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『似ている? 似ていない?』

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2006年5月24

 いよいよ6月9日からサッカーのワールドカップドイツ大会が始まる。暫くはこの話題で持ちきりだ。「優勝はやはり前評判の高いブラジルなのだろうか?」とか、「果たして日本は予選リーグを突破して決勝トーナメントに進むことができるのだろうか?」、あるいは「得点王はロナウドかな?」など、私も今から楽しみにしている。
 ところで気になる試合の時間だが、日程を調べてみると、全ての試合がドイツ時間の午後3時から午後9時の間に開始することになっている。ドイツと日本との時差が−7時間(開催期間中はサマータイム)あることを考えると、一番早い試合の開始時間が日本時間の夜10時、一番遅い試合の終了時間が朝の6時ぐらいとなり、全ての試合時間は多くの日本人がスヤスヤと眠りについている時間帯と重なってしまう。どうやらサッカー好きにとっては、睡魔との戦いを強いられる1ヶ月になりそうだ。それにしても、日本の初戦の日、12日(月曜日)が待ち遠しい。相手はオーストラリアだ。

 オーストラリアが出てきたところで、サッカーの話から大幅に脱線するが、お許し願いたい。皆さんは、このオーストラリアとオーストリアを聞き間違えた事がないだろうか。たとえ聞き間違えたことが無くても、確認のために聞き返した経験をお持ちの方はたくさんいるだろう。私もよくある。早口で言葉のはっきりしない相手や外国人の話を聞く場合は特に分かりにくい。原因は良く似た国名のためだ。
 前述のようにサッカーの話題で聞き間違える程度であれば笑い話で済ますことが出来るが、航空券購入の際にオーストラリアとオーストリアを間違えたりするととんでもないことになる。冬の古都ウィーンでの観劇が、真夏のカンガルーボクシング観戦に化けてしまう可能性もある。ことかように、似たような名前や形が原因で勘違いを犯すと、事と次第によっては手痛い失敗に繋がってしまうことがよくある。

 「後姿が似ているので知り合いだと思って声を掛けたら他人だった」などということもよく聞く話だ。しかし、こんな他愛もないことでも相手によっては面倒なことになってしまう。例えば、“奥さんに声を掛けたつもりが他人だった”場合を想像していただきたい。誠実なあなたは当然謝ることになる。そして、それを奥さんが見ていたとしよう。あなたは、『お前とあの人を間違えちゃったよ』と釈明する訳だが、間違えた相手が奥さんよりも少しでも若く見え、しかもスタイルが良ければ事なきを得ることは確実だ。しかし、誰が見ても年上に見え、スタイルも今一の場合にはあなたの安全は保障できない。危険な雰囲気がいつまで続くかは、一重にその後のサービス(?)如何によることになる。
 冗談はさておいて、特殊な場合には「人違い殺人」などになってしまう場合もある(確かそんな事件があったと記憶している)が、「人違い」の多くは笑い話で終わり病院の厄介になるようなことも殆どない。ところが、間違える対象が口に入れる食材になると話は別で、命に関わる大事になってしまう場合があり、笑い話では済まされない。

 先週、「北海道の主婦が、 “ニラ”と“スイセン”を間違えて食べたところ、嘔吐など食中毒の症状を示し病院に運ばれた」とのニュースを聞いた。原因は、自分の庭で栽培している“ニラ”と“スイセン”を間違えて、“スイセン卵とじ”にして食べてしまい、スイセンに含まれる毒に中ったのだという。確かに、植松黎の「毒草を食べてみた」(文春新書)によれば、スイセンは秋の彼岸の頃に“真っ赤な花”を咲かせるヒガンバナの親戚で、ヒガンバナと同様に毒(リコリンとシュウ酸カルシウム)を持ち、食べたときの症状はニュースと同じ「嘔吐」とある。やはり、間違えたというのは間違いなさそうだ(?)。
 しかしニュースを聞きながら、『ハテ? ニラとスイセンはそんなに似ていたかな?』と疑問を持ち始めてしまった。こうなると、もうやるしかない。奥さんにニラを使った料理をリクエストして、食べて安全なニラを買ってもらった。相対する悪役のスイセンを駐車場の片隅で子孫繁栄に励む元気な株から切り取り、並べて撮ったのが次の写真だ。

 

 並べ方の違いは無視していただくとして、右と左では明らかな違いがある。まず大きな違いは、写真ではお見せできないが、「左の葉の切り口からは粘り気のある糸を引く液体(これを樹液というのか、言わないのか残念ながら知識がない)が出てくるが、右の葉からは出てこない」ということだ。違いとしてはこれが一番大きい。
 その他、外見上の違いとして言えるのは、左の葉がやや薄くて半円ながら筒状になっているのに比べ、右の葉は平べったい(下の写真参照)。
 ただ私としては、どちらも見慣れているせいか、テレビのニュースで言っていた「素人では見分けが付かない」には、やや大きめな疑問符を付けたい。
 しかも、右からは「卵とじ」や「ギョーザ」などの料理のときに漂ってくるあの独特なにおいが強烈だ。

 もうお分かりのことと思うが、右が「ニラ」、左が「スイセン」だ。注意してみれば違いは沢山あるのに、意識していないとベテラン主婦でさえも間違えることがあるということだ。
 しかし、今回話題となったスイセンはまだ可愛いもので、我々の回りには「トリカブト」や「ドクゼリ」など、人間を死に至らしめるほどの毒をもつ恐ろしい植物がたくさんある。しかも、無毒の植物に似せたのではないかと思うほど、よく似た植物がある。

 第二次大戦中、日本の捕虜となった欧米人に牛蒡料理を出したところ、『日本軍は我々に木の根を食わせる』と言って苦情を申し立てたというが、確かに似ている。しかし、“食うに困ったときの勘違い”と、“モノが溢れている最近の勘違い”とでは、どこかが違う。最近の勘違いに、生きるために必要な知識や知恵の衰えが見えるのは私だけだろうか。

【文責:知取気亭主人】

     
 

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