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『危機の予知』

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   2005年 4月 29日

 大変な事故が発生した。4月25日朝、JR福知山線(宝塚線)で通勤通学客の乗った快速電車が脱線、線路脇にあったマンションに激突した事故だ。確認された死傷者は28日朝の時点で死者97人、怪我をした人458人と、列車事故としては国鉄が民営化されて以来最大の惨事となった。マンション1階の駐車場に突っ込む形で大破している一両目には、まだ10数人の乗客がいる模様だという。レスキュー隊が夜を徹しての救出に当たっているが、最終的には100人を越す犠牲者が出るのではないかと懸念されている。

 救出が優先されていることもあり原因は未だ特定されていないが、スピードの出し過ぎではないかとの見方が強い。手前の停車駅「伊丹」で40mオーバーランしてしまったために、通常位置までバックすることになり遅れが生じてしまった。この遅れを取り戻すために制限速度を超えるスピードで走行し、結果カーブを曲がりきれなかったのではないかと言われている。脱線したところは丁度カーブのところで、制限速度は70kmだという。自動列車停止装置(ATS)の記録からは、100kmを超えるスピードが出ていたらしい。高速道路でもカーブのところで制限速度を30km以上もオーバーすれば、事故と背中合わせの運転となることは誰でもわかる。ましてや、“雨で路面が濡れている”とか“急ブレーキを踏んだ”とかいう他の要因が加われば事故に繋がる確率は格段に上がる。今回の事故も「脱線する手前で急ブレーキを踏んだようだ」との乗客の証言があるが、もしそれが事実だとすれば事故を起こす要因を自ら作ってしまったことになる。勿論、ブレーキを掛けないでそのままのスピードで走行していたとしても、事故にならなかった保障はない。しかも、置石の可能性も取り沙汰されていることから、スピードの出し過ぎばかりでなくいろいろな要因が重なって起こった可能性も否定できない。

 それにしても、運転手は何をそんなに焦っていたのだろうか。遅れたといっても1分半ほどだったという。過密ダイヤで運行されているとはいえ、金沢〜越後湯沢間の特急列車における5分程度の遅れが2時間半を越す運行時間を掛けても取り戻せない現実を知る身にとって、僅か90秒程度とはいえ伊丹と尼崎間の僅かな距離で遅れが取り戻せるなんて考えられないことだ。
 JR福知山線は、尼崎駅で東西線と神戸線に相互乗り入れし都心に向かう新快速電車などと接続しているため、僅かなダイヤの乱れが乗り入れ先の路線にも影響を及ぼすことから、会社は遅れを発生させずに運行することを乗務員に求めていたという(4月26日、朝日新聞朝刊)。列車の運行計画については全く素人の私だが、僅か90秒程度の遅れも許されないとすれば異常としかいいようがない。会社のいう遅れと乗務員の理解する遅れに差があったのかもしれないが、これまでに分かった乗客の証言やATSの運行記録からは、遅れまいとして制限速度を超えるスピードで走行していたことを読み取ることが出来る。
 遅れは、会社の規定で減給とか運転資格の停止などに影響するといわれている。確かにある程度の縛りは必要だが、それが行過ぎたものになると大量輸送を生業とする会社にとっての最大、且つ最優先の課題である「安全」を脅かすものになってしまわないだろうか。
 原因が特定されていない現時点でとやかく言うのはルール違反なのかもしれないが、批判を覚悟で言わせて貰えば「危機の予知」がどれほど出来ていたか甚だ疑問だ。何故疑問かといえば、その人の性格にも因るだろうが40mのオーバーランを8mに誤魔化して報告する雰囲気が現場で起こっているからだ。誰が見ても40mと8mを間違えることはない。仲間の駅員を始めホームで待つ沢山の乗客が見ているにも拘らず誤魔化したことが、病巣の深さを物語っている。
 労働災害防止運動には、よく知られたハインリッヒの法則がある。「1件の重大事故の背景には29件の小さな事故があり、またその背景には300件の“ヒヤ”としたり“ハッ”としたりしたことがある」というものだ。ヒヤリ・ハットとも言われているが、労働災害を防止するためにはこのヒヤリ・ハットを感じた時点で対策を採ることが、重大事故の芽を摘むことになる。そのためには、ヒヤリ・ハットの事例を出来るだけ多く、包み隠さず報告してもらうことが肝腎だ。ところが今回の場合、その肝心なことが誤魔化されたのだ。正直に報告して大きな罰を受けるより、少なめに報告して罰を小さくしたいという意識が働いたのだろう。その意識が働いた背景には、“事故防止にむけての仕組み”、もっと具体的にいえば“危機の予知と回避に向けて徹底して現場の声を汲み上げる仕組み”が足りないような気がしてならない。
 アイアン・ミトロフは「危機を避けられない時代のクライシス・マネジメント」(徳間書店)の中で、
  ☆ 発せられたシグナルを無視するな
  ☆ 危機を知らせるシグナルの伝達が途中で止まらないようにせよ
  ☆ 警戒のシグナルを発することに対して報奨を与えよ
と述べている。シグナルとしてのヒヤリ・ハットをいかに感じ取り、速やかにトップまで伝わるようにするか、その仕組みを作っておくことが必要だと説いているのだ。罰則を厳しくするだけでは、危機の予知は難しい。
 こうして原稿を書き最終チェックをしている間にも死者の数は増え、28日正午の情報ではついに100人を越え103人となってしまった。亡くなった方々のご冥福を祈ると共に、JR西日本にはこの大惨事を教訓に日本一安全な鉄道会社になるよう事故撲滅に取り組んでいただきたい。(合掌)

【文責:知取気亭主人】

危機を避けられない時代の
    
クライシス・マネジメント』        
【著者】ミトロフ,アイアン〈Mitroff,Ian I.〉
【訳】上野 正安・大貫 功雄

 【
出版社】:徳間書店
 【ISBN】:
4198614326(2001/10/31出版)
 【ページ】:219p (19cm)
 【販売価格】:\1,575(税込)

 

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