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『天寿を全うする』

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2007年08月29日

愛知県で一面識もない行きずりの女性が拉致され、金品を奪われた上、殺され死体遺棄される事件が発生した。犯人の一人が死刑になることを恐れ翌日警察に自首したことから犯行が分かったもので、携帯メールの履歴を辿り共犯者二人も逮捕された。「金さえ奪えれば誰でも良かった」という犯行そのものもビックリだが、犯人の三人が携帯サイトで知り会い、犯行の直前までお互いに一面識もなかったことに愕然とさせられる。映画や小説の世界のことではない。そういったことを可能にする「犯罪仲間を募るインターネットの闇サイト(闇の職業安定所)」があるというから恐ろしい。

『兎に角金がほしかった』というのが犯行の動機らしいが、そんな凶悪事件を引き起こす仲間がいとも簡単に集まってしまう歪んだ社会と、ごく普通の人でも興味本位で犯罪に手を染めてしまう可能性のあるインターネットサイトが深く静かに浸透している現実に、日本の治安はこの先どうなってしまうのかとても不安になる。

 

未解決の凶悪事件が増加していることや一部の警察官が犯す不祥事も、より不安をかき立てる要因の一つだ。冒頭の事件の数日前にも、警察官がストーカー行為を繰り返し、挙げ句の果ては相手を射殺し自らも命を絶った事件が、センセーショナルに報道されている。「警察官も人の子」とは言え、本来治安を維持し住民の安全を守るべき警察官が、何の罪もない一般市民を殺してはいけない。これでは、例え大多数の警察官が勤勉だとしても、警察全体に不信感を抱いても不思議がない。他にも、保険金目当てや金銭のもつれによる殺人事件など、“殺した・殺された”の報道が引きも切らない。

一方、我々庶民の生活に目を向けると、殺人事件ではないけれど、今夏の厳しい暑さによる熱中症によって高齢者の孤独死が多発している。どうやら日本は、以前のように静かに天寿を全うする事が難しい国になってしまったらしい。先日参列した葬儀を思い出しながら、一面識もない人が簡単に殺されていくニュースを聞いて、天寿を全うする事の難しさと素晴らしさを改めて思い知らされた。

 

8月17日、妻の祖母が静かに息を引き取った。96 歳だった。死因は老衰だ。亡くなる3日前に見舞った が、やせ細った100歳に近い老体にはこの夏の暑さが 相当堪えたに違いない。『どこも悪いところがない』 という医師の診断どおり春先までは元気だったようだ が、暑くなるにつれ元気がなくなり、40.9℃の最高気 温を観測した翌日永眠した。

家族や親族にすれば悲しい事だが、静岡県西部のそ の地方では「天寿を全うした」ということで、故人の 長寿にあやかる“花籠”なる風習がある。写真のよう な華やかに飾りつけた籠の中に、紙に包んだ5円、10円、 50円などの硬貨を入れ、これをクルクル回転させると 籠の隙間から硬貨が飛び出し地面に落ちる仕掛けになっている。落ちた硬貨を葬儀の参列者が拾うと、長寿のご利益に預かれるというわけだ。元々は、仏に供養する花を散布する“散華”から来ている風習のようだ。

参列者の多くもそれなりに歳を取った方が目立っていたが、彼らが一生懸命拾う姿に誘われるように私も妻も何個か拾った。拾えた事の嬉しさもあってか、初めて見るその光景は、いつまでも元気でいたいという願いと、天寿を全うした故人への畏敬の念が感じられ、この地方の人々の信心深さを垣間見た気がして妙にすがすがしい気分にさせられた。それもこれも、隣組の人たちのお世話によるものだ。

隣組の人達が取り仕切っての葬儀は、煩わしい事も多少はあるだろう。しかし、助け合い気遣い合って世話を焼いている姿は、田舎ならではの絆の深さが感じられ、何となくホッとした気分にしてくれる。葬儀社が万事を取り仕切る都会ではこうはいかない。やはり天寿を全うするのには、時がゆったりと過ぎ、今もこうした絆で結ばれている田舎でなければ難しいのかもしれない。

 

しかし、日本全体がこういった雰囲気に戻る事はもうないだろう。これだけ“殺した・殺された”の報道が溢れてくると、鍵を掛けなくても家を空けることができた田舎の暮らしがあったことさえ忘れ、皆事件の多さに慣らされていく。今回の葬儀でそうなっている自分に気が付きハットさせられた。慣れは怖い。詩の文句ではないけれど、喧騒にまみれてしまうと染まっていく自分にはなかなか気付かないものらしい。義理の祖母を見舞ったときに庭で見つけた脱皮したばかりのセミをじっくりと眺めていた、そんな時間の流れを大切にしたいのだが……。(合掌)                            

【文責:知取気亭主人】

 


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