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『やったぜ!』

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2006年3月29日

 久しぶりに興奮した。子どもの頃ほど興味があるわけではないが、まさかの決勝進出、そして優勝とワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBCと表す)日本代表チームの活躍で、久々に野球に熱中し、テレビにかじりついてしまった。

 3回を終わり4対1と日本がリードしている状態で「これなら多分勝つだろう」と早々と勝利を決め込み、駅に娘を送るついでにと行きつけの床屋に行った。ところが、散髪してもらっている間に徐々にキューバが実力を出し始め、とうとう「6対5と一点差まで詰め寄った」というテレビの音声が聞こえてきた。試合としては手に汗握る一番面白い展開となっているのに、テレビの音だけというのはラジオと違って極めて不親切で、映像と一緒に聴かないと全くと言っていいほど緊迫感が伝わってこない。要するに、散髪をしてもらっている間中、気が気ではないのだ。
 散髪が終わったのが、9回表日本の攻撃、1点を加えまだワンアウト満塁、「代打福留」が告げられたときだ。散髪をしてもらっているときから耳をダンボにして聴いていた身にとって、この状況では帰るに帰れない。「韓国戦の再現があるはずだ。このチャンスを見逃しては一生の悔やみだ」とばかりに、お客も店員も無視して、我が家にいるごとく床屋のテレビ画面に見入ってしまった。そして、あのシーンだ。
 福留が2点タイムリーを打った瞬間に、店の中だということも忘れ、『よっしゃ!』と思わず叫んでしまった。左目の隅にギョッとして手を止めた店員の姿がチラッと映ったが、何をやっていたかは定かでない。ただ、背もたれが倒され、お客さんが寝かされていたのは確認できたから、ひょっとすると顔などを剃っていたのかも知れない。テレビの歓声が大きくて確かなことは言えないけれど、『イタイッ!』とか『ごめんなさい、どうしよう!』というような危険な発声は聞こえてこなかったような気がするから、多分何事もなかったとは思うが、最悪の場合、血の惨劇になるところだったのかも知れない。危ない、危ない。

 ともあれ、私と同じように、夢中になってテレビ観戦した人も多かったはずだ。決勝戦となった21日は春分の日で休み、しかもありがたいことに昼間の放送、なおかつ勝てば世界一ということもあって、多くの日本人がテレビの前で応援していたようだ。これを裏付けるように、瞬間視聴率は56.0%にもなったというから驚きだ。道理で、床屋への行き帰りの道がいつもに比べると人も車も極端に少なかったはずだ。もっとも、サッカーに例えればワールドカップの初代チャンピオンになったのと同じことだから、興奮するのは当然といえば当然のことなのかも知れない。しかも、多くの日本人が、トリノオリンピックでの不成績に鬱積していたモノを持っていたから尚更だ。
 また、日本人が苦手と言われる団体競技で世界一に輝いたのは、オリンピックで金メダルを取っているバレーボール (1964年東京大会と1976年モントリオール大会の女子、1972年のミュンヘン大会の男子) 以来、30年ぶりの快挙だ。王監督を始めコーチ、選手の皆さんに大きな拍手を送りたい。オメデトウ!

 ところで、出だしは今一盛り上がりに欠けたWBCであったが、選手以上に有名になった疑惑の審判がいたり、大本命といわれたアメリカが二次リーグで早々と敗退したりと話題も多く、そして何と言っても日本が初代チャンピオンに輝いたことで終盤にきて大いに盛り上がった。しかも、韓国に敗れた時点で二次リーグ敗退が濃厚になっていたのに、優勝の本命と目されていたアメリカがメキシコに敗れたお陰で、奇跡的に準決勝進出が決まった。「結果が出るまでは決して諦めてはいけない」をこれほど明確に体現してくれた出来事はない。

 今回のWBCは世界一決定戦と言われ、現役大リーガーが出身国別に別れて戦うため、大リーガーをたくさん擁するアメリカやプエルトリコ、あるいはドミニカ共和国などが本命と目されていた。ところが皮肉なことに、決勝戦に出場した選手の中で現役大リーガーは、イチローと大塚の二人だけだ。しかも、大リーガー出身者の全くいないキューバやたった二人の日本、そして中南米の国に比べて大リーガーの少ない韓国、これらの国での熱狂ぶりは、野球の母国を自認するアメリカの野球関係者にとって新鮮に映ったに違いない。
 そして、「野球母国のアメリカが抜きんでた力を持っている」と信じていたアメリカ国民も、実は各国の実力がさほど差がないことにも気づいたはずだ。そろそろ「ワールドシリーズ」と銘打ったアメリカ国内での大会も、「アメリカチャンピオンシリーズ」へと変更する時期が来ているのではないだろうか。そういう意味では、アメリカが危機感を持って望んで来るであろう3年後のWBCが、本当の意味で世界一決定戦にふさわしい大会になるのではないかと思っている。そのときまた、今回と同じような感動を味わいたいものだ。

【文責:知取気亭主人】

     


フキノトウ

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