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『梅雨と梅干』

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   2005年07月29

 北陸地方がやっと梅雨明けした。これで梅雨がない北海道を除けば、残すところは東北地方だけとなった。北陸地方の梅雨明けは、遅くもなく早くもなくほぼ例年通りといったところだ。入梅したばかりのころは西日本の広い範囲で少雨が続いたため給水制限される地域があちらこちらで話題に上り、「今年は空梅雨か」と早くから水不足が取り沙汰されていたが、7月にはいると一転して日本の広い範囲で豪雨に見舞われ心配された水不足もほぼ解消された感がある。しかし、ひとまず水不足は解消されたようだが、北陸ではどうもハッキリしない不安定な天候が続いている。

 金沢では、日中の気温は30℃前後と夏らしい気温になる日もあるのだが、夜から明け方にかけては25℃を下回り例年に比べて随分しのぎやすい日が続いている。風が吹く夜などはまるで秋のように爽やかだ。
 家内の友達の話では、本格的な夏も来ていないのに、もう蜩(ヒグラシ)を聞いたという。晩夏の夕暮れに「カナカナカナ、カナカナ……」と、行く夏を惜しんで鳴くあの蝉のヒグラシである。何かの間違いではないかと思ったが、子供の頃から聞きなれた鳴き声を間違えるはずもなく、いつにない夜の過ごしやすさを考えると、暑い夏が来ないまま秋を迎えてしまうのではないかと不安になってしまう。
 文明の利器を利用できない動物・植物は、人間に比べて格段に感度の良いセンサーを持っている。そのセンサー、ヒグラシのセンサーが、「もうすぐ秋が来るぞ」あるいは「もう夏は終わるぞ」といった自然界の信号をすばやく感知したのではないだろうか。素直にヒグラシのセンサーを信用すれば、今年の夏は例年に比べかなり短いということになる。ところがことはそんなに単純ではなく、「やった!今年の夏はしのぎやすいぞ」と喜んでばかりはいられないのだ。
 確かに、ここ数年増加している熱中症のことを考えると、気温は上がっても30℃程度に収まってほしいものだが、それなりの期間夏の太陽が降り注いでくれないと秋の収穫が期待できなくなってしまう。米も勿論だが、女性の大好きな焼き芋も、飲兵衛の大好きな日本酒も芋焼酎もワインも夏から秋にかけての実りが生命線だ。やはり、夏は夏らしい気候でないと豊かな実りは難しい。豊かな実りを喜び、ささやかな幸せを分かち合うためには、少々の暑さは我慢することが必要だ。そのためには、他力本願ではあるけれどヒグラシのセンサーが外れてくれることに期待するしかないようだ。

 ところで、梅雨が明けると梅漬けを干して、梅干を作る作業に取り掛かる風景をあちこちで見かけるようになる。俗に言う「土用干し」である。先日も、我が家のすぐ近くで朝早くから大きな“竹のざる”に赤い実をいっぱいに広げていたお宅があった。通勤の車の中からそれを見つけ『お!そうかそんな季節か』と感心したとたん、思わず唾が口に広がった。見事な条件反射だ。
 我が家でも何年間に一回か、梅干を作る。そのたびに少しだけ手伝うのだが、シソの香りと何ともいえない色が手に染まる。それが面白くて、シソの団子を絞ったり、梅やシソを干すわけだが、干すにつれ(確か3日干す)硬かった梅の皮が柔らかに成っていくのをみると、太陽の力と梅干を発見した先達の偉業に感心するばかりである。
 家内によれば、梅漬けも含めて俗に言われる「梅干し」には、随分とたくさんの種類があるようだ。梅の実そのものの大きさで「大、中、小」、硬さで「硬い(カリカリ梅)、軟らかい」、味付けで「一般的な酸味+塩味、甘いハチミツ漬け、酸味を抑えたカツオ梅」などがあり、さらに色合いでも「紅、薄茶、色付けなし」とバラエティーに富む。人それぞれ好みによって好きな組み合わせの梅干しを食するわけだが、私は何と言ってもごくごく一般的な梅干しが一番だ。特に自宅で漬けるものは塩加減が調節できるため、これに勝るものはないと思っている。いわゆる「手前味噌」ならぬ「手前梅干し」とでも言うやつだ。

 その「手前梅干し」が何カ月ぶりかで味わえそうだ。梅雨前から期待を担った大きな樽が台所に陣取っている。例年と違い、今年は梅の塩漬けから上がってくる「白梅酢」を保存しておくのだそうだ。塩もみした赤シソを入れると赤くなるアレだ。ご飯に混ぜおにぎりを握ったり、漬け物の味付けに使ったり、大葉(青シソ)を漬けビンで保存したりと、樽を見ただけでは分からない計画が家内の中にはたくさんあるようだ。どんな料理に変身するのか、待ち遠しい日々が暫く続くことになる。

【文責:知取気亭主人】

     

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