今年も梅雨の季節がやってきた。北陸もつい先日「梅雨入り宣言」が出され、例年通りだとこれから7月半ば過ぎまで、ベトベトと湿気が肌にまとわり付くようなうっとうしい日々が続くことになる。ただこの時期の雨は確かにうっとうしいけれど、一方で “緑豊かな自然”や“米を中心とした食文化”を我々にもたらしてくれる有り難い恵みの雨でもある。酒米の山田錦も五百万石も、梅雨があるからこその何とも嬉しい贈り物だ。酒飲みはめったやたらに梅雨空を恨めしく思ってはいけない。
また、毎年のように日本のどこかで報じられる夏の水不足を予防するためにも、この時期にたっぷりと降ってくれることが必要だ。ところが皮肉なことに、それは同時に河川の氾濫や土砂災害など、集中豪雨による災害の危険性を高めることにも繋がってしまう。特に地球温暖化の影響により顕著になってきたといわれる「局地的豪雨の多発」や「集中豪雨の激化」などによって、その危険性は近年益々高くなってきている。今年も既に沖縄県で大雨による被害が発生しており、梅雨前線、台風、秋雨前線とこれから紅葉の季節まで、大雨情報に気を揉む長い半年間を過ごすことになる。
沖縄地方は、例年日本列島の中で一番早く梅雨入りするが、今年も平年(5月8日頃)よりもやや遅かったものの5月14日頃には早くも梅雨空になった。雨をもたらす梅雨前線は、梅雨入りし始めのころ一旦北上していたが再び南下して5月23日頃から沖縄近海に停滞し、その後6月15日まで20日間以上にもわたり強い雨を降らせた。この間の総雨量(那覇市で589o)は平年(同218.9o)の2倍以上に達し、テレビや新聞報道などで知っての通り沖縄本島を中心に各地で地すべりや地盤沈下などの土砂災害が発生した(国土交通省災害情報「沖縄県における大雨について(第1報)」)。
今回の沖縄県大雨災害もそうであるが、2004年7月中旬に新潟県中越地方や福井県を襲った集中豪雨災害にもみられるように、これまでの「1時間雨量」や「24時間雨量」、あるいは「降り始めから降り終わりまでの総雨量」などの記録を次々と塗り替える豪雨が多発し、日本各地に甚大な被害をもたらしている。特に、2000年9月に発生した名古屋市の新川堤防の決壊以来、大雨による河川の氾濫が急激に増えているような気がする。
このような河川の氾濫による被害は、瞬く間に広い地域に拡大していくため、地域住民の迅速な避難が必要である。しかしながら避難は往々にして遅れ、新潟県中越地方を襲った豪雨のときに、避難勧告・
指示の伝達が住民に行き渡らなかった地域があったことは記憶に新しい。そういった轍を二度と踏まないためにも、避難勧告・指示などの防災情報が速やかに伝達されるシステムの構築が必要だ。
ところがシステムが構築されたとしても、それを有効に運用していくためには、伝達される情報が土木技術者ではない住民にもすぐに理解できる「分かりやすい用語・表現」になっていることがどうしても必要なのだが、それがどうも怪しい。
同じ学部出身でも、学科が違うと専門用語はチンプンカンプンだ。ところが同じ専門分野に長く浸ってしまうと、「自分たちが所属する小さな村社会で通用する用語は一般の人たちにも当然のごとく通用するもの」、と思い込んでしまう。河川に関する用語も、我々の気付かないところでそうなっていたようだ。
国土交通省は“それではいけない”ということで「洪水等に関する防災用語改善検討会」を開催し、「洪水等に関する防災用語のあり方について(提言)」(平成18年6月8日)をまとめた。結論が出ているわけではないので実際の運用までには今しばらく掛かりそうだが、提言の中で示されている新しい表現(次表で、新(案)と表示)に比べ、現在使われている表現(同様に、旧と表示)はいかにも専門用語といった感が否めない。
そこで気になった用語を選び、家族に質問をしてみた。その結果が次の表だ。なお、新(案)の表現は伏せ、何の説明もせずに実施した。
洪水等に関する防災用語比較表

(「洪水等に関する防災用語のあり方について(提言)」(平成18年6月8日)を参考に知取気亭主人作成)
※ ○:分かる、△:自信ないけど多分分かる、×:分からない
結果を整理してがく然とした。この表を見ての通り、ほとんどの用語の意味が理解されず、「専門用語は一般市民にとって外国語と同じぐらい馴染みのないものだ」ということが良く分かる。しかも、広辞苑に説明が載っている用語でさえほんの僅かである。これでは分からなくても仕方がない。せめて辞書に載っている程度の用語にしなければ、避難行動はもちろんのこと、心の準備もおぼつかない。
やはり、人命や最低限の財産を守るために伝達される防災情報は、「耳で聞いても、目で見ても、すぐに理解できる分かりやすい用語・表現」にすべきである。そういった意味では、国土交通省の取り組みを多いに評価したい。そして、新しい防災用語・表現への速やかな移行を願っている。それにしても悲惨な結果だ!
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