信じられないような事件が頻発している。そして簡単に人が殺されている。中でも、福島県で起きた高校生による殺人事件は、凄惨だ。母親を殺したうえに首を切り落とし、通学用のバッグに入れたまま持ち運んで、自ら警察に出頭したという。出頭するまでの間に、首の入ったバッグを自転車の買い物かごに入れたまま、カラオケをやっていたというから仰天だ。考えただけでもおぞましい。
愛知県の長久手町で起きた発砲事件も、1歳の我が子をオートバイの収納スペースに入れて殺し死体を遺棄した事件も、妊娠中の元妻を殺した事件も、どれもこれも耳を塞ぎたくなるような事件ばかりだ。赤ちゃんポストにも………。
もうこんな話は止めておこう。そんな話より、今回はもっと身近な、そう建設業界の話題を取り上げて、愚痴を目一杯こぼしたいと思う。
トヨタ自動車の決算が発表された。売上高約23兆9千億円、本業の儲けを示す営業利益は約2兆2千億円だそうだ。売上げもそうだが、営業利益のほうも大層な金額過ぎてピンとこない。建設業界でスーパーゼネコンと呼ばれるトップランナーたちの売上が2兆円に届かないのだから、その凄さがわかろうというものだ。
建設業界は、随分前からの公共事業削減と単価下落の波を受け、どこも青息吐息だ。一流企業といえども利益率はかなり低い。どの程度低いのか、トヨタを始めとする他の業界の主な一部上場企業と建設業界のトップランナーたちとの業績を比べてみた。選んだ企業は別にこれといった基準があるわけではなく、私が勝手に選定した。なお、表−1に示す金額は、インターネットの「Yahoo!ファイナンス」に掲載されている企業情報の「連結決算推移」に依った。
ご覧のとおり、各業界の一流企業と呼ばれる会社でも、営業利益率に大きな差があることが良く分かる。そして、差のある中でも、建設業界がとりわけ低い事も良く分かる。他業界は、我々の業界の2倍から10倍の利益率だ。つまり効率よく稼いでいる。これをグラフにすると一目瞭然だ。
さて、愚痴りたいのはここからだ。世論、特にメディアに対して物申したい。
公共事業の入札に関して、『予定価格の100%近い金額で落札しているのはおかしい。一般競争入札をすれば60%とか70%といった低い金額で落札しているではないか。だとすれば、その差額は不当な利益だ』と言った論調が、メディアの報道姿勢の影響を受け(と思っている)世間を席巻している。建設業の中で売上げの全てを公共事業に頼っているところはほとんどないはずだが、仮に幾許(いくばく)かその不当な利益を得ているとしても、ご覧のとおりの利益率にしかならない。つまり、予定価格に余程の違算がない限り、不当な利益などはありえないのだ。不当な支出をしていれば別だが、そんなことはまずないだろう。
建設業は、現場が変われば土地の条件も気象条件も変わり、一つとして同じ条件の現場はない。その上、同じ現場でも、工場内での作業と違って晴天や雨天、夏と冬など施工条件が大きく異なる場合が多く、同じ商品を大量生産できる他業種と単純に比較することはできないのが現実だ。したがって、その都度、その現場ごとに費用を積み上げて予算を計算していかなければならないことになる。そのためもあって、積算の労力を削減する目的で、積算の根拠となる材料費や器械の損料、果ては建設関連のあらゆる業種の人件費まで事細かに市場調査され、国土交通省や市販の雑誌などで公表されている。
こうなると、条件さえ間違えなければ、どの企業が積算しても同じような金額になるのは当然の話だ。このあたりをメディアは全く理解していない(と思っている)。
『しかし現実に、60%とか70%といった低い金額で落札し、工事を完成させている企業もあるではないか』と反論するだろう。ところが、そんな企業でも参加できる全ての案件で低価格で受注しているわけではない。そんな事をしたら会社として成り立っていかない。しかも、予定価格を大きく下回る金額で落札した現場の裏で、どれだけの下請け企業が泣いているかメディアは調べた事もないだろう。
翻って、他の業種の儲けについて、メディアはどんな論調なのだろうか。トヨタの2兆円を超える利益に対して、賞賛めいた報道はあっても、『儲けすぎだ。車をもっと安くしろ』といった声はない。建設業に比べて約3倍もの利益率を上げていてもである。更に言えば、今回取り上げた企業で最高利益率の武田薬品に対して、『儲けすぎている。けしからん』と抗議する記事も読んだことがない。我々の業界は、それらの企業よりもずっと利益率が低いのに、何故非難されるのだろうか。
メディアはきっと『それは、公共事業が税金で成り立っているからだ』と言うだろう。確かにそうだ。しかし、建設業に携わる企業も納税しているし、従業員も他の業種の従業員と同様に立派な納税者である事を、忘れてもらっては困る。しかも納税するには、それなりの利益を上げなければならない。「税金で飯を食っている企業は滅私奉公すべきだ」というような感情論は、直ちに止めてもらいたい。
5月20日の朝日新聞朝刊に、「シャープの新工場建設計画」の記事が載っていた。投資額は5千億円規模となる見込みで、大阪府の堺市と兵庫県の姫路市が誘致合戦を繰り広げているという。両陣営とも補助金や固定資産税の減免など優遇措置を競っているようだが、これも税金だ。「雇用の確保が出来、将来の税収が見込めるから、これらの優遇措置は許される」というのであれば、公共事業に携わる企業でも雇用し税金を払っている。どこが違うのだろうか。ましてや、企業誘致で大きな比重を占める道路などのインフラ整備は、公共事業がその責務を担ってきたからなのに……。
もういい。これ以上こぼすと惨めになる。ただ、これまで以上に企業努力をしなければいけないことや無駄な公共事業削減の必要性は重々承知しているのだが、メディアの盲目的な感情論に接すると、たまには愚痴をこぼしたくなってしまうというものだ。ネエ〜、皆さん!
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