8月25日の深夜に起きた福岡市の「海の中道大橋」での交通事故が、多方面に波紋を広げている。酔っぱらい運転の車に追突され、幼い子供三人が亡くなった痛ましい事故だ。運転していたのが福岡市の職員だったこともあり、公務員の綱紀粛正と飲酒運転に対する罰則強化が声高に叫ばれ始めている。
飲酒運転の危険性は改めて言うまでもないが、一向に減らない飲酒運転による事故を減らす取り組みとして、既に数年前から厳罰化が進められてきた。2001年に危険運転致死傷罪が新設され、2002年には飲酒運転の罰金も大幅に増額されたことにより、我々車を運転する者は大いに注意を喚起された。またその効果も結構あったようで、施行間もない頃に聞いた代行の運転手の話によれば、以来利用者が可成り増えたという。そして加うるに、昨年(2005年)には同罪の最高刑が懲役5年から20年に一挙に引き上げられた。これら一連の厳罰化で、2001年に約22万件あった飲酒運転取り締まり件数が2005年には12万件に激減したという(2006年9月10日、朝日新聞朝刊)。
この厳罰化の効果が絶大だったのか、その後報道各社が注目していなかったこともあってか、飲酒運転に関する話題はここ暫く鳴りをひそめていた。ところが、今回のこの事故を発端にして “出るわ出るわ”、まるで流行り病が日本中に蔓延したかのように、毎日のように飲酒運転による交通事故が報道されている。しかも、目の敵にしているのではないかと思われるほど、公務員の飲酒運転による事故や検挙の報道が引きも切らない。警察官や教育関係者も例外ではない。そんな中、9月18日には山梨県身延町の教育長が酒気帯び運転で逮捕された。常日頃から反面教師を心掛けていた訳ではあるまいが、教育のトップとは余りにも立場をわきまえていない。確かに痴漢をしでかした植草教授の現行犯逮捕などのニュースを聞いていると、「教育者といえどもやはり人の子、人格も千差万別、ひどいのはヒドイもんだ」と変に納得させられてしまうが、厳に襟を正して欲しいものだ。
こんな報道が毎日のように巷に流れ、岐阜県に代表される裏金問題や民間のサラリーマンよりも優遇されているといわれる年金問題もあって、公務員に対する風当たりが益々強くなってきた。その流れを受けてか、飲酒運転に対して厳罰で臨む声が日増しに大きくなり、結果、摘発されただけで懲戒免職とする自治体が増えてきた。
その一方で、「海の中道大橋」で起きた交通事故について、「酔っ払い運転事故の真の加害者は誰か?」というセンセーショナルなタイトルで、橋の設計者と管理者の責任を問う浦嶋繁樹氏の意見もある(http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/f/28/index.html)。「欄干の強度に問題があった」という意見だ。橋の欄干が歩行者用に作られていたため、車を止めるだけの強度がなかったことが、車が海に落ちる原因となったという。
確かに歩行者用の欄干だったようだが、それには訳があって、車道と欄干の間には幅約4mの歩道があり、歩行者の転落防止を目的にした欄干に作用する荷重に車は当初から想定されていないのだ。新聞記事によれば、「転落したRV車は歩道に乗り上げ……」とあるから、通常運転では容易に歩道を走行できないように段差をつけていたことになる。したがって、公道を運転する際の決まりごとを守っていれば、設計外の荷重が欄干に作用することなどありえないのだ。その決まりごとが守られないことを前提に設計するとなると、どこまでのリスクを想定して対応するかが問題となり、公共事業費縮減の嵐の中、過大設計のそしりを免れない事態もありうる。そういった意味では、浦嶋氏の意見には、にわかには賛同できないし、最低限の決まりごとさえ守れないとなると、完全な管理社会に移行せざるを得なくなってしまう。私はそうはなりたくないと思っている。
ただ、19日のニュースによれば、福岡市は事故が起きた「海の中道大橋」の車道と歩道の間に車用の防護柵設置を決めたという。また、国土交通省はこの事故を受け、全国一斉に橋の欄干調査を実施している。国土交通省が危惧しているように、「海の中道大橋」と同じように歩行者用の欄干しかない橋は、全国に沢山あるはずだ。
道路ばかりでなく、車の安全化に対しても動きが急だ。大手メーカーが「酒を飲んだら運転できない車の開発着手」を相次いで発表した。飲酒を何らかの形で検知して動かないようにするという。夢のような話だが、スウェーデンでは既に開発されている技術だというから、「酔っ払い運転者自動追っ払い装置付」と銘打った車が日本の公道を走るのもそう遠い話ではなさそうだ。
更に言えば、掛け声だけでなかなか成果が見えてこない研究開発にも、相次ぐ交通事故はいい意味で刺激になったはずだ。中でも、平成3年から始まり既に15年が過ぎた国土交通省の「先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)」の開発・普及にも拍車が掛かるものと期待している(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/09/090906_.html)。平成18〜平成22年度は第4期の計画を推進することになっているが、自律検知型運転支援システムの本格普及が目標だ。今回のような悲惨な事故を撲滅するためにも、ぜひ目標を達成してもらいたい。
このように、幼い3人の子供たちが偽性になった今回の事故は、当事者だけに留まらず多方面に大きな波紋を与えた。余りにも一方的で、しかも悲惨であったためなのだろう。今でも、事故を知らせる新聞記事を読むたびに、両親が必死になって助けようとしている姿が脳裏に浮かび胸が締め付けられる。
せめてこの事故を教訓に二度と同じような事故が発生しない自動車運行システムを実現することが、今回の事故に関係するあらゆる業界の使命と言っても良いだろう。
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