前話で少し触れたが、16日に発生した「平成19年新潟県中越沖地震」で大きな被害を受けた柏崎市に、私の娘が住んでいる。地震発生当日は運よく金沢に帰省していて、震度6強の恐怖を経験せずに済んだのだが、翌日の17日、高速道路と一般道を使いなんとか自宅アパートに辿り着くと、部屋の中は案の定足の踏み場もない惨状だったという。メールで送られてきた写真を見ると、確かにヒドイ状態だ。
取り敢えずその日は寝るスペースも作れなかったため、早く電気が復旧した先輩のアパートに泊まり、次の日から朝晩の時間を使って片付けるとの連絡が入った。周りの様子を聞くと、倒壊した家屋もあり道路は至る所で亀裂が生じていて、勤め先の病院に行く道路も結構ひどいという。
2、3日してから電話で様子を聞くと、外で『このアパート傾いているんじゃない?』と話しているのが聞こえたという。傾いているとは尋常ではない。不動産屋に連絡を取って建物の状態をチェックしてもらうように伝えたのだが、管理する物件が多く手が回らない状況らしい。しかも、アパートに寝泊まりしているのは娘だけらしい。当初は娘からの現地レポートを待つつもりでいたが、アパート自体が傾いているとなると、余震が懸念されているだけにそんな悠長な事は言っておれない。ということで、先週の土曜日(21日)、アパートの片付けの手伝いと、アパートそのものが安全なのかどうかの確認に、長男と一緒に娘の所に行って来た。
今回は、その現地レポートだ。
アパート周辺地域は、古くからの集落と新しく開発された団地が隣合わせになっているところで、外から見た限りでは古い集落の古い建物に被害が集中している。半径100m以内の狭い地域に、全壊家屋や見るからにもう住めないと分かる家屋がかなりある。下の写真もそんな建物の一つだ。
建物以外では、柏崎市内の至る所で道路の陥没や亀裂、あるいは橋梁など構造物との取り付け部分での段差が見られ、地震動の凄さを物語っている。アパート周辺の道路では、次の写真に示すようなマンホール周りの沈下や浮き上がり被害が顕著だ。
また、宮城県沖地震以来危険性が指摘され続けているブロック塀の倒壊が、今回の地震でも数多く見られた。外見上被害がなさそうでも、建物診断が済んだ建物の中には「要注意」と書かれた黄色い紙が貼られ、「ブロック塀倒壊の危険性」が指摘されているものも少なくない。また、ブロック塀の倒壊ではないが、右の写真のように道路側溝が押しつぶされたような被害もかなり多い。固定されていない構造物は、矢張り地震動に対する抵抗力は殆ど無いと言って良い。
アパートの周囲では、外回りのアスファルトに亀裂が走り、右の写真に見られる沈下やブロック塀の傾動を生じさせている。アパートとの間に生じた隙間やブロック塀の傾きを見ると、この付近の地盤がアパートの長手方向に揺れたことが良く分かる。
建物自体に発生している被害としては、木造アパートの長所か短所かは判断に迷うところだが、外壁に固定されたケーブルに引っ張られ、ご覧のように外壁が剥がれている。また、アパート正面の外壁には、2階(娘の部屋)の窓枠角から下に伸びる亀裂も確認する事ができる。揺れのすごさを垣間見るようだ。右の写真は、階段の基礎部損壊状況だ。然程ひどそうには見えないが、奥に見える壁の向こう側は1階の部屋で、床が盛り上がっていて2階よりも被害の程度はひどいという。住める状態ではないらしい。
いよいよ部屋の中だ。下の3枚は、地震発生の翌日、娘が携帯で撮った写真だ。左の写真は台所の状態で、手前にあるのが食器棚、簡易耐震装置(クサビ)が効いたのか棚そのものは倒れてはいないが、中の物は全て落ちご覧のように散乱している。ガラス戸も当然割れている。真ん中と右の写真は、居間部分の惨状だ。机も倒れテレビも転げ落ちているが、右の写真左奥に見える本棚だけが辛うじて倒れないでいる。奥に見えるのはサンルームだが、その外窓の四隅に亀裂が生じている。
その亀裂の一つが下に示した左の写真だ。ピンボケだが、ご容赦願いたい。躯体の損傷が心配になるような亀裂だ。内装の石膏ボードに亀裂が発生するということは、かなりの力とスピードで大きな変形を生じさせたに違いない。その証拠となるような被害をサッシのロック装置で見つけた。真ん中と右の写真がそうだ。
ロックをしたまま地震の揺れを受けたところ、右端の写真に示したように硬い金属が伸びてしまったのだ。ホームセンターにロックを買いに行き、同じ被害を受けている住宅が多い事が分かった。初めての発見だ。よくサッシのガラスが割れなかったと思う。
以上、今回は娘のアパートの被害を中心にお伝えした。部屋の中のドアが変形して閉まらなくなってしまった事や壁の石膏ボードに亀裂が入っている事、さらには1階の床が盛り上がっている事など、建物全体の安全性に不安を抱かせる要素は沢山有るが、外から見る限りアパートが傾いていることはなさそうだ。外回りの基礎部分に大きな亀裂もない。部屋の中を歩き回っても異常な揺れも音もしない。土曜日に来た不動産屋の話では、アパートを替わる人も多いというが、手持ちの物件で鉄筋コンクリート造りが有るのか尋ねると、全て木造だという。娘も引越しは面倒だということで、水道もガスも未だ復旧していないが、このまま建物診断を待つ事にした。考えられるだけの余震対策を施し、いささか不安ではあったがアパートを後にした。建物診断が終わり具体的な補強対策が執られるまで、大きな地震に襲われないのを祈るだけだ。
ほぼこれを書き終えた23日(月曜日)の夜、娘から連絡が入った。ガスの復旧は早くても8月のお盆頃になるらしいが、待ちに待った水道が回復したという。それを聞いて少しホッとしたのだが、建物診断が行われ「外壁がはがれ落ちる危険性がある。基礎に亀裂がある」ということで黄色い紙の「要注意」になった事を伝えてきた。一難去ってまた一難だ。ただ、アパートの住人も少しずつ戻ってきているという。皆のためにも、一日も早く安全宣言が出されることを願っている。
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