いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
 
 

『関空が水没する?』

戻る

2006年10月4

 寝苦しかった暑い夏が過ぎ、やっと寝不足が解消できる季節がやってきた。窓越しに聞こえる虫の声も、眼をつむって聞けば、子守唄代わりで耳に心地よい。ほろ酔い気分で床に就くと、余りの心地よさに一年中こんな季節であってくれればと、叶うはずもない願いを神頼みしたくなってしまう。新米も果物もおいしいし、紅葉が見ごろになるまで今しばらく、一年中で一番過ごしやすい季節が続く。体力の落ちてきたロートルには何とも有り難いことだ。それにしても、ここまで秋の有り難味を感じることなど以前はなかったような気がするが、それもこれも余りにも長かった夏の暑さのせいなのだろう。

 とにかく今年の夏も暑かった。つい一月前まで、「○○では30度以上の真夏日がこれで△△日連続だ」など聞いただけでうだるようなニュースが、あちこちから聞こえてきた。恐らく地球温暖化の影響なのだろう。折りしも、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、「地球表面の温度は、この30年間、10年当たり0.2度の割合で急上昇しており、約1万2000年前に氷期が終わって以降、もっとも暑くなっている」と発表した(2006年9月26日11時59分、YOMIURI ONLINE, http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060926i103.htm)。
 確かに、感度が差して高くない私の体感温度計でも、春の訪れがだんだん早くなるとともに真夏日の日数は毎年増えているように感じられる。また、ここ10年ほどそれを裏付けるようなニュースが増えてきている。今年の冬のように大雪に見舞われることもたまにはあるものの、南極の氷が解け黒々とした大地で「なんか変だな?」と考えている素振りの愛くるしいペンギンの写真を見せられたり、南極から巨大氷床が割れて離岸するニュースを聞き、グリーンランドや南米パタゴニアの大陸氷河が崩れ落ちる映像を見ていると、何が原因にせよ温暖化に向かっていることは確かだ。
 例えば、氷の島グリーランドを代表するイルリサット氷河は、1990年代後半からの10年で約15qも後退したという(2006年5月29日、朝日新聞朝刊)。北極海の結氷面積も小さくなってきたというし、時々報道されるヨーロッパアルプスの山岳氷河後退も益々顕著になってきている。

 温暖化の影響は極地方ほど顕著に出ると言われている。これまで氷に覆われていたため太陽光線を反射できていたものが、一旦氷が解け地表が現れると反射することなく太陽の熱を吸収してしまうため地温が上昇し、氷が加速度的に解けていくのだ。そしてこのスパイラルは速度を増していくことになり、ひいてはペンギンやホッキョクグマなどの生息環境を急激に悪化させてしまう。
 また、シベリアなどの永久凍土地帯(ツンドラ)では、温暖化により凍土が融解し始めている。凍土が融解すると、樹木が倒れたり枯れたりして森林が次々に減少していくとともに、閉じ込められていたメタンガスが大量に放出されることになる。二酸化炭素より影響が大きいといわれる温暖化ガスだ。更に、凍土のままであれば優れた基礎地盤であったものが融解すると状況は一変して、凍土上に建設されていた道路は陥没して通行に支障を来たし、石油や天然ガスのパイプラインは至る所で補強を余儀なくされることになる。ここでも、温暖化による悪循環が奈落の底に向かうかのように回転し始めている。
 そして、都合が悪いことに温暖化の影響は極地方ばかりではないのだ。赤道から中緯度地域に掛けての“台風など熱帯低気圧の活発化”や“乾燥化”なども懸念されているし、農業への悪影響も当然出てくる。ただ、より多くの国に影響を与え、極地域の温暖化の影響を直接的に受けるのは海面の上昇だ。氷が解けると海面は必然的に上昇する。そうなると海に面した国では国の存亡に関わる深刻な影響を受けることになる。直接的な被害は高潮の多発であり、行き着くところは国土の消失である。
 環境特集のテレビ番組などで時々報道されているように、既にキリバスやツバイなど標高の低い南の島国では、海面上昇による被害が深刻になっている。また、イタリアの観光地「水の都ベニス(ベネチア)」も水没の危機に瀕している。100年間で12センチ沈下したうえに、アドリア海の海面が11センチも上昇したため、1920年代には年間5回だったサンマルコ広場の冠水はこの数年では年間60回に急増したという(2005年9月22日、朝日新聞朝刊)。今のうちに訪れておいたほうがいいかもしれない。

 このような海面上昇の影響は、遠い異国の話ばかりではない。日本も既にその影響を受け始めている。例えば、世界遺産に登録されている安芸の宮島にある厳島神社の回廊が度々冠水するようになり、石川県では波打ち際を車が走れることで有名な「千里浜なぎさドライブウェイ」が高潮で通れなくなる日が増えて来ている。こうして注意をして周りを見渡せば、他人事では済まされなくなる日がもう目前に迫っていることが良く分かる。差し迫ったところでは、東京湾や大阪湾などに広がる海抜ゼロメートル地帯の高潮被害だが、その危険性はこれから高くなっていくばかりである。
 そして、このまま海面上昇が続けば、海に造られた日本の主要空港はやがてその殆どが使えなくなってしまう。以前、第107話「あなたの集落は大丈夫ですか?」で書いたように、羽田空港も関西空港も標高は4.5mと思った以上に低いのだ。けして絵空事ではない。
 因みに、今から6000年ほど前、縄文人が活躍していたころの日本の海水面は、現在より約4m高かったといわれている(これを縄文海進と呼んでいる)。こうなると羽田などの空港はもう使えない。さて、この頃の海面と同じような高さになるのには、後何年の余裕があるのだろうか? 100年? 200年? あるいは50年?
 NASAの発表では、既に6000年前の地表温度を上回っていることになる。四方を海に囲まれた日本の地温上昇は大陸ほどではないにしても、このまま何の対策もしなければ、遠からずそんな日が来ることを覚悟しておく必要がありそうだ。     

【文責:知取気亭主人】

     

キクイモ

 

戻る

 

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.