|
昨年から今年にかけて自然科学、特に地学の分野で、大事件や興味深い出来事が相次いでいる。大事件といえば何といっても地震だろう。昨年後半に発生した大きな二つの地震が日本やインドネシア、インド洋沿岸諸国に深い爪痕を残している。
一方、興味深い出来事としては、化石の発掘や分析によって新たな発見が相次いだことだ。日本でも、昨年の四方山話第56話「化石」に書いたように石川県白峰村(当時、今は市町村合併で白山市となった)で、胴が長くて足が短い爬虫類の化石が発見された。ヘビ類の仲間の新種らしい。この発見により、ヘビの起源をめぐる「水中説」と「陸上説」論争に一石を投じることになるのではないかと専門家はみている。このように、たった一つの化石の発見によりこれまでの定説が覆されたり、諸説の論争に終止符を打つことも多い。あるいは、新たな論争の火種になることもある。今回はそんな夢のある話題を提供する。
まず、一つ目は中国・遼寧省で「恐竜を食べていたと見られる哺乳類の化石」が見つかったというニュースだ(朝日新聞、1月13日朝刊)。新聞には、「中生代白亜紀前期の約1億3千年前の地層から2種類の哺乳類の化石が発見され、胃のあたりからバラバラになった草食恐竜プシッタコサウルスの子どもの骨が見つかった」とある。胃の内容物も一緒に化石になってしまったようだ。完全に消化されていないところをみると、捕食直後に埋もれてしまったのではないだろうか。『食った、食った、腹一杯だ!』と満足したとたんに圧死したとすれば多少かわいそうな気もするが、この化石のお陰でまた一歩真実に近づくことができたはずだ。そう考えれば、彼(?)の死も報われるというものだ。
しかし、映画「ジュラシックパーク」で描かれていたあの恐ろしげな恐竜を、子どもの草食恐竜とはいえ我々の先祖となる哺乳類が食べていたとは驚きだ。しかも、1億年以上前の食事の痕跡がこんな形で残され、我々現代人に多くの夢とメッセージを届けてくれるなんて本当にすごいことだ。化石はやはり第1級のタイムカプセルである。
ところで、恐竜を食べていたとなると大きさが気になるところである。地上で暮らす哺乳類で肉食といえば、大きなものでは“北極熊”や“ライオン”、一休さんのとんち話で馴染み深い“トラ”がすぐ浮かぶ。小さなものでは、ライオンやトラが属するネコ科の中心動物“ネコ”が身近な存在だ。では、約1億3千年前の我らが祖先はどのくらいの大きさだったのだろうか。
写真をお見せできなくて残念だが、“北極熊”や“ライオン”、あるいは“トラ”ほどは 大きくなかったようだ。「大きさは大型犬並」とある。恐竜を食べていたイメージからするとやや小さい気もするが、大きさに関するこれまでの定説を覆す貴重な発見となった。「初めて地球上に現れた頃の哺乳類は、夜行性で大きさはネズミ程度と小さく、恐竜などの外敵に戦々恐々としながら虫などを食べていた」とされる定説を見事に覆してくれたのだ。「我々人間の先祖のことだ」と考えると、空想の世界ではあるけれど堂々と生きていた様子が目に浮かび、何となく嬉しくなってしまうニュースだ。
ところで、恐竜と哺乳類の骨格の違いをご存じだろうか。違いは肋骨の付き方にある。哺乳類の肋骨は胎生のためお腹のところまで肋骨は伸びていない。これに対して恐竜は、お腹のところまで伸びているのである。
次は鳥の祖先に関する話題だ。こちらも1億年以上前のタイムカプセルが掘り出されたというニュースが情報源だ。2004年10月14日の朝日新聞朝刊に、中国・遼寧省に分布する白亜紀前期の地層から「鳥類に特有の体を丸めた寝姿をとった肉食恐竜の新種の化石」が見つかったという記事が載った。「ほとんど脱臼しておらず、ほぼ生きていた時の姿勢のままと考えられる」とある。したがって、先ほどの哺乳類の化石は食事直後災難に遭ったと思われるが、こちらの鳥類の化石は寝たまま化石になってしまったようだ。
寝姿の化石とはどのような形か想像つくだろうか。新聞に掲載された写真を見るとおおよそ次のような格好で化石になっている。
時々ニュース映像として流れる「丹頂鶴が休んでいるときの姿」と「鳩などが抱卵している時の姿」を想像していただきたい。頭から胴体の格好は、丹頂鶴を参考にしよう。丹頂鶴は、長い首を後ろに曲げて羽と胴体の間に頭をつっこみ寝ている。ただ、片足立ちのまま休んでいるので、足は参考にならない。足の格好は、鳩などが抱卵の時にするように体の下に折り曲げている。要するに熱を奪われないために、体表面積がなるべく小さくなるようにしているのだ。このことから、この新種の化石はある程度の恒温性を進化させていた可能性があるとみられている。
鳥類の祖先と考えられているのはよく知られた始祖鳥で、鳥という字が使われているが、始祖鳥の化石には今の鳥にはみられない歯や爪のある三本の指があったりして、爬虫類に似たところが多く恐竜から進化したとする学説が有力だ。その爬虫類は皆さんご存じのとおり変温性の動物だ。一方、鳥類は恒温性だ。したがって、恐竜から鳥類へ進化していく過程のどこかで、恒温性の能力を身につけていったはずだ。今回の発見された新種の肉食恐竜の化石は、熱を奪われないための姿勢をとっていることから進化の研究に新たに道筋をつけた貴重な発見と言っていいだろう。
なお、化石ハンターを夢見る方々に、爬虫類と鳥類の違いをお教えしておこう。鳥類には必ずあって爬虫類には無いものがある。それは鎖骨だそうだ(冨田幸光著、恐竜たちの地球、岩波新書)。翼を動かすためにはどうしても必要なもので、左右の鎖骨が癒合した「癒合鎖骨(叉骨ともいう)がかならず鳥類には存在する」という。
|