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『感動をあなたに』

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   20050610

 日本男子の軟弱性が話題に上り、家庭における亭主の地位低下が叫ばれ、男としてやや肩身の狭さを感じていたところに、胸のすくようなニュースが飛び込んできた。しかも二人がほぼ同時に快挙を成し遂げたというニュースだ。二人とも年金受給資格があるほどのご高齢だが、やってくれたのは世界的な記録達成だ。
 高齢者の元気な日本男子といえば、2年前にも世界的な快挙を成し遂げた超熟年(?)がいたことを覚えていることだろう。プロスキーヤーの三浦雄一郎氏が70歳でエベレスト登頂の世界最高齢記録を樹立したというものだ。このニュースを聞いたときもその超人ぶりにビックリしたものだが、今回もこれに勝るとも劣らない快挙だ。三浦氏は山の上だったが、二人は海の上での大冒険だ。
 まず一人目は、ヨットの単独無寄港世界一周航海に挑戦していた斉藤実氏が、6月6日、233日ぶりに神奈川県三浦市に帰港し、単独無寄港での世界最高齢記録を達成したというものだ。斉藤氏は、三浦雄一郎氏を更に1歳上回る71歳の高齢でギネスブックに名を残すというすごいことをやってくれた。2年前に三浦氏が記録達成をした直後、そのチャレンジ精神とインタビューに答える若々しさに驚嘆したものだが、斉藤氏もその体力といい精神力といいとても70歳を越す高齢だとは思えない。恐るべき70代だ。
 もう一人、あの「太平洋ひとりぼっち」で名を馳せた堀江謙一氏が、6月7日、東回りの単独無寄港世界一周を成功させ、これまで成功させている西回りの航海と合わせて、東西両回りでの単独無寄港世界一周を成し遂げた。東西両コースでの成功は、オーストラリアのヨットマンに続き世界で二人目の快挙だという。これもすごいことだ。御年66歳である。堀江氏より10歳も若いのに、“腰が痛い”、“体力が衰えた”、“記憶容量が減ってきた”とぼやいてばかりの我が身が恥ずかしい。

 三浦氏も含めお三方の老人パワーには、ただただ敬服するのみだ。スーパー老人三人に共通するのは、高齢者であるということの他に、いずれも常人では成し得ない死と背中合わせの大冒険を成し遂げたという点だ。冒険には予想できない艱難辛苦を乗り超えていく“体力”も“卓越した精神力”も求められるが、彼らにはそれが備わっているのだ。だからこそ快挙を成し遂げ、人に感動を与えることが出来るのだ。その姿が冒険好きにはたまらない。
 冒険好きにたまらないと言えば、皆さんに是非読んでもらいたい本がある。必ず感動を覚えるはずだ。

 皆さんは、「何で俺だけが……」とか「死ぬほどつらい思いをしているのに何で……」とか、あるいは「万策尽きた。もうだめだ……」などと思ったことはないだろうか? かく言う私もそうであるが、人は困難や苦悩に遭遇するととかくそう思いがちである。しかしながら、そう思った瞬間から精神的ストレスは加速度的に増え、そして、努力をすれば乗り越えられる障害なのに途中で諦めてしまうのである。忍耐(不屈の精神力)が足りないのだ。忍耐、特に長期にわたる苦痛や困難に辛抱強く耐えることを英語でEndurance というが、まさにこの言葉がタイトルになった本がある。今から約90年前の1914年に探検家シャクルトンを隊長に南極大陸横断に挑戦した英国探検隊28名の漂流記録である。
 氷により船が閉じ込められやがて沈没、その後襲い掛かる幾多の苦難を乗り越え、乗組員28名全員が無事生還するまでの17ヶ月に及ぶ漂流を扱ったノンフィクションで、日本語訳では「エンデュアランス号漂流」(アルフレッド・ランシング著、新潮文庫)として出版されている。本文中には、枚数は少ないが実際の写真や隊員の画家が描いたスケッチもあり、臨場感抜群である。特に、氷に押しつぶされ沈没していくエンデュアランス号を見つめる犬たちを撮った写真は、それまで以上に過酷な運命を予見させ胸が熱くなる。読み終わったときには、覚めやらぬ感動と知らず知らずのうちに沸き上がる勇気を実感できるはずである。
 シャクルトンは、彼の冒険そのものが失敗に終わったにも拘らず、有名なアムンゼンやスコットを差し置いて南極大陸最高の探険家と言われている。それは、彼の統率力と人命第一の考え方、そして何よりその時々の的確な判断により乗員全員を無事帰還させたその危機管理能力・人間性が高く評価されているからである。
 帯には1996年カムチャッカで熊に襲われて亡くなった写真家星野道夫氏の愛読書と書いてある。過酷で絶望的な極寒の地に自ら身をおいた者だからこそ、その不屈の精神力に共感し人一倍感動したのだろう。しかし、星野氏ならずともこれを読んで感動しない人もいないはずだ。とにかく読んでもらいたい。そして28名の勇気と不屈の精神力を少しでも分け与えてもらい、勇気・元気・やる気の3Kを出してこの荒海を乗り切っていこうではないか。なお、ヨットレースで遭難し一人で漂流、生還した手記「たった一人の生還」(佐野三治著、新潮文庫)もお薦めの一冊である。

【文責:知取気亭主人】

エンデュアランス号漂流』 
【著】ランシング,アルフレッド
    〈Lansing,Alfred〉
【訳】山本 光伸


出版社】:新潮社
【ISBN】:4102222219 (2001-07-01出版)
【ページ】:466p (
15cm)
【本体価格】:\820(税込)

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