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『変身と適応力』

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2007年10月17日

あの“夏の猛暑”が嘘だったように、今月も10日を過ぎたあたりから、めっきりと秋らしくなってきた。我が家の近くを流れる浅野川の河畔では、例年より遅れたものの今年も“ススキが風に揺れる風情”を楽しむことができる。『今夜あたり、風に揺れるススキと凛とした月でも眺めながら一献傾けようかな』と俄か風流人を気取っていると、開けた川原から眼に飛び込んでくるのは、周囲を席巻するセイタカアワダチソウの黄色だ。ススキも結構自己主張の強い植物だが、あの黄色い花の勢いにはどう見ても分が悪い。外来種なのにすっかり日本に馴染んでしまい、毎年今頃の季節になると、荒れた野原や川原の主になる。極めて優れた適応力の持ち主だ。

適応力とまでは言えないが、その狩猟方式から想像すると、意外に季節センサーが優れていて驚いているのが女郎蜘蛛だ。これまで静かにしていた虫の活動が活発になってきたのに合わせるように、暑かった頃に比べると蜘蛛の巣が極端に多くなってきた。よく確認もしないで散歩道以外に踏み入れると、頭から顔まで婦人用の整髪用ネットを被せたようになってしまい、せっかくのロマンスグレーが台無しだ。考えてみれば、小さな虫にしても蜘蛛にしても、極端な暑さを避けるのは当然のことなのだろう。しかし、先日の日曜日の散歩で目の当たりにするまで、こんな時期に蜘蛛の活動が活発になるとは思いも付かなかった。

 

そんな蜘蛛や、ススキ、セイタカアワダチソウに秋を感じていると、なんだか不釣合いな花が咲いているのに気が付いた。密生した枝葉の中にポツリと咲いているのは、なんと春に咲くツツジだ。よく見ると5つ、咲いてはみたが場違いだったことに気づいたのか、見るからに決まり悪そうだ。色もやや褪せていて、花に勢いがない。今後の地球温暖化に適応しようとしているのか、ひょっとしたらもう暫くすると、秋咲きのツツジがコスモスに代わって野山を彩るときがくるのかもしれない。

それは冗談としても、彼らも子孫を残していくためには、変わり行く環境に適応しなければいけない。順応性が必要となるのだ。そういった意味では、人間が作り出した農薬と病害虫との闘いに代表される、薬と病原菌との戦いは、“病原菌が持つ並外れた適応力”と“それを断ち切ろうとする人間の英知”との戦いと言っても良い。随分前から、以前には効いていた薬が効かなくなったり、突然変異をしてこれまでとは違うタイプになったりと、見事なまでの適応力を示す病原菌が心配の種となっている。

中でもここ数年、世界的に最も注目されているのは、鳥インフルエンザだ。もともと鳥同士での感染しかなかったものだが、最近鳥から人への感染が各地で確認され、「この先、いつ人から人へ感染するようになるか」と危惧されている。そして、今回話題にする結核も、薬への耐性化が確認され、不治の病となる可能性が指摘されている。

 

私の父親の死因でもある結核は、ストレプトマイシンなどの抗生物質の発見により、戦前に比べて治癒率が上がり、一時過去の病気と思われていた。しかし、最近になって大学で集団感染が発生するなど、結核への関心の低さも手伝って、「過去の病気」と宣言するにはまだまだ患者数は多い。(財)結核予防会結核研究所(http://www.jata.or.jp/)の発表によれば、2006年の日本国内での新登録患者数は、約2万6千人もいる。「栄養不足による罹患が多い」と思っていただけに、この栄養過多の時代にあっては驚くべき人数だ。しかもこの結核菌が、どうやらすごい適応能力を持っているようなのだ。         

結核菌に効果がある抗生物質は、先のストレプトマイシンなど数種類があり、通常の結核はこのうちの4種類の薬を併用して飲めば大半が治るらしい。ところが、途中でやめたりして治療に失敗すると、耐性を獲得して複数の治療薬が効かなくなる多剤耐性(MDR)が発生してしまう。そして、他の薬による治療が必要になるとともに、治癒に2年はかかるようになるという。さらに適応力を発揮すると、既存の治療薬がほとんど効かない「超多剤耐性結核(XDR-TB)」へと進化する。この結核に罹患した患者は、長期入院治療しても感染性がなくならないことが多く、致死率も高いという。結核予防会結核研究所の推計によれば、2005年の新規患者数2万8千人から割り出された、日本におけるXDR-TBの発症患者は、約100人もいるという(2007年10月14日、朝日新聞朝刊)。今のところこの程度に収まっているが、これが爆発的に感染したら恐ろしいことになる。

「生兵法は大怪我の基」ではないけれど、結核だからといって軽く考えてはいけない。やはり根治治療をしないと、結核菌に耐性を与えてしまい大変なことになる。しかし、結核菌にしてみると、中途半端な治療は、その学習能力・適応力の高さを遺憾なく発揮できる千載一遇のチャンスだといえる。

 

チャールズ・ダーウィンは、

『生き残るのは、種の中で最も強いものではない。
 種の中で最も知力の優れたものでもない。
 生き残るのは、最も変化に適応するものである』

 

と言っているが、確かにそのとおりだ。最近やや鳴りを潜めているが、院内感染で名を馳せたMRSA(耐性を獲得した黄色ブドウ球菌)も、XDR-TBと同じように劇的に変身し、環境に見事に適応した代表選手だ。こういった病原菌の適応力は、人間よりはるかに秀でている。そんな優れた能力の持ち主に千載一遇のチャンスを与えてはいけない。

折しも、17日の朝日新聞朝刊に、「経済産業省所管の特許生物寄託センター(茨城県つくば市)が、病原体約300株を杜撰に管理していた」との記事が載った。このような軽軽な判断・管理が、千載一遇のチャンスを与えてしまうことを、関係者はしっかりと承知しておくべきだ。

 

【文責:知取気亭主人】

 

女郎蜘蛛

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