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『アスベスト』

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   2005年07月22

 最近アスベスト(石綿)による健康被害の話題が、新聞紙上を賑わしている。随分前からアスベストの危険性、特に発がん性について取り沙汰され、とっくに使用禁止になっていたものとばかり思っていたのに、ここにきて急に話題に上るようになってきた。大手機械メーカーのクボタが「アスベストによる健康被害」を公表してから各社がこぞって追随するようになってきたと新聞では報じられている。亡くなった方や発症している方には気の毒だが、公表することは大変良いことだと思う。被害を出した罪が消えるわけではないが、クボタの英断には拍手を送りたい。しかし、すでに使用禁止になっているはずなのに何故今頃になって騒ぎ始めたのか、新聞記事やインターネットで調べてみると、アスベストの恐ろしさをはじめいろいろなことが見えてきた。

 アスベスト(Asbestos)は天然の蛇紋岩や角閃石から取り出した髪の毛の5千分の1(0.02ミクロン〜数ミクロン)ほどの繊維状鉱物で、言葉としての意味は、プログレッシブ英和辞典(小学館)によれば「石綿、もともとはギリシャ語で原義は『消せない石、燃えないもの』」とある。原石の種類によって蛇紋岩系の白石綿、角閃石系の茶石綿や青石綿などがあり、中でも青石綿の毒性が強い。特徴としては原義にあるように耐火・耐熱性に優れているほか、吸音性、耐腐食性、耐薬品性に富む材料で、一昔前のビルや工場、あるいは駐車場の鉄骨などに吹き付けられていたのを良く見かけた。確か学校の体育館にも使われていたような気がする。工場の屋根などに良く使われている「波形スレート」もアスベストを含む商品だというし、家庭などにも内壁材や床材にアスベスト含有商品が使われている場合もあるようで、意外と身近なところに使われている(※1)。近所に住む工務店の社長の話では、驚いたことに我が家のポーチの天井材にも含まれているそうだ。

 アスベストは、極めて細く(0.02ミクロン〜数ミクロン)軽いため飛散しやすいのだという。ちなみに花粉症の元凶である杉花粉の直径が数十ミクロンというから、いかに飛散しやすいかが分かるというものだ。したがって、アスベストを使った建物の解体時には容易に四方八方に飛散してしまい、適切な対策をとらなかった場合、解体作業員やその家族、さらには付近の住民にも吸引される可能性が極めて高くなる。しかも、厄介なことにスギ花粉と違って吸引してもすぐさま症状が出ない。このことが、危険性を海外で指摘されても抜本的な対策が放置されてきた最大の理由だろう。非加熱製剤のエイズ禍と同じ構図だ。

 この極細繊維は吸い込むと肺などに刺さり、悪性中皮腫(ちゅうひしゅ、※2)と呼ばれるがんの一種を引き起こしたり、肺がんなどの原因となることが指摘されている。しかし、潜伏期間が30〜40年と永いため、「静かなる時限爆弾」と言われているそうだ。したがって、最近発症した人たちは、アスベストが最も盛んに使われた1960年〜1970年代に曝露・吸引した人たちということになる。報道によれば、「死亡した人たちのアスベストとの関わりを調べてみると、直接作業に従事した人は勿論、その家族や周辺住民まで被害は及んでいる」という。しかも、家族や周辺住民への影響については、昨日(7月20日)の衆院厚生労働委員会の集中審議によって「(当時の)労働省は1976年に都道府県労働基準局長宛に出された通達で英国の論文を引用しており、周辺住民への影響を認識していた」ことが明らかになった(朝日新聞、7月21日朝刊)。要するに、健康被害拡大の可能性があることを分かっていたのである。
 分かっていたからこそ通達の前年(1975年)に「吹き付けアスベストの使用禁止」などの規制が強化されたのだ。しかし、アスベストの使用全面禁止にまでは言及しなかったこと、あるいは吹き付け以外のアスベストの危険性について周知徹底しなかったこと、さらには解体作業などの作業マニュアルの整備と遵守を徹底させなかったことが、健康被害を拡大させる最大の要因となっている。

 新聞に掲載されたアスベストに関する年表を見てみると、1959年には早くもドイツの研究者がアスベストと悪性中皮腫とのかかわりを報告し、1995年の阪神淡路大震災で倒壊した建物の解体工事で飛散して問題になり、2002年には早大教授らが「40年間で10万人が中皮腫で死亡」の予測研究を公表しているが、厚生労働省が「2008年までに使用全面禁止」の方針をきめたのは今年(2005年)になってからである(朝日新聞、7月10日朝刊)。遅きに失した感がある。しかも、ここに来てこれまで報道されていない新たな事実が、まるで玉手箱の蓋を開けたように次から次へと明らかになってくる。
 非加熱製剤のエイズ禍もBSE問題も、そして今回のアスベスト問題も「問題の先送り」、「臭いものには蓋をしろ」といった同じ構図が見て取れる。「当事者(アスベストに曝露する作業従事者)でないことからくる“危機意識の欠如”と“やはり他人事”が、アスベスト禍の病根だ」、とは言い過ぎだろうか。
 

※1. アスベストに関する情報は、「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」のホームペ ージに詳しく載っている(http://www.asbestos-center.jp/asbestos/index.html)。
 
※2. 人間が細胞分裂する過程で、上皮、中皮、内皮という細胞に別れている時期がある。

 上皮は皮膚、食道、胃や腸といった部位になり、これに出来る悪性疾患を「がん」という。
 内皮は血管、血液や筋肉などになり、ここに出来る悪性疾患を「白血病」や「リンパ腫」、「肉腫」という。
 中皮は胸膜や腹膜など、胸や腹などを覆う薄い幕になり、これに出来る悪性疾患を「悪性中皮腫」という。(これも、上記ホームページに詳しく載っている)。

 

【文責:知取気亭主人】

     

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