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先日、家内の田舎で、ひょんなことから珍しい色をした桜の花を堪能した。前回の『老化現象の尺度』で紹介した「御衣黄」である。その町にそんな珍しい桜があることを知っていたわけではないが、たまたまバスの立ち往生に遭遇し、生まれて始めてみる珍しい桜のしかも満開の時季に巡り会うことができた。ラッキーである。
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考えてみると人生はすべからくそうなのであろうが、いつも何か良いことに巡り合える切っ掛けが身近なところを通り過ぎているのに、われわれ凡人はそれに気づかずせっかくのチャンスを逃していることが多い。チャンスをものにできるかどうかは、切っ掛けを逃さず捉える感性と呼ばれるセンサーの感度に大きく依存するが、タイミングも重要で、たまたま何かの拍子にタイミングが合うと、今回のように珍しい体験ができることになる。
今回のチャンスを逃すことなく感動を得ることができたのは、家内の旺盛な食欲とバスの立ち往生という稀有な事件に遭遇したタイミングによるところが大きい。 |

御衣黄 |
家内の田舎は灯台と波乗りで知られた(?)御前崎に近い小さな城下町で、比較的古い町並みが残っているため一歩裏通りに入ると道は狭く、大型バスがやっと通れるほどの広さで、ましてや狭い四辻を大型バスで曲がることはほとんど不可能である。その狭い裏通りに、帰省する度に必ず訪れる家内ご用達のラーメン屋さんがある。その日も忘れずに食べに行こうということになり、義理の弟夫婦たちと狭い裏通りをラーメン屋に向かい、バスの立ち往生に遭遇した訳である。何でこんな狭いところに観光バスが入ってくるのか不思議に思った私は、『こんな狭いところに入ってきて、あのバスはどこに行こうというのだろう』とつぶやくと、『この近くにある羊羹屋さんに行くんじゃないかな、有名になって観光バスで買いに来るらしいから』と家内の説明。こんな田舎に(失礼!)そんな有名な店があるとは思っても見なかった私は、ムズムズと“見てごザル”の虫が動き出し、その有名店を覗いて見てみたくなった。
家内一押しのラーメンを食べ終わり、『羊羹屋に行ってみよう』と、運転手の特権を生かし半ば強制的に“家内の実家直行便”から“羊羹屋経由便”に変更し、観光バスが来るという羊羹屋に行ってみた。先ほどの道よりまだ狭い路地に面した店は、小さいけれど感じのよい店構えで歴史を感じさせる建物であった。気になっていた店も見たしゆっくりと前を通り過ぎようとした其の時、家内の食欲センサーがタイミングよく働いた。『羊羹買って行かないの?』。言われて私の感性(?)も鋭く反応した。『土産に買って行ってやるか』。これがまさに、二つ目の切っ掛けになろうとは、其の時は誰も気づいていなかった。
店に入った家内達は『あれとこれ』と食欲のなすままに買い求めていたが、遅れて入った私は買い求めている羊羹と包装の仕方が違う商品があることに気がついた。『これは何ですか』と主人らしき人に尋ねると、『今の季節だけの商品で、御衣黄桜の葉を使った羊羹です』との答えが返ってきた。『御衣黄?
御衣黄ってどんな桜ですか?』と続けて尋ねると、『珍しい桜でして、花の色が葉っぱと同じ黄緑で、町役場の裏のほうにあります』と、今まで見たことも聞いたこともない桜の説明をしてくれた。『エ!
黄緑!』、それを聞いてまた“見てごザル”の虫が動き出した。義理の弟夫婦たちも見たことがないというので、“羊羹屋経由便”を更に変更し“御衣黄観賞ツアー”とすることとした。半信半疑で出発したツアーは、満開の御衣黄を見たとたん、『本当だ!
葉っぱと同じ色だ!
黄緑だ!』と感嘆の声を上げ、たちまち携帯を空にかざしにわか撮影会と化した。最新機能の携帯を持ち合わせていない私は、急遽デジカメを取りに行き、二度目の鑑賞会を義母と共に楽しませてもらった。無料で振る舞われた桜湯は、今まで味わったどの桜湯よりも香りも味も濃く、花と同様本当に貴重な体験をする事ができた。
こんな珍しい桜の花がしかも本当に見頃の時に観賞できたのも、羊羹屋の主人が教えてくれたおかげ、それは家内の一言のおかげ、さらに元を正せばバスの立ち往生のおかげである。これすべてタイミング。やはり思い立ったが吉日である。 |