幼児が罹るものだと思っていた「はしか」が、二十歳前後の若者を中心にして大流行の兆しを見せている。首都圏の大学から始まった「はしか」の流行は、休講や学校閉鎖の騒動を惹き起こしながら全国に広がる様相を呈している。主に西日本に進行しているようで、石川県でも「金沢大学の学生に感染者が出たため、一部の学部が休講になった」と報じられている。厄介なことだ。
ここ暫く殆ど聞かれなくなっていた病気が何故突然復活し、このように流行しだしたのだろうか。その原因は、どうやら幼児の時にする予防接種の未実施や、「はしかの本格的な流行がなかったことによる免疫力の低下」にあるようだ。どちらにせよ詳しいことは報道に任せるとして、大事にならなければいいのだが……。
聞かれなくなっていたといえば、「はしか」以外にも「百日咳」も流行の兆しを見せているという。こちらもなにやら昔懐かしい病名だ。長男の母子手帳を引っ張り出してみてみると、「ジフテリア」、「破傷風」と並んで「百日咳」の名も見える。いわゆる三種混合ワクチンだ。乳幼児のときに接種を義務付けられていたものだ。
母子手帳には、上記以外にも「ツベルクリン反応とBCG接種」、「急性白髄炎(ポリオ)」、さらにはその他「日本脳炎」や「インフルエンザ」など結構多くの予防接種が記載されている。これらの接種は、幼児本人にとっては泣くほどビックリする人生の初体験だが、健康で大人になるためにはとても大事なイベントだ。これらの予防接種がないと、今回のような騒動が度々起こり、乳幼児の死亡率がグンと上がったり、重い後遺症が残ったりと、次世代に重篤な禍根を残すことになる。そう考えると、接種される本人たちにとっては少々痛いけれど(痛くないものもあるが)、大変ありがたい制度だ。先人たちの偉大な発見と命を掛けた研究に思いを馳せ、「大きな声で泣くのは健康な証拠」と理解し、お母さんたちの積極的な利用を願っている。併せて、今回のはしか騒動の原因のひとつと言われている接種未実施に至った遠因の「予防接種の安全性」の更なる向上も願っている。
ところで、「はしか」の話題がニュースに流れるようになった頃から疑問に思っていたことがある。「はしか」という漢字の読み方だ。「風疹(ふうしん)」とか「湿疹(しっしん)」などとは全く違う読み方に凄く違和感があったのだ。その疑問が母子手帳を始めとする情報源を色々と調べていくうちにすっきりし始めた。松阪大輔風に言えば、「母子手帳を見てそれは確信に変わった」となる。
一般的には「はしか」は「麻疹」の漢字が当てられている。そして広辞苑を調べてもそう書かれている。しかし、最近とみに軽くなってきた私の頭をどう捻っても、あの漢字から「はしか」という読み方は浮かんでこない。素直に読めば「発疹(はっしん、ほっしん)」とか「湿疹(しっしん)」と同じように「ましん」と読むのが順当ではないかと思っていた。その疑問が半分ほど氷解したのだ。
母子手帳には「麻しん(はしか)」と記載されている。「麻」の字をどう読むかだが、「あさ」と読んだのでは、「訓−音」の湯桶(ゆとう)読みの「あさしん」となってしまい、しっくりこない。どう考えても「ましん」が順当だ。さらに、インターネットで調べると、医療の専門用語としても「ましん」と読んでいることが分かった。そして決定的となったのが、最近子供達から妻に配備された我が家最強の電脳マシン、電子辞書だ。その電子辞書に収納されている「スーパー大辞林」で調べると、説明の最後に「麻疹(ましん)」とはっきりと書かれている。どうやら、私の考え方が正しかったようだ。
そうなると、次は「麻疹が何故“はしか”を表すのか」という、これまた難しい、しかし他人にとってはどうでもいいような疑問が残されることになる。この疑問解明に活躍したのも先程の電子辞書だ。まず、「風疹」や「湿疹」のように吹き出物の病気に共通の漢字として出てくる「疹」の文字を調べてみた。調べた辞書は「漢字源」だ。
「疹」は、音読みで「シン、チン」と読み、意味は「はしか」とか「皮膚に出る小さな吹き出物」、あるいは「持病のため発熱する。またその持病、熱病」という意味があるという。なんと「疹」だけで「はしか」を表していたのだ。更に、漢字源には<解字>という優れものの解説が付いていて、表意文字としての「疹」の本来の意味を解説してくれている。それによれば、“ヤマイダレ”の中の部分は、びっしりといきわたる意を含み、疹で「全身にびっしりと発疹する病気」という意味になるという。なるほど合点がいく。
こうなると気になるのが「麻」の意味だ。ご心配なく、当然調べてみた。この漢字は、植物の「あさ」や「ごま」の他に、「しびれる。こすったあとのように感覚がなくなったさま」の意味があるという。「麻痺」や「麻薬」として使われるときが、これに当たるのだろう。では「麻疹」も「しびれるのか?」というと、どうやらそうではないらしい。はしかの症状としては、「小さな白い斑点が口腔粘膜にでき、やがて全身に赤い発疹が出る」のがその主なものだという。つまり、「しびれ」という症状はなく、白い斑点や全身に出る発疹を「ゴマのようだ」と見立てたのだろう。これで「麻疹」がはしかを表す理由も分かった。
なお、「はしか」の語源・由来について知りたい方は、「語源由来辞典」を見ていただきたい(http://gogen-allguid.com/ha/hashika.html)。知識が一つ増えるはずだ。
さて、ほぼ完成したこの拙文を妻に見せたところ、『エッ、“ましん”て読むの知らなかったの』と冷たい一言が返ってきた。悔しい〜!
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