とうとう今年も最後の月に入ってしまった。年々月日の経つのが早くなってきているのは承知しているつもりなのに、いざ残りが1ヶ月を切るようになってくると、改めて今年一年の速さを実感させられる。そしてやり残したことが多いせいか、残りの日々を指折り数えることが増え、焦りばかりが胸を占める。毎年「もう繰り返さない」と誓っているのに、年の瀬が近づくとやはり気ぜわしくなってしまう。先生が忙しく走り回るのも良く分かる。
例年12月の声を聞くと、金沢では冷たい“みぞれ”の季節となり、中旬頃から本格的な冬の季節が到来する。今年も先週当たりから冬型の気圧配置が続くようになってきた。鰤や蟹など冬の食材が美味しくなってくるのに合わせるように、“雷”と“一日中お日様が顔を見せない日”が少しずつ増えてくる。「弁当忘れても傘忘れるな」の季節だ。静岡生まれの私にとっては、美味しい食材は大歓迎なのだが、天候は何年経っても好きになれず憂鬱な日々が続くことになる。
こんな冷たい季節の到来と共に増えるのが風邪やインフルエンザだ。小、中、高と健康優良児で病気らしい病気をしたことはなかったのだが、酒の蓄積量が増えるにつれ風邪を引いて熱を出すようになってきた。それでも寝込むのは数年に一度ぐらいで、まだまだ体力には自信があるつもりだ。しかし、自信と現実との間にギャップがあることも事実で、最近になって「万病の元」と言われる風邪やインフルエンザの予防には結構気を使うようになってきた。
例えば、4、5年前までは気にも掛けなかったのに、寝込んでいる間の強制的な禁酒が怖いことや、25年以上も我が家の主治医をお願いしているT先生の勧めもあり、ここ数年インフルエンザの予防接種をするようになった。今年も先日、“チクン”とする筋肉注射をやってきた。また、風邪やインフルエンザの予防にと、今頃の季節になると手洗いやうがいを励行するようになった。我ながら殊勝な心がけだと自画自賛している。
ところで、今年はヨーロッパで鳥インフルエンザの発症が確認されて、ヒトからヒトへ感染する「新型インフルエンザ」の大流行が危惧されている。テレビでも大流行を意味するパンデミック(pandemic)が頻繁に登場するようになってきた。また、「新型インフルエンザ」に効果があるとされている「タミフル」の備蓄が脚光を浴び、都道府県別の備蓄量が新聞で報道されたりもしている。
一方、経済への影響を懸念する声もあり、「ヒトからヒトへ感染して、6ヶ月間流行すると、日本の名目国内総生産(GDP)は前年に比べ、6768億円、0.14%押し下げられる」との第一生命経済研究所の試算もある(2005年11月14日、日刊工業新聞)。いずれにしても、新型インフルエンザが世界的規模で大流行すると、一時騒がれたサーズどころの騒ぎでないことははっきりしている。
厚生労働省のホームページに掲載されている「新型インフルエンザ対策関連情報」によれば(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/)、これまでにも新型インフルエンザウィルスが出現して大流行したのが前世紀だけで4回あるそうだ。1918年(大正7年)の「スペインかぜ」、それから約40年後の1957年(昭和32年)の「アジアかぜ」、1968年(昭和43年)に「香港かぜ」、そして1977年(昭和52年)の「ソ連かぜ」である。中でも、「スペインかぜ」は全世界で猛威を振るい、約4,000万人が死亡したとある(日本でも約39万人が死亡)。すごい数だ。
では、今危惧されている「新型インフルエンザ」の場合は、どの程度の発症者数で何人ぐらいが亡くなると予想されているのだろうか。さきの厚生労働省の情報によれば、人口の約1/4が感染すると予想している。つまり約3,000万人が罹患発症することになる。主治医のT先生に頂いた綜合臨牀(2005.2/Vol.54/No.2)の抜粋、菅谷憲夫氏(神奈川県警友会けいゆう病院 小児科部長)による「日本の新型インフルエンザ対策」のレポートでも、同様の予測をしている。
また菅谷氏は、1957年に流行したアジアかぜによるイギリスでの致死率が0.1%から0.3%であったことを示し、今回も同程度だとすれば高くみて9万人の死亡者が出ると予測している。世界で想定すると、15億人が発症し、450万人の死亡が予測されることになる。これはただごとではない。
現時点での発症状況はどうであろうか。NHKのニュースによれば、鳥インフルエンザによる死亡者数は、11月末現在、ベトナムを最多として東南アジアの5カ国で69人を数えている。亡くなった方には申し訳ないが、幸いなことにまだ爆発的な流行には至っていない。しかし、ヒトに感染するようになると「鳥インフルエンザウィルス」がヒトの体内で突然変異し、ヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザウィルス(以下、新型ウィルスと表す)になる危険性が心配されている。
新型ウィルスへの変異の仕組みは外にもあり、ヒトの体内と同じように鳥の体内での突然変異や、ヒトやブタに「ヒトのインフルエンザウィルス」と「鳥インフルエンザウィルス」が同時に感染し、混ざり合って新型ウィルスに変異する可能性も指摘されている(厚生労働省の「新型インフルエンザ対策関連情報」)。
どの仕組みで変異するにしろ、世界中に鳥インフルエンザを運ぶのが空を自由に飛べる渡り鳥だけに、水際で防ぐことは不可能だ。国境を持たない渡り鳥は豊かな自然環境のシンボルであるが、こと「新型インフルエンザ」に関しては何とも厄介な運び屋だ。
「サーズと同じように大流行には至らない」という意見もあるようだが、最低限の対策を採っておくに越したことがない。心構えとしても、「パンデミックはあるもの」としておいた方が無難だ。その上で、外出後の“手洗い”と“うがい”を励行し、マスクを愛用するのが我が身を守る最低限の防疫手段のようだ。そして、呉々も深酒などしないで、睡眠を十分とり体力をつけておくことが肝要だ。 |