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熱帯低気圧が地球的規模で猛威を振るっている。アメリカではジャズの都ニューオーリンズが大型ハリケーン「カトリーナ」により壊滅的な被害を受け、市街地の8割が冠水して48万住人の殆どが住み慣れた土地を離れた。まさに「ハリケーン難民」だ。8月29日の上陸から既に2週間が過ぎているのに、市街地の多くが水に浸かったままだ。数日前からやっとポンプによる水の汲み出しが始まったが、完全に汲み出されるにはまだ相当な時間がかかるとみられている。米軍やアメリカ連邦緊急事態管理庁(FEMA)などの予測では、完全排水には80日以上かかるとも、6ヶ月以上かかるとも言われている。このように冠水したままの地域が広いため、未だ死者の正確な数も把握できないでいる。下水道の冠水による水質汚染を始め、感染症の蔓延など環境の悪化も心配だ。
「カトリーナ」は上陸前から超大型ハリケーンと言われ、予想コースの地域にはメディアを通じて注意を喚起していたはずだが、予想以上の被害にアメリカ政府も戸惑いを隠せないでいる。経済損失は11兆円を超える見通しだという。しかも、世界一豊かとみられていたアメリカで被災直後から略奪が横行し治安が悪化していく映像は、世界にアメリカの恥部を知らしめる事となってしまった。さらにこのニューオーリンズの冠水は、アメリカの内包する矛盾「豊かさの中の貧困」を顕在化させ、政府の初動対応の遅さを指摘すると共に『これは人災だ』との声を大きくさせている。毎年どこかで台風や集中豪雨の被害を受けている日本としても、他人事ではない。一日も早い復興が待ち望まれる。
ところで、なぜニューオーリンズは冠水したのだろうか。ミシシッピー川とポンチャートレーン湖に挟まれる地域に発達した町は、市の約7割がいわゆる海抜0メートル地帯と言われる「海面より低い土地」で、輪中のように町をぐるりと囲む堤防が命綱だ。その堤防(ポンチャートレーン湖の堤防)が決壊したのが直接の原因とされている(2005年9月2日、朝日新聞朝刊)。
では、なぜ堤防は決壊したのだろうか。詳しい原因は、これからの調査結果を待つしかないが、同じ日の新聞に気になる記述があった。「ニューオーリンズの堤防と運河を組み合わせた治水システムは、水位が7メートル上がれば破綻することは分かっていた。こうした治水構造は改善すべきとの議論が長年あった」というものだ。一方、「今回の被害は、最高潮位8メートルという高潮により堤防が決壊した」という記事もある(2005年9月5日、YOMIURI ONLINE)。つまり、堤防の治水計画を超える高潮が堤防決壊の原因ということになる。しかも、その治水計画は「改善すべき」と指摘されていたのだ。加えるに、地下水の汲み上げなどによる地盤沈下が被害を拡大したと見られている。こういったことが真実だとすれば、『これは人災だ』との声が聞こえてきても不思議ではない。
「カトリーナ」や九州・四国や山口県に甚大な被害を与えた「台風14号」に見られるように、台風やハリケーンといった熱帯低気圧がこれまで以上に大型で強い勢力を保ったまま上陸するようになってきた。そのため、風や雨の被害が甚大だ。特に、強い雨が長時間続くようになってきた。「台風14号」によって貯水率0%だった四国の水がめ「早明浦(さめうら)ダム」がたった1日で、一気に100%になったことでも、豪雨のすさまじさが分かる。今回の台風14号は、宮崎県南郷村で降り始めからの雨量が1300mmを超えたのを筆頭に、各地で観測記録を更新する豪雨となった。ちなみに1300mmは、なんと関東地方の一年間の降雨量(1500mm程度)に匹敵する量である。
強い勢力を保ったまま上陸するともう一つ厄介なことが起こる。高潮だ。熱帯低気圧の中心気圧が低ければ低いほど海面は高くなる。そして日本では、台風の上陸が増える9月から10月にかけてが一年で一番潮位の高い時期に当たるのだそうだ。5000人を超す犠牲者を出した伊勢湾台風(1959年9月26日〜27日)は、豪雨と高潮の被害が甚大だったことで知られている。それでなくても、地球温暖化の影響で潮位の上昇が懸念されている昨今だ。「伊勢湾台風で観測された最高潮位を超える高潮が発生する可能性は益々高くなってきている」とみていいだろう。
しかも、日本にもニューオーリンズと同じような海抜0メートル地帯が大都市圏に広く分布し、例えば東京湾岸の江東デルタ地帯には300万人が集中しているのだ(2005年9月5日、YOMIURI ONLINE)。地盤沈下も進んでいる。仮に台風14号が東京湾岸に上陸したとすれば、これらの低地はひとたまりもなかっただろう。
そんなことを予測させる出来事が、14号が九州に上陸した僅か2日前、東京で発生した。9月4日夜から5日に降った集中豪雨により、都内で400軒を超える浸水被害が発生したのだ。原因は、4〜5時間で200mm以上と、短時間に降ったかなり激しい雨の影響によるものだ(2005年9月5日、YOMIURI ONLINE)。ただ、被害に遭われた方には申し訳ないが、台風14号が各地にもたらした豪雨に比べればはるかに少ない。この程度の雨で浸水被害が出るとは、いかに近代都市が自然災害に対して脆弱かが分かる。ニューオーリンズのことはやはり人事ではない。
地震対策もそうだが、これまで実施してきた豪雨対策の基本計画を見直す必要がすぐそこに迫ってきている。これからは、仮に水害が発生したとしても「想定外の豪雨」と言い逃れは出来ないだろう。ほとんどの国民が河川の流域に住む日本では、堤防の嵩上げなどによる安全な降雨量の引き上げと共に、「○○○mm以上降ったらこの河川は危険です」といった情報を開示し啓蒙していくことが重要だ。そして住民も、危険を承知で住むという覚悟が必要な時代といえよう。 |