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『スポーツが教えてくれるもの』

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2007年1月10日

 毎年必ず巡ってくることだが、今年も新しい一年が始まった。それと同時に、喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、新年を迎えて厚生年金受給資格の年齢にまた一歩近づいてしまった。まさかとは思うが、干支が猪だからといって昨年よりも早く一年が過ぎてしまうようなことがないだろうか。少々不安だ。最近とみに一年が短く感じるようになってきている上に、猪突猛進というぐらいだから……。
 そんな軽口が出るくらい、今年の年始は比較的穏やかな三が日であった。金沢でも青空がのぞき、大雪に泣かされた昨年と大違いだ。長期予報では「日本列島の広い範囲で初日の出を拝むことはできない」と言われていたが、ところがどっこい全国の広い範囲で拝めたという。「ひょっとしたら今年は佳い年になるのではないか」、そんな予感をさせる新年のスタートだ。

 天候が好転に恵まれたせいばかりではないが、元旦に行なわれた天皇杯サッカーの決勝に始まって、ラグビー、アメリカンフットボール、駅伝、さらにはボクシングの世界タイトルマッチなど、スポーツの大きな大会がめじろ押しの年明けとなった。そんな盛りだくさんのスポーツの中で、今年は箱根駅伝に夢中になり、テレビ、ラジオにと釘付けになってしまった。
 実を言うと長距離走自体が大の苦手で、実況中継を聞くまで箱根駅伝が2日、3日にあることも忘れていた。折しも2日の日は前夜楽しんだ酒が効きすぎたのか二日酔いとやらが我が身を苦しめていたのだが、ボーとした頭に響いたアナウンサーの上ずった声に、思わずテレビに見入ってしまった。そこには、2区を快走していた山梨学院大の留学生選手が、後半に入りパタとスピードが落ち、もがき苦しむ姿が映し出されていた。このシーンを見てからというもの、テレビ、あるいはラジオによる「夢中」が始まった。
 ラジオで往路の最終区、5区箱根の山登りでの大逆転を聞いたから、もうたまらない。スポーツはよく「筋書きのないドラマ」といわれているが、今回のレースを見ていて、あるいは聞いていて、改めてそれを実感させられた。往路5区間、復路5区間、合計10区間のそれぞれに、根性ものあり、スーパーヒーローものあり、そして涙ものありと、テレビドラマを何十本もまとめて見ているようだ。まるで人生そのものを描いているような展開に、大きな感動を与えられた。スポーツは色々なことを教えてくれるものだ。

 先に述べた2区の留学生の走りは、前半のオーバーペースがたたって、後半になってまさかの失速をしてしまったケースで、ペース配分の重要性をまざまざと見せつけられた。「人生にとってもやはり無理や過信は禁物だ」、そんなことを教えてくれた第2区であった。
 往路の最終区、箱根の山登りで見せた順天堂大学の今井選手の活躍には、凄みさえ感じさせた。5位で襷(たすき)を受けた今井選手は、4分余りあった差を逆転して一気にトップを奪い、しかも3年連続区間新記録(昨年は新コースでの記録)の偉業を達成した。毎年毎年このレースに体調を合わせるのさえ難しいのに、同区間を走る参加選手の中で常にベストの記録を出し続けることができるとは驚きだ。実力が抜きん出ていることも確かだが、日頃の研鑚と自己管理の賜なのだろう。なかなか休肝日を増やすことが出来ない私としては、彼の意志の強さを見習いたいものだ。

 一方、見る者を楽しませてくれたのは、首位争いばかりではない。復路の7区から最終10区の前半まで手に汗握るデッドヒートを繰り広げたのは10位争いだが、この順位の争いも大変面白かった。10位以内に入ると来年のシード権が与えられて、無条件に参加できるシステムになっている。したがって、各校とも優勝の望みがなくなっても10位以内に入ろうと必死だ。優勝チームが絞られてきた後半になってもレースをダレルことなく面白くしている理由の一つは、これだ。
 私が一番楽しんだのも、7区で見せた4チームの壮絶な10位争いだ。走っていた選手諸君には大変申し訳ないが、見ているものにとってはとても面白いレースであった。中でも、8区への襷渡し直前で見せた城西大学と中央大学が見せたデッドヒートは、見る者を熱くさせた。4人の中で一番苦しそうに走っていた城西大学の選手の必死の形相と最後まで諦めない頑張りには、思わず『頑張れ!』と叫んでしまうほどであった。最近の風潮に「根性論」は馴染まないようだが、やはり根性も必要だということを再認識させてくれた戦いだ。

 最後は襷の重みについて考えさせられたことを書いてみたい。一つは、ルールの厳しさともいえる出来事だ。襷は1位のチームが手渡されてから一定時間経過すると、まだ来ない襷を待つことなく繰り上げて出発させてしまう。中継所によって10分、若しくは20分以上経つと実施されるルールになっているのだ。自校の襷を継げないのは、駅伝ランナーにとって最大の屈辱だという。今回も何校かあった。しかし、自分の目の前で繰り上げスタートを見せられた選手ほど辛い者はいないだろう。後数十メートル走れば手渡せるというところで、繰上げスタートしていく自校の選手を見、誰もいない中継所にそれでも走っていかなければならないのだ。過去のレースのビデオ映像では、自分の目の前で繰り上げスタートしていくのを見た選手の驚いた顔が映し出されていたが、無念の気持ちで一杯だったろう。後10秒か20秒頑張りさえすれば……。競技とは厳しいものだ。
 今一つは、襷の持つ不思議な力だ。昨年の大会で8区を走った順天堂大学難波選手のビデオ映像を見て感じたことだ。脱水症状でふらふらになりながらも襷を継いだその姿は、見る者に勇気と感動を与えたことだろう。見ている者にも意識が朦朧としていることがわかるようなひどい状態でも襷を継ぐことができたのは、並外れた精神力もさることながら、「とにかく襷を渡さなければ」という強い潜在意識があったからに違いない。母校の名誉が染み込んだ襷とはいえ、選手しか分からない「襷の持つ重み」が、最後の力を引き出してくれるのかもしれない。            

【文責:知取気亭主人】

     

センリョウ

 

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