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『カエルの危機』

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2007年1月17

 最近、どうも活字を読むスピードが落ちてきているようだ。2、3年前までは一年間に30冊前後の本を読んでいたのが、最近では20冊にも届かないぐらいに減ってきている。勿論本以外に週刊誌や新聞なども読んでいるから、今でも結構な時間を活字を読むことに費やしている。そういった日々の読書では読むスピードのことなど気にしたこともないのだが、一年間を振り返ってみると、以前に比べ随分と読んだ本が少ないことに気付かされる。何かと野暮用が増え、読むことに費やす時間が減ってきていることも事実だが、やはり読むスピードが落ちてきているのも確かなようだ。
 スピードが落ちてきたのは、目が一段と細くなったせいばかりではない。老眼とやらが思いの外進行し、眼鏡を掛けたり外したりすることに手間取っていることが意外と大きい。最近も、昨年の夏時分から読み始めたのに、年明けの6日になってようやく読み終えた本がある。約5ヶ月も掛かってしまった。特段難しい内容の本でも、格別分厚い本でもない。文庫本サイズで300頁を少しばかり越えるだけの極普通の分量で、私にとっては手軽な本だ。勿論、内容が面白くないわけでもない。それどころか、その洒脱な文章は読み手を飽きさせない。ただ、目の細さや老眼の影響に加え、本を置いてあった場所がよろしくなかったのかもしれない。チョット臭いところに置いてあったのだ。

 我が家のトイレには、私手作りの「トイレットペーパー置き兼本棚」がある。大したものではないがその上に本や雑誌を置き、“ウン試しの孤独”を紛らわすことができるようになっている。臭いさえ気にならなければ、周りに誰もいないから結構集中して読めるのだが、難点がいくつかある。一つは「トイレを利用するときにしか読めない」という点であり、もう一つは「しびれて来るため長い時間読めない」、さらには「次の利用者がいる場合はすぐに切り上げなければいけない」という致命的な難点だ。要するに、どんなに面白い本でも、机の上に置かれている一般的な状態に比べ接する機会が格段に減り、必然的に読むペースも遅くなるということになる。
 色々なことが重なって5ヶ月も掛かってしまったわけである。そんなのんびりとした読み方が出来たのも、本の主人公が「ゆっくりとした時の流れが似合う生物」だったからなのかもしれない。主人公は、ヒキガエル。ガマだ。本の題名も文庫本のそれとしては結構奇抜で、その名も「金沢城のヒキガエル」(平凡社、奥野良之助著)という。本著は、金沢大学が未だお城の中にあった頃、金沢城の本丸跡を根城にしていたヒキガエルを1973年から9年間に亘って行った追跡調査を、エッセイ風にまとめたものである。ドキュメンタリーと言っても良い。

 とにかく文章が上手い。軽妙洒脱とはこういう文章を言うのだろう。また、主人公がヒキガエルという滅多にお目にかかれない生き物で、私自身がその生態を余り知らないこともあって、感心させられることばかりだ。
 まず調査の基本となる「ヒキガエルを一匹一匹識別する方法」が、一風変わっているというか少々残酷だ。カエルでは良くやられている方法らしいが、前足4本、後足5本、左右合わせて18本の指を、組み合わせを変え切り落としていくのだ。同じ両生類のイモリやサンショウウオは再生してしまうため、この方法は使えないというが、確かに納得だ。
 指を切られたヒキガエルは、切られたときは痛そうな顔をするものの、傷口は12日で完治したという。「痛そうな顔」とはどんな顔か見てみたい気もするが、それにしても自然治癒能力は人間より遙かに高い。このようにして著者は、9年間で1,526匹の個体を識別・追跡調査した。城外のカエルも含めると切り落とした指は、1万本を超えるという。すごい数のカエルが「痛そうな顔」をして著者をにらんだに違いない。
 そんな著者がずっと気に掛けていた個体がいた。左の後足が根元からない3本足のヒキガエルだ。生存競争の激しい自然界で生き残っていけるか心配していたところ、予想に反して7年間も元気な姿を見せたという(ヒキガエルの寿命は最高でも10年程度)。このヒキガエルの生き様を見ていると、ダーウィンの進化論が唱える「生存競争が激しい社会」ばかりでなく、おおらかな生活を営んでいる種も現存していることを教えられる、と著者は述べている。確かに、ヒキガエルの生態はどこか浮き世離れしていて、うらやましく思えてくるから不思議だ。現代の人間社会に対するアンチテーゼなのかも知れない。

 ところが、そんなおおらかな生活をしている彼らに、戦慄する危機が迫っている。カエルなど両生類を殺すカビが日本に上陸していたのだ。ツボカビという。耐性のないカエルに感染すると、致死率は90%と極めて高く、水を通じて感染するため感染力も強いという (YOMIURI ONLINE、2007年1月12日)。両生類は皮膚呼吸もするからたまったものではない。アッという間に感染する。すでにオーストラリアや北米、南米では壊滅的な被害を受けているという。卵に感染すると腐ってしまうというから恐ろしい(オーストラリアの消え行くカエル、http://www.earthwatch.jp/earthwatch/news/1998-2002/04_kaeru.html)。
 このカビに感染し死亡したカエル14匹が、昨年末に都内で確認されたのだ。ペットとして輸入されたカエルによって持ち込まれたと見られているが、世界自然保護基金ジャパンや日本動物園水族館協会など16団体が、「緊急事態宣言」を出した。「飼育していたカエルに異変があれば、野外に捨てないでほしい」と呼びかけている。
 それでなくても、両生類は激減している。環境の指標生物とも言える両生類が地球上からいなくなってしまうことは絶対に避けなければならない。哺乳類などには感染しないといわれているが、食物連鎖の下位に位置する彼らが絶滅の危機にさらされているということは、上位に位置する人間の足下が既に崩れ始めていることを意味しているのかも知れない。

【文責:知取気亭主人】

     
『金沢城のヒキガエル』【著者】奥野良之助 『金沢城のヒキガエル』
【著者】奥野良之助

出版社】:平凡社
【ISBN】:
4-582-76564-5(2006/01)
【ページ】:
333P
【サイズ】:16cm

【本体価格】:\
1,470(税込)

 

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