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『深海底はおいらのすみか』

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   2005年 2月 25日

 また、失敗をやらかしてしまった。第86話「チョコレートはどっちに向かって食べる?」を読んだ社内の読者から「少しおかしなところがありますよ」とご指摘をいただいた。本題に入る前にお詫びと訂正をさせていただきたい。
 「バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを送る習慣男性から女性にチョコレートを送るホワイトデーがあるのは日本だけらしい」という「日本だけの習慣」に関するところである。ご指摘によれば、お隣の韓国では日本以上に楽しんでいるというのである。添付してくれたインターネット・サイトを見てみると、日韓交流の成果がこんなところにもあるかとビックリしてしまうほど、確かに韓国の若者は日本発祥と思われる風習を楽しんでいるようだ。日本には無い「2月、3月にプレゼントをもらえなかった人が黒い服を着て真っ黒いスープの“チャジャンミョン”を食べる“ブラックデー”なる記念日」も設けられているとある。
 間違った情報を提供してしまったことを深くお詫びすると共に、該当文章の「日本」を「日本と韓国」に読み替えていただくことをお願いします。なお、詳しい実情については下記のサイトを参考にしてください。
  http://www.gift-club.net/maga/200402.html
  http://www.konest.com/culture/special/calender/no1040.htm
  http://www.page.sannet.ne.jp/kazukin/zeijya/white/white_13.html

 さて、今回の本題は前回に引き続き化石に関する話題だが、同じ化石でも「生きた化石」の話である。生きた化石と呼ばれる遺存種は、植物の身近なところでは “イチョウ”や世界最大級に成長するといわれる“メタセコイヤ”などがあり、動物でいえば天然記念物となっている“カブトガニ”や“ライチョウ”が思い浮かぶ。ゴキブリも入るだろう。
 これらの生きた化石はいずれも地上や浅い海底で今も見ることができる。しかし、今から紹介する生きた化石については、人間自身がその生存場所に行くことは最新の科学技術をもってしても不可能だ。魅惑の世界に引きずり込まれたジュール・ヴェルヌが描くあのネモ船長と潜水艦ノーチラス号海底二万海里、清水正和訳、福音館書店)でも難しそうだ。その場所とは、マリアナ海溝の水深約1万900b、千気圧を越す暗黒の深海底だ。この深海底にアメーバに近い原始的な単細胞の生物が多数生息していることを日英の研究チームが突き止めた(朝日新聞、2月4日朝刊)。
 深海無人探査機「かいこう」が2002年に採取した泥を分析した結果、硬い殻を持つ一般的な有孔虫と異なり、キチン質など柔らかい殻しか持たない原始的な有孔虫が多数いることが分かったのだ。殻が柔らかいと外敵に狙われやすいが、あまりにも過酷な環境のため外敵も少なく生き延びたのではないかとみられている。確かに過酷だ。こんなところには外敵などいるはずは無いと誰しも考えるが、ところがどっこい今回見つかった単細胞生物と同じように『深海底はおいらのすみかだい!』という驚愕の生物がいるのだ。

 「かいこう」による深海調査に参加した長沼毅の「深海生物学への招待」(NHKブックス)には、マリアナ海溝の世界最深部に達したときの様子を描いている章があり、「海底の映像を母船「よこすか」でモニターしていると、体を波打たせて泳ぐ数センチメートルのゴカイの仲間やえさに群がるヨコエビの仲間を見つけた」とある。その辺りを紹介しよう。

 『「かいこう」は世界最深部への着底記念プレート持っていった(碑銘はKAIKO 1995.3.24)。そのプレートを海底に置き、そして、なんと、隣にサバを並べ始めた。よりによって海洋学の記念碑の横にサバを置くかな、冴えないな、と思っていたら、サバに小生物が群れている。数センチくらいの端脚類(たんきゃくるい)(ヨコエビの類)だ。わずか三〇分くらいでサバの匂いでも感知して寄ってきたのだろうか』

 すごい生命力だ。まさに有孔虫の外敵になりそうだ。しかし、彼らもまた外敵から身を守るために『深海底はおいらのすみかだい!』と過酷な環境に適応してきているのだろう。やはり環境に適応したものが勝者になることは真理のようだ。暗黒、高圧の世界では、一体どんな生物が勝者になっているのだろうか。

 では、潜水艦に乗った気分になっていただき、この「深海生物学への招待」に収録されている“環境に適応した驚愕の生物”の中で私の好きな変わり種を紹介しよう。まず紹介するのは便秘や下痢の経験がない生物だ。「口も消化器官も肛門もない奇妙な深海生物“チューブワーム”」である。ゴカイの一種で、チューブの中にいる共生バクテリアから栄養をもらって生きている。そのバクテリアは、硫化水素やイオウなどをエネルギー源にして無機物から有機物を生産するというから驚きだ。
 次は、「深海の掃除機」と作者が呼んでいるナマコである。我々も磯でよく見かけるあのナマコだ。あのナマコ(種類は違う)が6500bの深海底にもいるというのだ。「しんかい6500」の試験潜行で「ピンクの子ブタ」とか「風船ブタ」と呼んだナマコを発見している。太ったタツノオトシゴに似た「ハナガサナマコ」や、突起が体のあちこちから出ている「センジュナマコ」の写真はどことなく愛嬌があり、思わず彼らの住む世界が過酷な環境であることを忘れてしまう。このような深海生物は、圧力に耐える「耐圧」と、圧力があった方が調子の良い「好圧」の二つの適応戦略を採っている。中には大気圧では増殖できず圧力が掛かって初めて増殖する「絶対好圧微生物」がいるらしいが、さしずめこのナマコもストレス大好き生物なのだろう。
 他にも沢山の生物が紹介されているが、とにかくいずれもユニークな生物ばかりで興味深い話題満載だ。写真がカラーでないのは残念だが、ネモ船長になったつもりで深海の世界を旅してみてはいかがだろうか。

【文責:知取気亭主人】

『深海生物学への招待』 NHKブックス
【著者】長沼 毅
 【出版社】:日本放送出版協会
 【ISBN】:
4140017759(1996/08/20出版)
 【ページ】:235p (19cm)
 【販売価格】:\966(税込)

 

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