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『怪しげな錬肉術?』

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2007年07月04日

 雪印乳業の一件以来沈静化していたと思っていた「食の安全に対する信頼を根底から揺るがすような事件」が、最近また相次いで報道されるようになって来た。会社の存亡に関わる重大事件となった不二家の問題に始まって、そんな重大事件も霞んでしまうような「アメリカでのペット中毒死事件」の仰天ニュースや、「JR新小岩駅構内の“そば・うどん店”でネズミが入った鍋で調理したカレーが販売されていた」という、聞いただけで気持ち悪くなってしまうようなニュースもあった。ペット人口の多い日本でも注目された「ペット中毒死事件」では、中国で生産されたペットフードの原料に禁止されている薬物が使われていたため、これを食べた犬や猫などが大量に中毒死した、と報じられている。故意と過失の違いはありそうだが、なにやら「カネミ油症事件」を彷彿させる。
 また、前話『ウナギも食卓の絶滅危惧種になるか?』でウナギの話題を書いたところ、タイミング良くというべきなのか掲載した当日の6月29日、そのウナギに関しても思わず箸を置いてしまうような気になるニュースが流れてきた。「アメリカの食品医薬品局(FDA)が、中国産のウナギ、エビ、ナマズなど5種類の養殖魚介類について、アメリカで禁止されている抗菌剤の検出が相次いだため広範な輸入規制に乗り出す」というものだ(YOMIURI ONLINE、http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070629it03.htm)。これでは“高値による指定絶滅危惧種”となる前に、“危険不適格食材”になってしまい、折角養殖され食べごろになっても食卓に上る事はなくなってしまう。日本でも早く検査をしてもらいたいものだが、農林水産省はそれどころではないか……。

 中国は最近、アメリカでのペット中毒死事件や、昨年秋に中米のパナマで発生した「風邪薬の咳止めシロップによる中毒死事件」など、人命を脅かす事件の被告となることが多く、非難の矢面に立たされている。多くの人が亡くなったパナマの事件(一説には100人とも言われている)では、原料に使われたグリセリンが実は毒性の強いジエチレングリコールだったことが判明したのだが、その後の調査で偽装表示された原料を製造していたのが中国企業だったことも明らかとなった。この事件では、スペインの企業を経由しての複雑な流通経路も疑念を深め、中国に対する不信感が一挙に広がった。しかも、対岸の火事とばかり思っていたところ、同じジエチレングリコールが使われたと見られる“練歯磨き”が日本で販売されている事が分かり、これを扱っているホテル業界などへも波紋を広げている。このように今年になって一挙に“Made in China”に対する疑念報道が噴出し、中国産の食材に嫌悪感さえ覚えた人も少なからずいたのではないだろうか。

 ところがである。不信感や嫌悪感を覚えるけしからん企業は、中国ばかりでなく日本にもあったのだ。しかも、“錬金術”ならぬ怪しげな“錬肉術”を操って、天下の生協さえも騙してきた呆れ返る食材メーカーがある。話題の主は「ミートホープ社」という。 その怪しげな“錬肉術”を駆使すると、以下に示す摩訶不思議な等式が成り立つという。

「豚の心臓」+「和牛脂」+「牛の2度挽肉」+「接着剤(カリウム+ナトリウム)」
 =「和牛正肉」

 どういう製造工程を辿ると上式が成り立つのか素人には全く分からないが、ミートホープ社の「和牛正肉」を扱ってきた商社も、肉屋も、更に消費者もそれを見抜けなかった事は事実だ。しかも、これ以外にも豚の心臓入りの「牛挽」を作り出したり、豚の心臓とカモ肉入りの「牛バラ挽」なども作り出したりしていたというから、“錬肉術”の作り出す“製品”は留まるところを知らない。その上、偽装された肉は長い間見破られることはなかった。とすると、どこやらのテレビ番組で肉の専門家が言っていたように、この“錬肉術”を考えついた社長はノーベル賞ものだったのかも知れない。
 優れたアイデアマンであることは確かなようで、「攪拌機付き挽肉製造器の考案」などの業績に対し、昨年文部科学省から「創意工夫賞」の表彰を受けている。その優れた能力を真っ当に使えば良かったものを、消費者を騙す方に使ってしまったから始末が悪い。しかも、インタビューに答える社長の説明からは、顧客の立場に立った「食の安全・安心」という考えは伝わってこない。「腐った肉」の概念すらも消費者のそれとはほど遠く、彼にかかったら腐った肉も立派な“材料”になってしまう。恐ろしき“錬肉術”だ。

 ところで、この怪しげな“錬肉術”を編み出した社長は当然罰せられるべきだが、違った意味で社長以上に非難されるべきところがある。北海道庁だ。昨年の8月、ミートホープ社の元従業員を名乗る男から苫小牧保健所に内部告発する電話があったにもかかわらず、事実関係を調べもせず、農林水産省にも連絡せず事実上放置していたというのだ(YOMIURI ONLINE、http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070626i407.htm)。食の安全・衛生を担保してくれる筈の保健所がこの体たらくでは、我々はどこに拠り所を求めたらいいのだろうか。社会保険庁の騒動をみていると、北海道庁のこのお粗末さも悲しいかな妙に合点がいってしまう。

【文責:知取気亭主人】


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