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『果てのない欲望』

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2006年11月22

 冬の味覚ズワイガニが解禁(11月6日)になった。山陰で「松葉ガニ」、福井で「越前ガニ」と呼ばれる、カニ好きにはたまらないやつだ。金沢市民の台所「近江町市場」でも、ロシアやカナダなど外国産に混じってやっと地元産が並ぶようになってきた。観光客がお目当てにする大きくて立派なオスに並んで、地元の人達が好んで食べる小振りなメスも出回っている。何でそう呼ぶのかは知らないのだけれど、石川県の人達はメスを「コウバコガニ」と呼び、オスのズワイガニと区別をしている。どう見ても大きなオスのほうが食べ応えがありお得のような気がするのだが、地元の人達に言わせるとメスの腹にいっぱい抱えた卵がこの上なく美味しいのだそうだ。そして、「オスよりも絶対コウバコだ」と金沢生まれの仲間は力を入れて言う。
 ところが私はカニの本場に30年以上も住んでいるのに、カニに縁のない静岡県に生まれ育ったせいか味はさて置くことにしていて、大きくて扱いやすいオスのほうが食べやすくていい。足の1本1本から丁寧に身を取って食べる食べ方がどうも苦手で、特に小さなコウバコは扱いにくく面倒なのだ。と言って、カニが嫌いだというわけではない。殻から身を取ってもらっての食べ方は、結構好きだ。ただ、自分で身を取り食べ始めるとお喋りは出来ないし、ましてやお酒も飲めなくなってしまう。そんな食べ方が余り得意ではないのだ。費やす労力に見合う見返りがないというのが正直な気持ちで、どうしても食べたいという食材ではない。どうせ同じ金を出すのならカニよりも酒のほうがいいカニ……。
 しかし、カニ好きにとっては待ち遠しかった季節の到来だ。店先に本格的に並び始める今頃になると、我が家で一番カニ好きな妻の食指がそろそろと伸びてくる。ただ、家計との相談になるため、食卓に登場していただくのは1年に1回あるかどうかということになる。何しろ成人した家族が多いことがネックになって、1パイ500円を切る超掘り出し価格が我が家のハードルだ。ところが、そんな掘り出し価格は滅多にお目にかかれない。したがって我が家では、随分前から「食卓の絶滅危惧種」に指定されている。

 しかし、これだけ高くなると、「食卓の絶滅危惧種」に指定しているのは我が家だけではないだろう。カニは種類を問わず高止まりをしていて、毛ガニやタラバガニなどは、私が近江町市場に荷物運びとしてお供デビューした15年ほど前から、既に庶民が気軽に買い求められる食材ではなくなってしまっている。それは、消費地ばかりでなく生産地でも同じだ。ズワイガニ産地の金沢に暮らしていても、家族が多い我が家などおいそれと手が出せない価格になっていて、発泡スチロールの箱を手にした観光客を横目で見ながらの買い物になってしまう。特に解禁日やお歳暮シーズンから年末に向けての頃は、ご祝儀相場となって庶民には幻の食材になってしまう。近年では、一杯数千円といった値段も近江町市場でザラに目にするようになってきた。それでも買う人がいるのだから、食に対する人間の欲望は凄いものだ。

 カニばかりでなく、最近水揚げが激減している本マグロや黒マグロなども、人間の欲望の被害魚と言っていいだろう。世界で水揚げされる多くが日本に輸入されているという。そして高級食材となる。何しろ大トロになると、安さが売りものの回転寿司でも注文するには勇気と決断が必要となるお値段だ。テレビ番組で放映される有名すし店ともなると、勿論食べに行く機会もないのだが、映像を見ながら指をくわえ生唾を飲み込むのが関の山だ。とても財布と相談無しでは食べられない。

 『本マグロの大トロは、財布と相談したとしてもとても注文する気になれないな』と思っていたら、ナニナニ、世界は広いもので本マグロの大トロでも足元にも及ばないとんでもない価格の食材があった。私自身は手に取ったこともないし、勿論食べたこともない食材なのだが、話題の主は「白トリュフ」だ。今頃になると、ブタが探し当てるニュースが流れるあのトリュフだ。
 その白トリュフが、11月12日に開かれたオークションで、1.5キログラム約16万ドル(約1900万円)で落札されたという(2006年11月15日、朝日新聞朝刊)。1.5キロ、つまり1500グラムで約1900万円であるから、たった1グラムで1万2666円だ。ステーキだったら最高級和牛でも300グラムぐらいは食べられそうな値段だ。マーケットで買う肉であれば、我が家の全家族6人分のステーキ用肉が十分買えてしまう。しかも、新聞に掲載された写真を見ると、大きさは大人の女性の握りこぶし大のものが三段重ねされているほどしかない。1500等分してもとても300グラムステーキには及ばない大きさだ。
 いくら「台所のダイヤモンド」と呼ばれているにせよ、兎に角“ぶったまげる値段”だ。何人分の料理になるのかは知らないけれど、1000人の舌を楽しませたとしても、1人分の料理の値段は4万円を下るまい。しかも、たった1.5グラムの白トリュフが入った料理がである。ここまでくると、『ちょいと遣り過ぎじゃ御座いませんか?』と云ってやりたくなる。『明日になればケツから出ていってしまうのに、何を考えてんだ!』と、やっかみ半分に叫びたい気分だ。少しでも分けてくれれば別なのに……。
 私の好きな「つもりちがい十ヵ条」の中に、「浅いつもりで深いのが『欲望』」というのがあるが、正にそのとおりだ。人の欲望とは果てがないものだ。     

【文責:知取気亭主人】

     

 

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