頑張りが利くのは明白で、それが隊員全員に持たせた「目標」であったのではないかと思う。表面的には命令ではあるがよく言われるところの「動機付け」と同じで、個々人が自分の目標に昇華させ雪中行軍の意味を隊員それぞれが持っていたことが、最後のひと踏ん張りを引き出したのだろう。やはり、徳島大尉のリーダーシップは称賛に値する。我が身を翻ってみれば恥ずかしい限りだが、厚顔無恥を承知で言わしてもらえば、このような強力なリーダーが今の政治の世界にも出てきてほしいものである。

 なお、第五連隊の方は触れずじまいだったが、それは本文を読んでいただきたい。暗い出来事を扱っているが、「ダメなリーダー、求められるリーダー」と言った視点で読むと、暗さも気にならない。組織論としても面白い。

【文責:知取気亭主人】

『八甲田山死の彷徨』 
【著】新田次郎

出版社】:新潮社
【ISBN】:4101122148 (2002/03出版)
【ページ】:331p (
16cm)
【本体価格】:\514(税別)

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