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また痛ましい事件が発生した。よくもまあこれだけ悲惨な事件が続発するものだ。特に同じ15歳の少年が起こしたとされる二件は、両親と兄という最も愛すべき肉親を手に掛けた事件だけに、子を持つ親として人ごとでは済まされない。なぜ止められなかったのだろうか。犯罪の多発や凶悪化、低年齢化が叫ばれて久しいが、残念ながらついに来るところまで来てしまったような気がする。家族の瓦解、日本社会瓦解の予兆なのだろうか。
最近の子どもはキレやすくなったという。いや、良く考えれば子どもだけではない。幼い子どもを虐待する若い親が後を絶たないことを考えれば、大人も簡単にキレるようになってきた。食生活の西洋化が進み肉食が増えたせいだとか、暴力シーンの多いテレビ番組のせいだとか、テレビゲームのせいだとか、核家族化のせいだとか、キレる原因はいろいろ取り沙汰されている。確かに『そのとおり』と頷けるものもあるが何かが違う。何故だろう。
実は、聞こえてくるのが「キレる原因」を探す議論ばかりで、「どうやったらキレなくなるのだろうか」の議論が聞こえてこないのだ。事件が発生すればメディアは視聴者の興味をそそることに神経を集中させ「事件の背景や事の顛末」を報道するだけで、「どのようにしたらこのような事件を防ぐことが出来ただろうか」に焦点を当てることは殆どない。やはりこれではいけない。そこで、「どのようにしたら家族の瓦解を防ぐことが出来るか」、大記録を達成した野茂選手に登場願って私の持論を展開してみたいと思う。
6月28日(日本時間)、野茂選手は日米通算201勝目を挙げた。凄いことだ。パイオニアとして大リーグへの道を開き、多くの日本人選手に大リーガーになることが夢でないことを自ら活躍することで示してくれた。二度もノーヒットノーランを記録する輝かしい戦歴の一方で、解雇や手術など選手生命を危ぶまれた時期もあった。しかし、これを見事に克服し今日の金字塔を打ち立てた。陸上や水泳競技のようにその時一時の記録ではない。一つ一つ積み重ねた記録だ。何故彼は、幾多の苦労を乗り越え栄光をつかむことが出来たのだろうか。
『野球が好きだから』
確かに好きでなければ続けることは出来ないだろう。しかし、何故そんなに好きになったのだろうか。好きになる理由が、あるいはプロセスがあったはずだ。
『自己実現への欲求が人一倍強いからだ』
確かにそうだ。だからこそ途中で投げ出さないでやってこられたのだ。では、何故それだけ自己実現への欲求が強いのだろうか。
野茂選手は、心理学者マズローが唱えた「基本欲求5段階説」のうち自己実現を除く四つの欲求がすべて満たされているのに違いない。マズローは、人間の基本的欲求を五つの階層に分け下位の階層が満たされれば次の上位の欲求が出てくるという。
一つ目は@生理的欲求で、食欲とか睡眠欲とか、生きていたいという本能的欲求だ。この欲求が満たされると次の階層は、危険にさらされないで安全と安定を求めるA安全の欲求だ。特に子どもが小さなときには、なんとしてでも満たしてやらなければならない欲求だ。最近の幼児虐待を始めとする家庭内暴力は、この基本となる下位の欲求を踏みにじる最も卑劣なものだ。動物でさえ持つ親としての最低限の義務も、最近では放棄する日本人が増えてきた。嘆かわしいことだが、その親もこれから述べる欲求を満たされないで育てられた被害者の一人に違いない。
三番目の欲求は、「集団や社会に所属し適合し、他者との愛情や友情を充足したい」というB所属と愛の欲求だ。平たく言えば、親に愛されたい、家族に愛されたい、人に愛されたいという欲求だ。「たとえ外でクタクタに疲れていようとも家に帰れば、僕のことを、私のことを、受け止めてくれる。分かってくれる」、この安心感があればこそ安心して外で頑張れるのだ。これは、大人も子どもも、男も女も同じだ。『お前がいてくれてよかったよ』とか『あなたと一緒で嬉しい』など“あなたの存在そのものが嬉しい”というメッセージを伝えることが重要だ。例え調子が悪くても野茂選手を放出しないデビルレイズのチームや監督は、この欲求を十二分に満たしてくれているのに違いない。
その次は、「必要とされたいとか尊敬されたい、認められたい」というC承認欲求だ。思春期のときに一人前の大人として扱ってくれない親に対する反抗は、このあたりの欲求が満たされないことによる。必要とされることは
自己の存在に自信を持つことに繋がる。自信を重ね欲求を満足させていくことは、健全な親離れに必要不可欠なことだ。仕事へのモチベーションを高め、それを維持していくためにもこの欲求を満足させることが大事だ。『すごいね』とか『さすがだね』、『頑張ったね』、『有り難う』といった声掛けが欲求を満足させてくれる。必要とされているからこそ、どんな苦労にも耐えることができるのだ。野茂選手に関して言えば、先発ローテーションをきっちり守り使い続ける監督は、「君はチームにとって必要な選手だ」のメッセージを明確に伝えていることになる。
家族の瓦解を防ぐためには、全員がこの@からCまでの欲求を満足することが重要だ。仮にB所属と愛の欲求が満足できないと、根本的な満足は得られないのに物欲でこれを満たそうとする。また、C承認欲求が満たされないと、注意を自分に向けるために反抗的になったり、自信をなくして落ち込んでしまったりすることになる。そうならないためには、繰り返しになるが、“あなたの存在そのものが嬉しい”や“私たち、私にはあなたが必要だ”を伝えることが大切だ。それは決して難しいことではない。家族であれば誰にでも感謝の気持ちで接し、「有り難う」の言葉を基本にコミュニケーションをとればいいのだ。とにかく@、Aは当然のこととして、大人も子どももBとCの欲求が満足できれば家族の瓦解はありえない。大人も気持ちよく仕事に、家事に、育児に取り組めることが出来、子どもは素直に躾を受け入れるはずだ。
いずれにしても@〜Cが満たされれば、最後の「自己の能力を信じ、自分の夢や目標を実現させたい」というD自己実現の欲求も顕在化してくるはずだ。古代ギリシャの哲学者ターレスは、「この世で一番楽しいことは目的を遂げること」と看破した。正にその通りだ。人として生まれてきたからには、野茂選手のように自己実現の気持ちを強く持ち、家族や仲間から祝福されるような金字塔を打ち立てたいものだ。時には自分自身を褒めてやることもいいが、やはり家族や仲間を褒め、この世で一番楽しいことが出来るための基礎を磐石とするコミュニケーションが幸せに通じる近道だ。 |