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北陸地方もやっと梅雨が明けた。全国的な傾向としてはカラ梅雨だったようだが、入梅直後の静岡での記録的な豪雨や、甚大な被害を被った新潟県や福井県の災害に見られるように狭い範囲で発生した記録的な豪雨が目立ち、改めて自然の力・水の持つ力の凄さを再認識させられた梅雨でもあった。これらの局地的な豪雨をはじめ、竜巻の発生や台風の大型化、さらには40℃を越す記録的な猛暑など、「これまでと何かが微妙に違う。何かが狂い始めた」という不安感を抱かずにはいられない現象が増えてきている。異常気象という言葉も何となく身近に聞こえてしまう。特に、雨が降らない日の気温は30℃を超すのが普通になってしまい、夜も25度を越す、いわゆる“真夏日+熱帯夜”を連日連夜記録している。これまでの暑い夏に比べても、2、3℃高いのではないかと思う。地球温暖化の影響が現れ始めているのだろう。
温暖化は健康にも影を落とし始め、連日連夜襲ってくるこの“真夏日+熱帯夜”の影響で、熱中症で倒れたニュースが後を絶たない。しかも、年寄りや子供ばかりでなく体力のある青壮年でも熱中症で倒れる人が出ている。睡眠不足による体力の低下が主な理由だと思われるが、夜の寝苦しさのおかげで睡眠不足症候群が日本中に蔓延している。睡眠不足解消には夜の気温が下がるのが何よりの特効薬で、この拙文を書いている今も遠雷が聞こえているが、一雨“ザーッ”と降り熱帯夜を解消してほしいところだ。ところが、物事はこちらの思い通りに行かないもので、気温が高くなれば夕立は発生しやすくなるといわれているものの、今日も遠雷だけで終わってしまいまた寝苦しい夜になりそうだ。
余談になるが夕立といえば、先日乗ったタクシーの運転手さんから面白い質問をされた。丁度夕立に会い拾ったタクシーだったのだが、運転手さん曰く、『“夕立”とはよく言いますが、“朝立ち”といわないのは何故なんでしょう。やはりいいづらいからなんでしょうか? それとも朝には夕方のような“にわか雨”は降らないんでしょうか?』。無論、バックミラーに写る運転手さんは明るい笑顔である。そこで私、『やはり、朝と夕方では立つものが違うからでしょう。ゴロゴロと鳴る雷も違いますからね〜! 朝帰りの時なんかに山の神が落とす雷は、光りはしませんがかなり強烈でしょう?』と答え、珍問答を楽しませてもらった。なお、朝方に降るにわか雨のことを「朝立ち」ということを、「にわか雨」の名誉のために付け加えておく。
ところで、夕立のお陰で気温が下がった夜は然程でもないが熱帯夜はなかなか寝付かれないもので、温暖化に拍車を掛けると分かっていてもついついクーラーや扇風機のお世話になってしまう。ところがこれらの文明の利器も過度に使用すると、朝の寝覚めがスッキリとしない。それではと窓を開けて寝ても、暑さのために脳は覚醒され、焦りと汗と共に寝返りの回数は増え、反対に睡眠時間は減っていく。睡眠不足の典型である。睡眠不足は、精神的にも良くない。チョットしたことでも、イライラして精神衛生上不健康この上ない。この状態を早く回避しなければいけないが、さりとて夕立に勝る特効薬を知っているわけでもない。
寝苦しさ解消が夕立頼み、やがて吹く秋風頼みは致し方ないとしても、何とかイライラの解消だけでも出来ないものかと考えていたら、効果の持続性にやや不安は残るものの見事にイライラを忘れさせてくれる特効薬を思い出した。直木賞受賞作となった奥田英朗の「空中ブランコ」(文芸春秋)を鎮静剤代わりに読むことである。
少々変わり者の神経科医師が変わったストレス障害に陥った異色の患者達を見事に(?)治癒させていく小説で、イライラ解消という精神衛生上の健康を取り戻すための特効薬としては最適の本ではないだろうか。元大リーガーの伊良部投手を彷彿とさせる医師伊良部一郎が患者と織りなす笑いの世界は、かえって覚醒させられる可能性もあるが、イライラを笑い飛ばす効果は抜群である。
表題の「空中ブランコ」を含め、5題の短編が収録されている。「空中ブランコの妙技が出来なくなった空中ブランコ乗り」、「先の尖ったものが苦手なやくざ」、「義父のカツラをどうしても取ってしまいたい衝動に駆られる大学講師の医師」、「暴投の恐怖におののくプロ野球選手」、「過去に書いたネタではないかと強度の不安に駆られる女流作家」という異色の患者を扱った五編が収録されているが、どれもこれも面白い。抱腹絶倒の時間が過ごせることは私が保証する。中でも、「ハリネズミ」と題したやくざの話しが私は大好きだ。やくざをやくざと思わない伊良部医師や「マユミちゃん」と呼ばれる看護婦らしくない看護婦のやくざへの接し方は、腹を抱えるはずだ。この拙文を書くために読み返してみたが、ついつい引き込まれ結局最後まで読んでしまった。体を揺すりながら読んだため余計に汗をかく羽目になってしまったが、イライラは見事に消し飛んだ。やはり、笑いは精神衛生上の特効薬であることを再認識した。
まだまだ熱帯夜は続きそうだ。もう既にイライラの募っている方、“最近笑ったことがないな”と感じておられる方にはお勧めの一冊である。なお、同じ伊良部先生が登場する「イン・ザ・プール」(文芸春秋)も合わせて読むことをお勧めする。こちらには、タクシーの運転手さんと交わした話に似た短編、“男にとっては笑えない話し”が面白可笑しく書かれている。久し振りに出会えた一押しの二冊である。 |