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『鯉のぼり』

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   2005年 05月 06日

 爽やかな季節になってきた。冬枯れしていた野山も新緑の季節を迎え、コブシ、山桜と山を賑わしてくれた春告げ花の役目も終わり新緑がまばゆいばかりに輝きだした。私の田舎、お茶所静岡では新芽の絨毯が美しい。丁度5月上旬の今頃になるとお茶摘みの季節が到来し、小・中学校の授業中にほのかに漂ってきた“新茶を蒸むすあの香しい匂い”が懐かしく思い出される。茶所ではない方々には「あの香ばしい……」と書かれてもどんな匂いか想像もできないだろうが、新茶を煎れた時の匂いをもっと強くした匂いと思っていただきたい。お届けできないのが残念だが、私の大好きな匂いのひとつだ。

 静岡(遠州地方だけかもしれない)には、新茶の頃の若葉の様子を言い表した静岡ならではの方言がある。今住んでいる金沢では残念ながら外国語と同じ扱いになってしまうが、「みるい」という表現だ。お茶を生産している従兄弟の話によれば、お茶のみる芽(くるくると巻いている開く前の葉を指す)から発展した言葉だそうだ。「みずみずしくて柔らかいさま、若々しいさま」を表しているが、お茶に限らず今の季節の若葉には本当にぴったりくる。「若葉の様子を言い表すこれ以上の日本語はない」と内心思っている。
 その“みるい若葉”を背景に、気持ちよさそうに風に吹かれて泳ぐ色鮮やかな一団がある。鯉のぼりだ。昔はそこかしこで見られた風景だが、今では土地に余裕のあるお宅か、田舎でしかお目にかかれない。しかも比較的住宅事情の良い金沢でも、マンションやアパートのベランダに飾られたミニセットの鯉のぼりを時々目にすることができるが、辺りにはばかることなく泳ぐ優雅な鯉のぼりを見るためには郊外に出ないといけなくなってきた。こんな地方都市からも春の風物詩がまた1つ消えようとしている。寂しい限りだ。ところが一方で、四国の仁淀川に代表されるように何百という鯉のぼりを泳がせているところもある。テレビで見たことがあるがまことに壮大な眺めで、まさに鯉の滝登りそのものだ。写真は田舎の近くで飾られていたもので仁淀川の大集団には及びもつかないが、やはり集団で泳ぐさまは見ていても楽しくなってしまう。

 

 

 
新芽の絨毯
        
       

 
集団で泳ぐこいのぼり


 鯉のぼりは、武士が飾った「馬印」や「幟(のぼり)」に対抗して江戸時代中期になって町人が飾ったのが始まりで、その由来は遠く中国の戦国時代(紀元前403年〜前221年)まで遡ることができるようだ。インターネットで調べた端午の節句のいわれと由来には、楚の国の政治家・詩人として知られた屈原(くつげん)が身を投げた5月5日の命日に行われた供養が中国の年中行事になり、やがて日本にも伝わり今日の形になったと説明されている。そのほか、「もともと端午は“月の始め(端)の午(うま)の日”という意味で、5月5日にかぎったものではなかったが午と5が同じ音なので5月5日になった」という説もあるようだ。(http://www.kougetsu.co.jp/tango-iware.htm

 いずれにしても子供が元気に育つようにという親たちの願いが込められていて、子供の数だけ小さい鯉のぼりを飾り祝ったものだ。我が家は四人の子供がいるため、一時は六匹の鯉のぼりを飾っていた。飾る場所が狭かったため、我が家をはじめとしてお隣の屋根や壁、さらには借家の庭に植えられていた柿ノ木に尻尾が当たり、ささくれ立てしまったのを思い出す。早いもので今からもう20年近くも前の話だ。尻尾がささくれ立ってしまうほど飾る場所は狭かったが、相当にぎやかな鯉の家族だったはずだ。当時を振り返ってみれば、我が家は他の家庭に比べると多少多かったようだ。しかし、私の回りでは親子四匹以上の家庭が結構あった。そんな当時と比べるべくもないが、最近ではお隣の中国と同じように日本でも一人っ子の家庭が増えている。それを象徴するような話題を目にした。

 首相官邸に親子三匹の鯉のぼりが飾られたというものだ。せめて男子と女子の二匹、計四匹で飾ればよいものを、官邸職員は「今の日本の家族構成からすれば子どもの鯉のぼりは一匹でいいだろう」と判断してしまったのだろう。まさか職員の家族構成に合わせたわけでもあるまいが、少し前までは四人家族を標準的な家族構成として子供の教育費をはじめとする家庭の支出や可処分所得の試算が行われていたのに、いまや三人が標準的な家族構成になってしまったのだろうか。『すると我が家は標準外か!』。
 それにしても、『ちょっと少なすぎやしませんか』と言いたい気分だ。小泉首相も今回に限り私と同じ考えだったようで、『子どもはやはり三人ぐらいいないとな!』と一言言ったとか。そのお陰で、「愛地球博の弁当事件」と同じようにすばやい対応がみられ、寂しかった官邸の鯉のぼり家族も瞬く間に二匹増え五匹家族になった(朝日新聞)。少子高齢化が加速している現状を鯉のぼりが変えてくれるはずもないし、老人ばかりが目立つ我が団地の年齢構成をグッと若返らせてくれることもないが、せめて若葉の中で泳ぐ家族は賑やかであってほしいものだ。

【文責:知取気亭主人】

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