今から丁度30年前の昭和51年、生まれて初めて四国の地を踏み、能登半島の山と違う急峻な地形と、山腹を縫うように走る道路の狭さにビックリしたことがあった。高知市から松山市に向かって国道33号線を走り、仁淀川の上流に建設された「大渡ダム」の手前で左手にそれ、国道439号線を少し入った所に「高知県吾川郡仁淀川町森」という集落がある。もう少し走ると愛媛県との県境という所で、仁淀川の支流、長者川に面する小さな集落だ。ここをベースに、足掛け一年に及び高知県を走り回り、冒頭の体験をした。
ダムが出来るくらいだから、周囲は山また山、しかも急峻だ。夜になると余分な明かりは見えず、夜空一面に広がる満天の星のそれは見事なこと。あまりの見事さに時を忘れて見入っていたことを、昨日のことのように覚えている。あんなにきれいな星空は、ここ暫く観たことがない。
そしてもう一つビックリしたことがある。夕方になり辺りが暗くなってくると、昼間見たときは何もないと思っていた周囲の山腹や山頂付近に、ポツリポツリと明かりらしきものが光り始めるのだ。『車のライトかな?』と思い、ジッと見ているが一向に動く気配はない。なんだろうと宿の人に聞くと、家の明かりだという。
説明によれば、『四国は平家の落人集落が多く、追っ手からの難を逃れるため身分の高い人ほど山の上に居を構え、それを守るように家来たちが低いところに住んだ』という。だから、『あんな所に!』と思うような不便な所にも家が建っているということらしい。ところが、車社会の現代では、身分の低かった人たちが便利になり、身分の高い人ほど不便になったのだという。
こういった不便な集落の多くは、働き手である若者が皆都会に出て行ってしまい、「限界集落」と呼ばれる半分以上がお年寄りの集落になり、やがて一人も住むものがいなくなって地図から消えていく危機にあるという。平家の落人が入植する前のように……。
「限界集落」とは、長野大学教授大野晃氏(高知大学名誉教授)が「65歳以上の高齢者の人口比率が50%を超した集落」に付けた名前で、50%を超すと道普請や冠婚葬祭に代表される共同体としての機能が急速に衰え、やがて消滅に向かっていくのだそうだ。そんな集落が全国に2千以上あるという(2006年3月28日、朝日新聞朝刊)。
その「限界集落」を扱った特集が、3月27日から3月31日の5日間に亘り「地方は 限界集落から」というタイトルで朝日新聞に連載された。その情報発信元は、四国山地のほぼ中央に位置する高知県大豊町で、御多分に洩れず、急峻な地形に張り付くように集落が点在している。この大豊町の集落に代表されるように、「限界集落」は交通の便が悪い山間地域、過疎地に圧倒的に多い。現金収入を得るための働く場所のない過疎地では、働き手となる若者が留まって共同体の機能を支えていくには、あまりにも過酷だ。
棚田を始めとして、日本の原風景を留める集落も多いのに違いないが、郷愁だけでは食べていけない。こういった過疎地を「限界集落」にしないためには、国家としての施策がどうしても必要だ。しかし、効果のある施策は見えてこない。そこで、環境政策にも効果のある次のような施策を考えてみた。合言葉は、『過疎地を救え!』だ。
過疎地に豊富にある森林に着目してみた。平成14年3月31日現在、日本全体での森林面積は約2,512万ヘクタール、特集の取材先である高知県の森林面積は約60万ヘクタールである(林野庁統計資料)。
ご存知のように森林は、地球温暖化ガスの二酸化炭素を吸収し炭素を貯蔵すると共に酸素を供給している。林野庁のデータによれば、日本の森林全体では年間1億トンの二酸化炭素を吸収するという(林野庁、森林・林業基本法制定の背景)。
一方、人間1人が呼吸により排出する二酸化炭素は、年間約320kgだそうだ。つまり、日本の人口を1億2千万人とすると、日本全体で年間約4千万トンも排出していることになる。それを吸収してくれているのが森林というわけだ。しかも、2.5年分も吸収してくれている。しかし、地球温暖化防止という観点からすると、それでも足りない。
そこで、京都議定書の削減目標(1990年の水準と比べて6%削減、そのうち3.9%を森林で削減する)を達成するために、今以上健康な森林を増やし、森林を維持管理する産業を育成できるようにしなければならない。そのための仕組みとして、森林保全のための新たな税金を作ることを提案したい。しかも、森林を消失した都会の人たちが納めた税金を、日本全体の環境保全のために、森林をたくさん保有してくれている地方に重く配分しようという税金だ。
乱暴かもしれないが、計算が簡単なように一人あたりの税金を年間1万円(1日約28円)とすると、日本全体では1兆2千億円の収入となる。これを、森林の面積率で配分するのだ。例えば、高知県は
60(ヘクタール) ÷
2512(ヘクタール) ≒ 0.024
12000(億円) × 0.024 ≒ 288(億円)
の税収が増えることになる。これを、森林の維持管理、過疎対策として使うのだ。名前を付けるとすれば、「森林税」がいいだろう。いずれにしても、過疎地から人がいなくなれば土地が荒れ、森林が荒れ、災害が増えることは必定だ。これらを防ぎ、手入れの行き届いた森林を維持管理していくためには、国家としての戦略が必要と考える。 |