今、私が注目するある二つの出来事を巡って、賛否両論が激しく戦わされている。一つは徳山工業高等専門学校(徳山高専)の女子学生殺害事件に関する「未成年の容疑者に対する報道のあり方について」であり、今ひとつは、「消費者金融会社のグレイゾーン金利を廃止するか存続させるか」についての議論だ。勿論それ以外にも、「首相の靖国神社参拝」を巡る賛否や消費税の増税など、外交・政治に関わる重要な問題についても熱い議論が戦わされてはいる。しかし、前述した二つの出来事に関する議論は、被害者と加害者、あるいは弱者と強者という全く立場が相反する両者に対して「どちらの権利を優先させるべきか」について戦わされている点で、その他の議論よりも興味を引かれる。
前者は、未成年者による事件が引き起こされるたびに、報道関係者や有識者の間で、あるいはテレビの娯楽番組の中で侃々諤々の議論がされてきた。一方後者についても、個人や地域間の格差が現実のものになり多重債務者が増え、加えて強引な取り立てによって自殺者が出るに及んで、国会でも廃止の方向で議論がされ始めた。どちらの場合も、弱者や被害者を守るという観点からすると、現行の法律を改正すべきだと思うのだが、なかなかこちらの思うとおりにすんなりと進んでいないのが現状だ。
徳山高専の事件に関しては、容疑者が死体で発見される前に実名と顔写真を掲載した「週刊新潮」の行為に対し、「少年法に照らし合わせて違法だ」と反対する声がある一方で、「次の犯罪を防ぎ、早く身柄を拘束する為には必要である」と賛同を示す意見もある。聞けば、容疑者はもうすぐ二十歳であったという。どちらの意見が正しいかは、いずれ司法の場で決着を付けることになるのであろうが、私は実名報道に賛成である。その持論を展開してみたい。
まず、「少なくとも18歳、19歳には、分別も自らの言動に責任を持つ能力も十分にある」というのが私の立場だ。そういった能力があると判断しているからこそ、一歩間違えば殺人凶器となる自動車の運転を成人と同じように許可しているのだろう。仮に少年法が定めるように「18歳、19歳も氏名、写真の公開に対して保護されるべきだ」とすれば、自動車の運転免許証を与えるべきではない。その点で、道路交通法と少年法は矛盾する基準を持っていることになる。やはり、18歳、19歳は身体的にも精神的にも立派な大人であり、大人として扱うべきである。
次に、容疑者が確定した場合、身柄確保が最優先課題であることはハッキリしている。そのためには速やかに「実名と顔写真の公開」をすべきであると考える。犯罪心理学を学んでいないのでハッキリしたことは言えないが、多分犯行後の行動は大きく三つに分かれることになる。逃亡か自殺、あるいは再犯だ。しかし、いずれの行動を未然に防ぐにも、容疑者の所在が掴めていない場合には公開捜査することがもっとも有効な手段であることは疑いの余地がない。
最後に、被害者遺族の心情である。被害者と容疑者は同級生である。誕生日が数ヶ月違ったばかりに、被害者は成人として扱われ、容疑者は少年Aとして扱われるのである。このたった数ヶ月のおかげで公開捜査されることもなく、容疑者は自殺してしまった。そのため、両親が最も知りたかったであろう「殺人の動機」も闇に葬られたままになってしまった。公開捜査をしたからといって容疑者が逮捕されたかどうかは疑問だが、「殺された娘のためにできる限りのことをしてやれなかった」という無念の気持ちは生じなかっただろう。ましてや、容疑者の死体発見までの長かった眠られぬ夜も、もっともっと短くなったであろう。今の少年法では、こういった遺族の心情・権利はほとんど考慮されていないのが実情だ。
「消費者金融会社のグレイゾーン金利を廃止するか存続させるか」についての議論も、少年法と似たようなところがある。「借りるだけ借りて安易に自己破産をする悪質な債務者もいる」と聞くから、「多重債務者=弱者」とは一概に言えないが、藁をも掴むつもりで借りた金が雪だるま式に増え破滅していくお年寄りなどが増えていると聞く。
確かに消費者金融会社(ノンバンク)は銀行などと違い貸し出しのための審査も簡単で、その上担保もほとんど必要ない。しかし、金利が高い。しかもそこに、グレイゾーンと呼ばれる金利差が生じ、これが問題となっているのだ。「利息制限法」で上限として決められている「年率15~18%」と、「出資法」で上限と定めている「年率29.2%」との差がそれだ。
我々が銀行に預けたときのスズメの涙ほどの利息からすると、なんと凄まじい利息だろうか。しかも、我々が預けた金がノンバンクの資金として銀行から流れていると聞く。確かに銀行系のノンバンクもある。それを考えると、「出資法」の上限はとんでもない高利だし、低い「利息制限法」にしても定期預金の50倍以上とは、昔のこととはいえよくもまあ法律で定めたものだと思う。今の預金金利を考えれば、上限は年率10%でも十分だ。百歩譲って利息制限法の年率はそのまま据え置くとしても、グレイゾーンは即刻廃止すべきだろう。
国会議員の先生方の中には、「会社のことを考えると50万円以下の小口については、今しばらくグレイゾーンを残すべきだ」という意見もあるようだが、「ノンバンクからの政治献金が功を奏している」とはへそ曲がりの意見ばかりではあるまい。基本的に先生方のような金持ちは金を借りる必要がないのだ。悪意を持った借り手もそうはいまい。借り手である人達、特に多重債務者の多くは窮乏している人達であり、弱者といってもいいだろう。そう考えると、グレイゾーンは即刻廃止すべきだし、利息の上限も現行より下げるべきだと考える。銀行との金利差を考えれば、もっと低い金利で十分会社は運営できるはずだ。
どちらの議論も、被害者や弱い立場の人の権利を守るようになってはいない現行法と、これに反対する意見の衝突だ。加害者の人権や既得権益を守る古い法律をいつまでも後生大事にしていては、いずれは世界の笑いものになってしまうのではないかと心配だ。
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