いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
 
 

『もったいない』

戻る

2006年11月29

 多くの日本人が持っていた「もったいない」の精神が、「環境に優しい生活をすることに繋がる」ということで、色々な国に広がりを見せているという。本家本元の日本では随分前から軽んじられていることを考えると、複雑な気持ちがしないわけではないが、「早く世界中に広がっていけば良いな」と思っている。
 ところが、その思いとは裏腹に、自分の遣っていることを考えると余り偉そうなことを言えなくなってしまうから辛い。実は我が家も軽んじている部類に入りそうなのだ。家の片付けをしながら捨てられていく物を見ていると、「もったいないな」と思うと同時に、物欲にすっかり染まってしまった自分に恥じ入るばかりである。子供達に言っている「“欲しいものを買う”のではなく、“必要なものしか買わない”」を、自分自身が徹底しないといけないなと改めて感じている次第だ。
 ところで、今年の7月、滋賀県栗東市が推進している東海道新幹線新駅の建設反対を掲げて知事選に立候補した嘉田由紀子氏は、この「もったいない」を政治理念に掲げ見事当選を果たした。「もったいない」が政治の基本理念になるとは思ってもみなかったが、氏が言っているように「もったいない」は日本人にとって大変馴染み深い言葉であり、これからも大切に守っていきたい世界に誇る生活哲学だ。
 例えば、私の故郷静岡県周智郡森町は、江戸時代中期には「古着の町」として全国的に知られていたという。横文字を使えば「リユース」だ。もうその頃から日本には環境に優しい考え方とシステムが確立されていたことになる。こと左様に、日本人は昔から物を大事にする民族だったのだ。
 しかし、昭和の高度成長期に入ると家庭には物が溢れるようになり、今では日本の誇る生活哲学もどこかに追いやられてしまった感がある。私も家の片付けでそれを実感していたのだが、もっとスケールの大きな「もったいない」が最近報道されビックリしている。思わず「もったいない!」と叫んでしまうようなニュースだ。しかも二つも続いて起こっている。「だからどうだ」というわけではないが、その二題を紹介し「もったいない」と思っていただければ、書いた甲斐があるというものだ。

 まず一題目は、「北海道・知床の海岸に大量のサンマが打ち上げられた」というニュースだ。テレビでその様子が報じられていたから見た方もおられると思うが、兎に角凄まじい数のサンマだ。「足の踏み場もない」とは、あのようなことを言うのだろう。バケツを持った地元の住民が喜々として拾っていたが、正に“拾う”という表現がピッタシとくる光景だ。思わず妻と「ウソ〜ッ!」と叫んでしまった。遠くの方にはヒグマも映っている。冬眠を控えたヒグマには勿論、キタキツネやカモメなどにも何よりのプレゼントになったに違いない。ただ、打ち上げられた数が余りにも多く、その殆どは人間にも動物にも食べられずに腐っていくことになるのだろう。自然現象とはいえもったいない話だ。
  ところで気になる原因の方だが、海水温の影響が取り沙汰されていると聞くが、良く分からないと言うのが正直なところのようだ。私は、丁度吉村昭の「三陸海岸大津波」(文春文庫)を読んでいたところだったので、てっきり「海底地震の影響だ」と思ったのだが、その後何も起こらないところを見るとどうやら地震の影響ではなさそうだ。 明治29年に三陸地方を襲った大津波の時は、前兆現象としてマグロやカツオあるいはイワシなどが処置に困るほどの大漁だったという。今回のサンマ騒動は、どうやらそれとは違うようなので少し安心している。

 二題目は、ハクサイとダイコン大量廃棄のニュースだ。豊作に加え、気温が高めで推移し鍋物用の需要が低迷し大きく値崩れしたため、緊急需要調整をするのだという(農林水産省、2006年11月21日発表)。秋冬ハクサイで8,830トン、秋冬ダイコンで2,775トン、合計で1万トンを超える量が廃棄されることになる。廃棄された野菜は、「そのまま放置されたりトラクターでつぶされたりすることになる」というからもったいない話だ。
 廃棄した農家には、11月期の単価としてハクサイで1sあたり17円、ダイコンで同27円の交付金が、(社)全国野菜需給調整機構から支払われる。総額約2.2億円の交付金だ。交付金の1/2が生産者の負担、残りが税金だというから、生産者には実質半分しか入らないことになる。今の価格だと箱代や出荷費用にもならないというから、このような調整は必要なことなのかもしれないが、「もったいない」と言わなくて済むような画期的な方法がないものだろうか。
 例えば、ハクサイはキムチなどの漬物に、ダイコンは漬物や切り干し大根に加工するというのはどうだろう。労働力はニートやホームレスの人達だ。自分達で加工して、自分たちで販売するのだ。そして売上げの1/3を農家の人達に、残りの2/3の中から加工用の材料費やパック代などを負担し残りが自分たちの儲けだ。こんなシステムであれば、農家もニートやホームレスの人も遣り甲斐があると思うのだけれど如何だろうか。『そんな単純にことは運ばない』とお叱りを受けるのを承知で言わせてもらえば、少なくとも廃棄するよりはマシのような気がするのだが……。     

【文責:知取気亭主人】

     
『三陸海岸大津波』吉村昭 『三陸海岸大津波』
【編著】吉村 昭

出版社】:文芸春秋
【ISBN】:4-16-716940-1
【発行年月】:
2004年3月
【ページ】:
191P
【サイズ】:
文庫
【本体価格】:\460
(税込)

 

戻る

 

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.