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『逞しさ』

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2007年6月6日

 先日、駐車場の草刈をした。近所の3軒で空き地を借りているのだが、舗装されていない為、毎年2、3回は草刈をしなければならない。4月までは去年の秋口に行なった草刈の効果がまだ持続していて比較的綺麗だったのだが、5月に入った途端にグングンと背丈が伸びだして茫々になってきた。毎年の事ながら雑草の逞しさには、ほとほと感心させられる。中でも、ドクダミやヨモギ、スイバなど縦横無尽に根を張る雑草は、丁寧に根から引き抜いても必ず次の年もお目見えする。招かざる客なのに……。

 草刈は結構しんどい作業だ。駐車場には犬や猫を散歩に連れてくる人がいたり、子供が遊びに来たりする為、少しばかり生えているシロツメクサを増やしてやりたい事もあって、少々面倒だが以前から除草剤を使わないで鎌で刈り取っている。さらに、ドクダミを始めとするしつこい雑草は、少しでも勢力を弱めようと、なるべく引き抜くようにしている。そうなると、引き抜く本数も馬鹿にならない。しかも、雨が降った後で土が柔らかければ然程でもないのだが、晴天が続き固くなっている時は結構力が必要で、力が衰えてきたのか終盤になると握力も怪しくなってくる。
 我が家が借りている駐車スペースのうち雑草が生えている面積はたかだか車2台分ほどだが、腰を落として行なう草刈は錆び付いた足腰には結構きつい。しかも、以前は夕方ぐらいに現れた筋肉痛が、最近では奥ゆかしくなって来たのか、少々時間がかかるようになってきた。しかも痛みが長引くようになってきた。情けない話だ。そんな作業を娘と二人で2時間ほど続けて、やっと駐車場に隣接するお宅に迷惑が掛からない状態になった。

 『やれやれ、やっと終わりそうだ』と、最後に残った隅の草を抜こうとした時、奇妙な動きをする小動物を見つけた。擁壁の上をゆっくりと動くトカゲだ。でも、なんだか動きがぎこちない。これまで見てきたトカゲだと、物音や人の気配を感じると素早い動きで物陰に隠れてしまうのだが、その動きはノソノソとやたらと緩慢だ。いつものトカゲらしい動きはない。しかも、一匹の陰に隠れて見にくいが、どうやら二匹一緒に動いているようだ。尻尾が二つ見える。『おかしいな?』と思いながら息を潜めじっと見つめていると、ビックリするような光景が目に飛び込んできた。
 陰に隠れていた一匹が、もう一匹の腹に咬みついているではないか。『何だ、これは!』とビックリ仰天していたら、彼らはさらに驚くべき行動に出た。咬みついていた方が頭を持ち上げ一旦咬みつき技を諦めたかと思った瞬間、なんと先程より深くガブッと咬み直したではないか。『こいつら共食いをするのか!』と一瞬いぶかしんだが、おかしな事に咬まれた方が一向に反撃しない。観念している様にも見えるし、痛がる素振りも見せない。『何か変だな』と思っていると、今度は咬みついていた方が突然もう一匹に絡みつき始めた。そして、写真に写っているような状態で動かなくなった。
 丁度家に入っていた娘に急いでカメラを持ってきてもらい、パシャパシャと撮り始めたのだが、シャッター音が鳴っても、接写するのにカメラをグッと近づけても殆ど動かない。写真を撮りながらその様子を見ていて、やっと合点が行った。

 今は春、恋の季節、そう交尾の最中だったのだ。咬まれた方も道理で反撃しない筈だ。これは大事なところにお邪魔してしまった。しかも写真まで撮ってしまって無粋な事をしたものだ。ご両人ならぬご両匹はさぞや憤慨していた事だろう。罪滅ぼしにと、カラスなど天敵に見つからないように刈り取った草を被せてきたが、無事成就してくれただろうか。少々気になるところだ。

 しかし、雑草にしてもトカゲにしても彼らの逞しさには、本当に感心させられる。どんな状態になっても、子孫を残す事や生きる事に必死だ。その必死さを象徴するような新聞記事を以前読んだ事がある。ロンドンの動物園での出来事だ。動物園で飼われている世界最大のトカゲ「コモドオオトカゲ」が、オスやメスだけで産卵する「単為生殖」をしていたというのだ。脊椎動物では珍しい事で、「パートナーが見つからないためやむを得ず行なった」と考えられている(2006年12月25日、朝日新聞朝刊)。正に生命の神秘だ。
 それに引き換え人間のなんと愚かしい事か。日本では、折角授かった尊い命を自らの手で幕引きしてしまう人達が毎年3万人を超える。悲しい事だ。もう少し生きる事に貪欲に、逞しくなってほしいとは無理な注文なのだろうか。
 最近も現職の大臣が自殺し、司直の手を逃れるためだったと取り沙汰されているが、何をかいわんやである。全てに矮小化してしまった日本人の象徴とは考えすぎだろうか。
 雑草やトカゲの逞しさを少しでも見習いたいものだ。 

【文責:知取気亭主人】

 

 

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