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温井

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   2005年 5月 27

 昨年虚偽表示で揺れた温泉に関する法律が5月24日に改正・施行された。正確に言えば、今年の2月24日に「温泉法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、5月24日に施行されたのだ。“さあて、どんな風に変わったのかな”と改正項目を良く見てみると、「あるがままに表示しなさい」という至極当然な内容になっている。具体的には、従前の掲示項目に次の4項目を加えるように改正されている。
 

(1)

温泉に水を加えて公共の浴用に供する場合は、その旨及びその理由

(2)

温泉を加温して公共の浴用に供する場合は、その旨及びその理由

(3)

温泉を循環させて公共の浴用に供する場合は、その旨(ろ過を実施している場合は、その旨を含む。)及びその理由

(4)

温泉に入浴剤を加え、又は温泉を消毒して公共の浴用に供する場合は、当該入浴剤の名称又は消毒の方法及びその理由

 (1)は入浴するには温度が高すぎて水でうめているのだろうから、温泉としてはそんなに心配ない。まさか、湯量が少ないために“水を加え”、なおかつ(2)~(4)を全てやっている温泉もないだろう。しかし待てよ、そういえば我が家の近くにはタンクローリーで温泉の湯を運んでくる銭湯も確かあった。あの銭湯はなんて書いてあっただろうか。まさか“天然温泉”ではなかったと思うが……。
 (2)は「そんなもんだろう」と納得できる。(3)も何とか我慢が出来る。しかし、温泉騒動の発端となった(4)の「入浴剤を加える」については、温泉ファンを代表して言わせてもらえば、「加えてはならない」としてほしかったところだ。インターネットやパンフレットなどで事前に知ることができればまだしも、「入浴剤を加えています」がスッポンポンの格好で『さあ、入るぞ!』という段になってやっと表示されているようでは、「騙された!」という感覚を払拭することはできない。今や家庭でさえも、入浴剤を加え、湯船の広さや雰囲気、そして露天風呂から眺める景色の代わりに目に飛び込んでくるカビが描く摩訶不思議な模様さえ我慢すれば、全国の名湯を楽しむことができるのだ。その家庭での楽しみ方と同じ方法で、ある意味お客を騙すわけであるから、やはり許可すべきではない。
 また、昨年の新聞報道では、水道水を沸かしただけの温泉もあった。この手法を使えば、町の銭湯もたちまち温泉に早変わりしてしまう。呆れてものも言えないが、これなどは最も悪質で、詐欺罪に問われても仕方がない行為だ。今回の改正には、「水道水を沸かしただけの場合」については触れていないことから、少し安心しているところだ。

 ところで、皆さんは温泉の本来の意味をご存知だろうか。温泉とは「あたたかい(温)いずみ(泉)」と書く。したがって、本来は「湧き出ている温かい水(お湯)」のことを指し、「温泉法施行規則」が制定された昭和23年頃は、そのほとんどが本来の意味そのままに自然に湧き出ている温泉だったはずだ。ところがその後、ボーリング技術・機械の発達とともに、深い井戸の掘削が可能となって温泉が増え始め、竹下さんの「1億円ふるさと創生基金」の愚政もあって全国に温泉ブームが到来した。その結果、昭和20年代には考えられなかったような所にも温泉施設が開設され、今では何と東京にもある。勿論、井戸を掘って汲み上げているのだ。明治の開化時に温泉の効用を唱えたお雇いドイツ人のベルツも、東京に温泉があることを知れば、さぞビックリすることだろう。
 元々、地球は内部が熱くなっている為、地下深部に行くに従って地温は上昇し、これに接する地下水も必然的に高くなっていく。地下水の温度は一年間を通じてほぼ一定で、浅層地下水温はその地域の年平均気温とほぼ一緒だといわれている。中部地方では15℃前後といったところだろう。それがほぼ100m掘り下げていく毎に3℃上昇していく。例えば、1,000m掘って地下水が豊富にあれば、45℃の地下水を汲み上げることができる。1,500mでは60℃といった計算になる。したがって、深く掘り下げそこに豊富な地下水さえあれば、どこでも温泉(25℃以上を温泉と呼ぶ)を汲み上げることができるわけだ。しかも遊離炭酸をはじめとして19の物質のひとつでもその含有量を満足すれば「温泉」として認められる。当然のこととして、東京のような大都会の真ん中でも温泉を掘り当てることが出来るということになる。

 しかし、なんとなく釈然としない。私のようなひねくれ者には、人間の手で汲み上げたものを温泉と呼ぶことに抵抗があるのだ。いっそのこと、井戸を掘ってくみ上げている施設と本来の温泉とを区別したらどうだろうか。私としては、温井(おんせい)を推薦したい。響きもいいし意味も伝わりやすい。「ぬくい」とも読める。これだ! これからは温泉と温井をしっかりと区別して、ぬくい湯とゆったりとした時間、そして湯上がりのビールを楽しみたいものだ。

【文責:知取気亭主人】

『全国露天風呂の旅
自然を満喫できる露天風呂探訪 』        
【著】あすか企画
出版社】:昭文
【ISBN】:
4398110690(1984/05出版)
【ページ】:318p (19cm)
【販売価格】:\1,356(税込)

 

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