我が家の4人の子供のうち、一番下の息子を残して、3人がやっと、本当にやっと社会人となってくれた。若い頃には人一倍あったスネの肉も、4人に長い間かじられたお陰で痩せ細り、今では見る影もない。『やれやれ、やっと楽になるかな』と思っていたのだが、貰ってくる給料と返済の金額を聞いていたら、残念ながら、まだスネをかじられる苦痛から完全には解放されそうにもない。手元に思いの外残らないのだ。
次の表は、実際に我が家の子供が受け取った7月分の給料(百円単位で丸めてある)と、返済を簡単にまとめたものだ(本人の許可を得ているので、ご安心を!)。
パートではなく正社員としての給料だ。社会保険や税金、それに“国民年金の追納”と“奨学金の返済”を引くと、手元に残るのは11万円を少し出る程度になってしまう。さらに、家に食費として幾らか入れているから、実際自由になる金は9万円ほどに過ぎない。ここから生活費の一切合財を捻出しなければならないから、結構きつい筈だ。通勤代も服も専門書も、勿論携帯の費用や仲間との飲み食いも自腹だ。詳しくは知らないが、そんな中から雀の涙ほどの貯金もしているようで、足りない分はスネをかじることになる。子供のこういった実態を見ていると、少し前に良く使われた“パラサイトシングル”が増えているのも頷ける。親としては、なかなか心配の種は尽きないものだ。
そんな事もあってか、日頃から子供の苦しい懐事情をよく知る妻が、社会保険事務所に咬みついた。先日、会社から帰るなり、咬みついた顛末を熱く喋り始めた。事の次第はこうだ。
末息子の国民年金、学生納付特例(学生の場合、20歳になっても納付を一時遅らせる事ができる制度)の件で、社会保険事務所に電話を入れた。納付通知書を送ってもらうお願いだったのだが、ついでに日頃疑問に思っていることを質問したところ思いがけない答えが返ってきて、咬みついたのだそうだ。疑問とは、
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特例と言う名前が付いているのに、3年度目(23歳)以降に追納すると、延滞金が加算される(浪人や留年をしたり、大学院に行ったりすると必然的にそうなる)。
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A |
案内に、「学生納付特例を利用すると、将来の支払いはこうなりますよ」という説明がない。 |
の2点だ。『それはそうだ!』と私も思うのだが、電話口での返答は、『基礎年金を満額貰う場合には、40年分払い込む必要がありますが、仮に1年払い込まなくても40分の1ですから大した金額にはなりません。学生納付特例を利用された方で苦しい方は、納めていない人が多いですよ』と、まるで年金の未納を薦めるような口ぶりだったという。社会保険庁のホームページで、「保険料の追納」を奨励しているのに、それに真っ向反対することを言っている。それを聞いた妻が、@、Aの不満があることも手伝って、『年金破綻が叫ばれていると言うのに、そんな事言っていいんですか!』と、咬みついたという次第だ。
社会保険庁をめぐっては、昨今の“グリーンピア問題”や“消えた年金問題”、さらには“キーボードを45分操作したら15分休憩する仰天問題”、“社保庁職員などによる横領問題”などで、国民から総スカンを食らっている。どの問題にしても、せっせと納めている国民を馬鹿にした話で、当事者と国民の間には天と地ほどの感覚のずれがある。私も妻も、イヤイヤ殆どの国民は、社会保険庁を罵倒したい気持ちで一杯だ。
例えば、グリーンピア問題だ。グリーンピアは、田中角栄内閣のもとで厚生省(当時)によって計画が立てられ、1980年から1988年にかけて全国13箇所に設置された(その間の総理大臣は、大平正芳、中曽根康弘、竹下登の3名)。年金保険料1,953億円もの巨費を投じた施設の売却総額は、たった約48億円だったという(Wikipediaより)。なんと、40分の1だ。バナナの叩き売りでも、こんなにひどいことはない。
年金として集めた金を年金以外に使った事自体が、そもそも破廉恥な話だ。その上、その損失額は建設費以外も考慮するとさらに膨れ上がり、坂口力厚生労働相(当時)は、『グリーピア事業の損失額は3,800億円になる』と発表している。ゼロが13個も付く途方もない金額だ。
この途方もない金額は、2007年の国民年金の納付額、月額14,100円の何人分を食いものにしたのだろうか。試しに1年間払い込んだとして、計算をしてみよう。
380,000,000,000 ÷ ( 14,100
× 12 ) = 2,245,863 人
驚くなかれ、約225万人分だ。2百万人を超す人の1年分を、一握りの政治家と官僚の思い付きで、失ってしまったのだ。許される事ではない。本当に腹が立つ。腹立ちついでに、受給する側からもこの途方もない金額のすごさを、検証してみることにする。
380,000,000,000 ÷
792,100 = 479,737人
2007年の老齢基礎年金の受給金額は年額792,100円であるから、約48万人分もの年金をドブに捨ててしまったことになる。見方を変えれば、4.8万人の10年分の損失だ。しかも、権利者の国民に断りもなく、年金以外の使い方で、だ。これでは、正直な納付者が“与党惨敗”の反乱を起こしても不思議はない。
また、長年、組合が交わした覚書どおりに業務をやってきたとすれば、“キーボードを45分操作したら15分休憩する仰天問題”による、非効率性も馬鹿にならない。その上、こうも次から次へと不祥事が発覚すると、不信感ばかりが募り、『言われなくても年金なんて払わないよ』と逆切れしそうだ。腹の虫も治まらない。
国民の信頼を取り戻す為には、歴代の総理大臣と厚生労働大臣、さらには関係官僚が過ちを認め、国民の前で陳謝をし、増税をしない方法での年金制度の立て直しをすることだ。
今どき議員宿舎を持っているのは北朝鮮と日本ぐらいだと言われているのに、新築の高層ビルにこだわっている参議院の先生方を始め、全ての国会議員、そして、任命権者に盾を突く、官吏の本質を忘れた高級官僚のお歴々に申し上げたい。国民に痛みを求めるのなら、反省する姿を見せ、まず自分たちの“赤い血(?)”、薄汚れた“黒い血”の人もいるかもしれないが、兎に角自ら血を流しなさい。それが、あなたたちが今すぐしなければならないことだ。
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