ひと月ほど前から、会社の仲間で流行っているものがある。仲間といっても一部の辛党で盛り上がっているだけなのだが、私はすっかりはまっている。世界一辛いと言われているトウガラシ「ハバネロ」を使って、色々な材料を加え、辛子味噌を作っているのだ。料理と呼べるほどのもではないが、作る楽しみと食べる楽しみ、両方を満喫している。元来辛い食べ物が好きなこともあって、ご飯につけたり、パンに塗ったり、ドレッシング代わりに野菜につけたり、はては酒のつまみにそのまま舐めたりと、今ではすっかり私の万能薬味となっている。おかげで、休みの日になると、手の指先や顔をヒリヒリさせながらも、台所に立つのを楽しみにしている。
ところで、マーケットで殆ど見かけることがないハバネロが、何故私の道楽のひとつに登場したのかと言えば、幸運にも自宅で栽培している仲間がいて、赤く色づいた実を会社に持ってきてくれたのが事の始まりだ。私もお裾分けに預かり、この辛いトウガラシとのお付き合いが始まった。
ハバネロは、ミニトマトと同じぐらいの大きさで、形は丸みを帯びたピーマンを小さくした感じだ。もらったものは写真のように熟したトマトと同じ朱色だったが、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」で調べたところによると、熟す前の色は緑色で、熟すとさまざまな色に変化し、白、ブラウン、ピンクなども見られるという。面白い植物だ。面白いといえば、ハバネロが脚光を浴びた理由の辛味成分に関して、「ウィキペディア」で興味深い情報を得たのでご披露しよう。 |
表面の白いのは、冷凍ハバネロに付いた霜
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“ハバネロ”や“鷹の爪”などはトウガラシ属の植物の一種で、その辛味の主成分は「痩せる効果がある」と一時話題となったカプサイシン(capsaicin)だ。ここまでは、ダイエットに興味のある人や辛党の人は大体知っている。ところがその奥が面白い。
ハバネロなどトウガラシの辛さを表す指標として、「スコヴィル値(Scoville scale)」なるものがあるという。今は違うらしいが、その指標の開発当初の量り方が実に面白い。トウガラシのエキスの溶解物を砂糖水に溶かし、辛味を感じなくなったときの“薄めた倍率”をスコヴィル値としていたのだそうだ。同じトウガラシ属のピーマンがスコヴィル値0で、ハバネロはおおよそ300,000とされているらしい。つまりハバネロは、そのエキスを砂糖水で30万倍に薄めて、やっと辛味を感じなくなるというのだ。スパゲティーやピザを食べるときに活躍する“タバスコ・ソース”が2,500〜5,000というから、ハバネロが辛いはずだ。ところがである。驚くなかれ、ハバネロよりもさらに辛い品種があるという。
今年、ギネスブックから、世界一辛いトウガラシとして、“ハバネロの3倍辛い”インド・アッサム原産のトウガラシの品種「Bhut Jolokia」(現地語で「幽霊のトウガラシ」)が認定されたのだそうだ。そのスコヴィル値は、約100万というからビックリだ。ハバネロでも辛子味噌しか思いつかないのに、どんな料理に使われるのだろうか。口の中が大火事状態になりそうだが、一度で良いから味わってみたいものだ。
ところで、植物ではないが、「幽霊のトウガラシ」よりもさらに強力なスコヴィル値のものがあることを知った。そんなものも含め、「ウィキペディア」に載っていたスコヴィル値で、私が興味を引いたものをいくつか抜粋してみる。
警察官用催涙スプレー |
5,300,000 |
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一般用催涙スプレー |
2,000,000 |
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Bhut Jolokia(幽霊のトウガラシ) |
1,001,304 |
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レッドサビナ種ハバネロ |
350,000 |
〜 |
580,000 |
ハバネロ |
100,000 |
〜 |
350,000 |
能鷹唐辛子 |
100,000 |
〜 |
125,000 |
タイ・ペッパー |
50,000 |
〜 |
100,000 |
さすが催涙スプレーだ。ハバネロを油で炒めた煙が目に入っただけで痛くてヒリヒリするのに、その10倍以上も辛いスプレーを浴びたらたまったものではない。眼を押さえて、のた打ち回る犯人の姿が眼に浮かぶ。可愛そうに……。
さて、紙面もそろそろ残り少なくなってきた。最後に、私が作った最新の“ハバネロ辛子味噌”のレシピを紹介しておこう。まず、揃える材料だが、田舎味噌2合、ハバネロ5個、ニンニク1玉、豚肉の挽肉100グラム、サラダ油少々、日本酒少々、砂糖少々と、いたって少ない。しかし、これで絶品の辛子味噌が手に入るのだ。その作り方はこうだ。
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ニンニクをみじん切りにする。量はお好みだが、私は味噌2合に1玉を目安にしている。 |
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ハバネロの種を取り、適当な大きさに切る。炒めた後取り出すかは好みだ。なお、後で指先がヒリヒリ痛むので、料理用手袋の使用をお勧めする。 |
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フライパンのサラダ油を温め、ハバネロ、ニンニクを炒め、程よいところで豚肉を加え、火が通るまでさらに炒める。ハバネロが多いときはゴーグルも必要かも……。 |
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味噌を入れ、辛味成分が溶け出している油を良く絡ませる。このとき強火にすると焦げるので、弱火ですると良い。 |
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日本酒を加え、加熱しながらしばらく混ぜていると、とろみが出てくるので、砂糖を加えさらに混ぜ、粘り気が出てきたら火を止める。砂糖の量は好みだが、私は味噌2合で大匙2杯を目安としている。 |
至って簡単だが、これで出来上がりだ。しかも、余程癖があるものでなければ、入れる具は何でも良く、失敗する可能性は低い。豚肉の代わりに、椎茸やピーナッツを入れて楽しんでいる仲間もいる。私も、やがて旬になる紫蘇の実を加えてみようと思っている。
なお、ハバネロが手に入らない人も悲観することはない。他のトウガラシで挑戦してみていただきたい。必ず、美味しい辛子味噌が出来上がるはずだ。ぜひお試しあれ!
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