早いもので、新しい年になって既にひと月が過ぎ、いつもなら南国から菜の花の便りが届く2月になった。しかし、昨年末から度々襲う寒波のせいで、例年に比べると時の経つのが遅く感じられ、春がもうそこまで来ているとはとても思えない。子供の頃習った唱歌「早春賦」(吉丸一昌作詞、中田章作曲)でも、「♪春は名のみの風の寒さや ……♪」と歌われているように、立春(2月4日)を過ぎ暦の上ではもう春なのに、日本列島はまだ冬真っ只中だ。
冬将軍が立春をあざ笑ったわけでもあるまいに、3日の夕方から南下した第1級の寒気により、立春当日の4日には、暖かい八丈島でも1946年以来60年ぶりとなる3センチの積雪を記録したという。寒いはずだ。北陸地方も厳しい冷え込みとなり、4日の金沢は日中の最高気温が氷点下の真冬日となった。雪の多い金沢だが真冬日となるのは滅多になく、それだけ今回の勢力が強かったということだ。路面は至る所で凍結し、各地でスリップによると思われる事故が相次いだ。
全国ニュースにもなったように、3日の夜には、富山県内の北陸自動車道でトラックや乗用車など61台が絡む事故が発生し、約16時間に亘って上下線が閉鎖された。運悪く我が社の車もこの事故に巻き込まれてしまった。幸い軽いケガで済みホッとしているところだが、車を運転される方は、今しばらくの間、路面凍結には十分気をつけていただきたい。
今冬は北極圏から吹き出す寒気の勢力が平年に比べ強力で、シベリアでは氷点下40度を超す激しい寒さに、大地も街も、そして何もかもが凍りついてしまっているようだ。一方、日本でも昨年末から度々南下する寒気により日本海側を中心に大雪をもたらし、除雪時の事故など雪よる被害が多発している。その上、今回のこの強烈な寒波に心も凍ってしまったのか、気分も寒々とするような事件が多発している。
姉歯建築士による耐震強度偽装事件が発覚し建築業界に激震が走ったと思ったら、ヒルズ族の申し子と見られていたライブドアのホリエモンが逮捕されたり、ビジネスホテルを全国展開する「東横イン」が身障者施設設置を偽装していることが発覚したり、さらには京都大学のアメリカンフットボール部員が集団強姦容疑で逮捕されたりと、昨年末から話題に事欠かない日々が続いている。しかも、楽しい話題はほとんど無く、『エ! ウソ!』と耳を疑いたくなる事件ばかりだ。
こうも道義に反するような事件が続くと、数年前、外国である人に言われた「民度」という言葉が頭について離れない。商社マンとして外国生活が長かったその人は、その国の「人民」の持つ文化の程度を「民度が高い」とか「民度が低い」と表現し、「諸外国に比べて日本人は民度
が高い」という意味のことを強調しておられた。しかしながら、最近のニュースを聞いていると、高いと思われていた「日本人の民度」もそれほど高くなく、かえって低いのではないかとさえ思えてしまう。特に、ビジネスホテルチェーン大手「東横イン」が犯した「身障者施設の不正改造事件」は、「地に落ちた日本人民度の典型」と言ってしまっては言い過ぎだろうか。
全国に122あるホテルのうち、77件で自治体による完了検査後に改造が行なわれ、約半数の60件で建築基準法やハートビル法などの法令違反があったと報じられている。偽装の内容は連日の報道で既にご存知だとは思うが、計画段階から偽装を画策していたその手口は詐欺商法そのものだし、「身障者に対する配慮は無駄なもの」とする考え方は身障者に対する冒涜だ。しかも、偽装が発覚してから行なった記者会見での社長の態度・発言がこれまたひどく、我が目、我が耳を疑ってしまった。反省の弁も謝罪の弁もない、同じ日本人として聞いているこちらが恥じ入ってしまうような愚かな内容だ。
彼が平均的な日本人だとは考えたくもないが、“高速道路のサービスエリア”や“店舗”などに設けられている車椅子用の駐車スペースに、堂々と、しかも悪びれることなく駐車している健常者のなんと多いことか。時々買い物にお付き合いをするマーケットでは、あまりの多さに腹立たしさを通り越しあきれ返ってしまう。そしてその度に日本人の「民度」の低さを思い知らされる。
しかしながら、目一杯ひいき目にみれば、まだ「民度が高い日本人」が一般的であるはずだから、何らかの原因で低くなったと考えるのが妥当だろう。そこでその原因を考えてみた。その結果、「“自分勝手ウィルス”に冒されている」という結論にたどり着いた。
この“自分勝手ウィルス”は、一旦かかると駆除するのが極めて困難だ。しかも時間を掛けて少しずつ脳を冒していくため、本人はもちろん周りも最初のうちはまず気付かない。このウィルスに感染し始めるのは、思いのほか早く幼稚園のころからだ。そして、小学校から高校にかけて本格的に感染し、高校を卒業するころには脳の多くが冒されてしまっていることになる。
日本の園舎や校舎の多くは、車椅子が自由に行き来できるようなスロープもエレベーターも無い。ましてやトイレも無い。必然的に、健常者は身障者から隔離される形で教育を受けることになる。健常者と身障者が一緒に生活しているのが社会であるのにも拘らず、別々に教育を受けるため、「民度」の基礎となる「思いやりの心」を醸成させるチャンスを失ってしまう。この「思いやりの心」が、実は“自分勝手ウィルス”のワクチンなのに、それが育っていないのだ。もちろん、家庭で躾を放棄してしまったことも、ウィルスを増殖させる大きな要因である。
つまり、日本人の「民度」を低くしているのは教育であり、家庭なのだ。もうこれ以上反道義的な事件を増やさないためには、今一度道徳教育を復活させるとともに、家庭でしっかりと躾をしていくことが重要だ。それが民度を高める確実な方法なのだ。
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