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『子供を救え』

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2006年4月12日

  何ともいたたまれない記事を読んでしまった。2006年4月6日の毎日新聞朝刊に載っていた「家庭などで虐待を受けたとみられる子供」に関する記事だ。その衝撃的な内容に、私も妻も言葉を失ってしまった。確かに「幼児虐待のニュース」が時々紙面に登場していることは承知していたが、これほどまでに残酷な虐待があるとは思ってもみなかった。虐待を受けた子供たちの身体的な後遺症もさることながら、心に負った取り返しのつかない深い傷を考えるとやり切れない思いで一杯だ。

 新聞記事は、全国にある「肢体不自由児施設」、「重症心身障害児施設」、「肢体不自由児療護施設」に入所している子供たちを対象に、社会福祉法人・日本肢体不自由児協会が調査を行なった結果、虐待を受けていた入所者が270人もいたというものだ。270人の内訳を年齢別にみてみると、甘えたい盛り、可愛い盛りの6歳までの乳幼児が92人と34%を占め、最も多かったとある。
 また、複数回答による虐待内容では、@養育放棄が157人と最も多く、以下、A身体的虐待(144人)、B心理的虐待(16人)、C性的虐待(2人)と続く。中には、出生時には健常であったのに、虐待の後遺症で全身や手足の麻痺、視覚障害など身体障害が生じた子供が77人もいたとある。とても信じられない。「首を絞められて“低酸素脳症”から植物状態に近い全身の麻痺が生じた例もある」という記事に至っては、思わず顔をしかめてしまった。
 そして、虐待の加害者について書かれた記事の終盤を読んだとき、日本の中で何かが狂い始めていると感じずにはいられなかった。なんと加害者で最も多かったのは、実母だというのだ。複数回答による加害者は、@実母の183人、次いで、A実 父の88人、以下、B継父が9人、C継母の8人と続く。記事には書かれていなかったがこの他に兄弟などもいるのだろう。しかし、そのほとんどが普通であれば無条件に可愛がってくれるはずの実の親からの虐待とは、余りにも切な過ぎる。いくら虐待を招いた背景や要因に「子の病気や障害」、あるいは「養育者の精神疾患」などがあったとはいえ、許されることではない。しかも、虐待を受けながら施設に収容されないまま死に至ってしまったこれまでの多くの事件を考えると、収容されることなく虐待を受け続けている子供たちがまだたくさんいることと推測せざるを得ない。どこかで、何かの歯車が狂い始めている。

 きっと親自身が満たされていないのだろう。子供を育てる極意は、「乳児のときには肌を離すな幼児のときには手を離すな少年のときには目を離すな青年のときには心を離すな」であると聞いたことがある。虐待はそれとは正反対の行為だ。どうしてそんなことをしてしまうのだろうか。親の心にどんな病魔が入り込んだというのだろうか。私自身はその答えを持っているわけではない。しかしここに、あるものに焦点を当て、「入り込んだ病魔はなるほど、これか」と納得させられた本がある。京都医療少年院に勤務する精神科医岡田尊司氏による「脳内汚染」(文芸春秋)だ。タイトルも衝撃的だが、内容も衝撃的だ。

 帯には「子供部屋に侵入したゲーム、ネットという麻薬」と、過激なキャッチコピーが書かれている。随分前からゲームやネットが子供に与える影響が取り沙汰され、私自身も悪影響を危惧しゲームを禁じていたが、「麻薬と同じだ」と警告している本は初めて読んだ。ゲームやネットは薬物と同じように依存性が極めて高いのだという。

 本全体の内容は、子供のころにゲームやネット、あるいはテレビなどに熱中し長時間やり続けると、麻薬と同じように極めて高い依存性を示すようになると同時に、行動や感情のコントロールに深く関わり社会性をつかさどっている「前頭前野」に発達障害が生じ、問題行動を起こす子供や大人になる危険性が高い、というものだ。
 問題行動は、「子供の犯罪」や「子供への虐待」、あるいは「ひきこもり」など色々な形で顕在化してきているが、テレビやゲームなどの広がりと歩調を合わせるように、日本ばかりでなく、アメリカやカナダ、ヨーロッパなど世界各地で深刻な増加が報告されているという。また、「弱い存在への思いやりを失い、逆にそれを痛めつける傾向が、世界的なレベルで広がりを見せている」とも指摘している。
 そんな中で、岡田氏が本書の中で紹介しているレナード・イーオンとローウェル・ヒューズマンが行なった22年間に及ぶ追跡調査の結果が衝撃的だ。
 その部分を本書から引用すると、「8歳から30歳になるまでを追った結果、30歳での攻撃性の強さは、8歳の時点でどれだけテレビを見ていたかに大きく左右され、その後自らが父親や母親になったとき、テレビをあまり見ていなかった人に比べて子供をより激しく罰する傾向が見られた」というものだ。この調査結果が示すところは、岡田氏の言を借りれば「テレビの影響が大人より小さな子供を直撃しやすく、しかも、その影響は20年後にも及び、犯罪行為や子供を育てる態度にまで影を落とす」という、テレビをごく自然に見て育つ日本人にとって愕然とする事実だ。虐待加害者のほとんどがテレビを見て育った世代だということもうなずける。

 これ以上の歯車の狂いをくい止め、子どもたちを救うためには、テレビ、ゲーム、ネットといった映像メディアへの関わり方を真剣に考え直さなければならない。そういった意味では、子供や孫を持っている大人達に一日も早く「脳内汚染」を読んで頂きたい。手遅れになる前に!

【文責:知取気亭主人】

     
『脳内汚染』
【著者】岡田尊司

出版社】:文藝春秋
【ISBN】:
4163678409(2005/12)
【ページ】: 313 p
【サイズ】:
19x13(cm)
【本体価格】:\1,680
(税込)

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