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名前の付け方は難しい。自分の子どもをはじめ、ペットや商品などの名前を考えるのは、楽しみである反面本当に悩むものだ。特に子どもの名前に関しては、産みの苦しみを味わった人も多いだろう。しかも、親が苦労して良かれと思い付けた名前でも、「もう少し呼びやすい名前がいいな」とか、「もう少し書きやすい字がいいな」と内心思っている子どもが結構多いのではないだろうか。
かく言う私も自分の名前があまり好きではない。母も私のそんな気持ちを感じ取ったのか、80を過ぎてから『もう少し良い名前を付けてやれば良かった』と時折悔やむようになってきた。母の話では、私の名前は生まれ故郷の教養人に付けてもらったらしい。他人が名付け親だとすると、落語の「寿限無(じゅげむ)」と一緒だ。昔は、私や寿限無にみられるように、名付け親と呼ばれる人に命名してもらった子どもが結構いたようだ。やはり昔から子どもの名付けには苦労していたとみえる。
子どもは自分で名前を付けることができない分、親は先々のことを考えて付けてやらないといけない。私などは多少遊び心を入れた名前が好きなのだが、人の名前に落語のような名前は付けられないし、子どもが成長したときに叱られそうだ。
我が家の子どもたちには、その辺のところを重々考えて付けたつもりだが、本人たちはどう思っているのかまだ直接聞いたことがない。ただ、以前妻が聞いたところによると、四人中三人までもが「読み方が分からない」と先生や友達に言われたことがあるそうだ。口には出さないが、『親父のやつもっと良い名前を付けてくれれば良かったのに!』と多少不満を持っているのかもしれない。
ところで、子どもの名前ではないが、私が命名した中で唯一『失敗したな』と思っている名前がある。何を隠そう「知取気亭」だ。今思えば、読み方も分からないような名前より、「ほろ酔い亭」のほうが私らしくて似合っているように思えてならない。いずれは……、と秘かに思っている。
人や商品の名前は、知名度が上がるとブランド力を持つようになる。そして、ブランド力が強大になるとその名前が一人歩きするようになる。例えば、「味の素」や「ジープ」、「ウォークマン」さらには「宅急便」などは、元々一社の商品に付けられた名前だったにも拘らず、テレビやカメラなどと同様に、消費者は同じような機能やサービスの他社商品も含めてそう呼ぶようになる。
これらのブランドが強大になった原動力は、商品競争力があり、しかもこれまでにない商品だったことは言うまでもないが、名前が果たした役割も大きい。呼びやすく、親しみやすく、印象に残る斬新な名前がブランド力には不可欠だ。最近ではトヨタの“レクサス”がアメリカから逆上陸し、日本での高級ブランド戦略として注目の的になっている。
このように、名前から商品がイメージされるようになるともうかなりのブランド力を持っていることなり、逆に言えば「どんな商品かイメージできるようなネーミング」がブランド戦略としても重要だと言うことだ。そういった名前を付けるには、豊かな発想力もさることながら、遊び心も重要な要素だといえる。
最近、そんな遊び心に溢れた名前に二度も出会うことが出来た。しかも一つは、市場に流通する商品ではなく純粋な研究分野での名前だ。とかくお堅いイメージのあった大学の研究室も、この名前を聞いてぐっと身近なものになった。
筑波大学の岡本典子さんと井上勲教授が和歌山県と福岡県の砂浜で、植物の先祖が太古に歩んだ進化の過程を再現しているのではないかと思われる不思議な単細胞生物を見つけ、これに大変ユニークな名前を付けた。100分の3ミリ程度の大きさの鞭毛虫(鞭毛を動かして移動する原生動物で、植物性鞭毛虫類、動物性鞭毛虫類に大別されている:広辞苑)の一種で、動物のように緑藻を食べ、食べた藻は細胞内で共生して植物のように光合成を始めるという(2005年10月14日、朝日新聞朝刊)。何とも不思議な生物だ。この不思議な生物に付けた名前が良い。「ハテナ」だ。発見した生物もユニークだが名前もユニークで、一度聞いたら忘れられない。発見したときのお二人の“素直な心情”と“遊び心”が伝わってくる表彰ものの名前だ。こういったネーミングがブランド力を醸成する原動力になるのだろう。私にもほしい能力だ。
今一つは、市場に流通するれっきとした商品の名前だ。福井県の箸メーカーが、これまで廃棄されていた“プロ野球選手の折れたバット”を再利用して新たな商品を開発し、ユニークな名前を付けて売り出した(2005年10月26日、朝日新聞朝刊)。新聞には三種類の商品名が紹介されていたが、そのいずれもユニークだ。商品を企画した人たちの遊び心が垣間見えて、ほのぼのとした気分にさせてくれる。
それでは、“きっと人気商品になるだろうな”と思わせる商品の名前を紹介しよう。まず専門である箸の商品名は、「かっとばし」だ。傑作なネーミングだ。ただ、スピード感溢れる名前だけに、食事の所要時間が随分と短くなりそうだ。
グリップを加工して商品化された靴ベラは、「すべりこみ」と名付けられている。この商品名を聞いただけで、“靴に滑り込んでいく踵”を連想させる。靴ベラにピッタシの名前だ。残念ながら、こんなユニークな名前はアルコール漬けの私の頭では思いつかない。
三品目はボールペンだ。この名前もまた傑作だ。家内と娘に「ボールペンの商品名はなんだと思う」と質問してみたが、彼女たちが答える前にしびれを切らし解答を言ってしまった。それだけ言いたくてウズウズする商品名だ。そうだ、これを宿題としておこう。解答は次回のお楽しみだ。 |