高額のオークションが話題になっている。東大寺南大門の仁王像で有名な運慶作と見られる大日如来座像が、ニューヨークのオークションに出品され、1,280万ドル(当時、14億3700万円)もの高値で落札された。過去競売に出品された日本美術の最高額だという。しかもこの仏像を出品したのが、美術商でも古美術商でも、そしてお寺の関係者でもなく、外資系企業に勤める一介のサラリーマンだというから驚きだ。
NHKラジオのニュースによれば、40代前半のこの男性は、前の持ち主から直接買い入れたらしい。さてその購入額が気になるところだが、「普通のサラリーマンが真面目にこつこつと働いていれば貯められる金額だった」という思わせぶりな説明をしている。また、新聞には(読売新聞、YOMIURI
ONLINE、http://www.yomiuri.co.jp/world/)、「会社員が給料で支払える程度の金額で譲ってもらった」という記事もある。どちらにしても、野次馬根性に火が点いてしまう。いったいいくらだったのだろう。気になるところだ。
気になり始めたらもう駄目だ。この際、貯金なのか給料なのか、どちらかに決めて話を進めたい。ということで勝手な判断ではあるが、貯金をはたいて購入した、ということにしよう。貯金について我が身を振り返ってみると、話題の主と同じ40代前半のころは、――50代半ばまでも殆ど変わらないが――子供4人の養育費がたっぷりと掛かり、貯蓄は限りなくゼロに近かったと記憶している。奥さんが、がっぽりヘソクリでもためていてくれたら別なのだが……。残念ながら、還暦が見えてきた今もそんな気配はない。
我が家のデータはどうやら使い物にならない。ということで、以前新聞で読んだことがある日本の平均貯蓄額を調べてみた。少し古いデータだが、平成14年に厚生労働省が発表した資料があったので、これで見てみよう。下に示す表は、「平成13年国民生活基礎調査の概況」に納められていた「世帯主の年齢階級別にみた貯蓄額階級別・借入額階級別世帯数の構成割合」を基に整理しなおしたものだ。
表-1、世帯主の年齢階級別にみた貯蓄額階級別世帯数の構成割合

私の野次馬根性を掻き立てた噂の人の年齢が40代前半だということなので、世帯主の年齢が40~49歳の貯蓄額階層に着目し、グラフにしてみた。それが次のグラフだ。

平均貯蓄額は約660万円だが、500万円以下の世帯で「貯蓄あり」の45%を占める。すると、500万円がコツコツと貯められる金額なのだろうか。
「イヤイヤ、外資系企業だということだから給料も高い筈だ。きっと1,000万円位は溜め込んでいたに違いない」
「40代前半ということだから、仮に20年間勤めていて毎年50万円ずつ貯金したとすれば、やはり1,000万円は貯められる」
「そんな事は無い! きっと酒好きで、給料はほとんど酒代に消えてしまい50万円程度しか貯まっていない筈だ」
などなど、下種の勘繰りで申し訳ないが、他人様の懐具合の推量を楽しませてもらった。私の懐に入ってくるわけではないのだが……。
50万円? 500万円? 或いは1000万円? それが14億3700万円に……。仮に表中の最高クラスの3,000万円だとしても、ヒェーだ! 羨ましい! 目先の利く人は違うものだ。
オークションに出品する前に、文化庁に買い取りを打診したのが8億円だったというから、それも結構な値段だ。しかし、文化庁の「文化財買上げ予算」が年15億円しかなく、――文化庁のホームページによれば、平成19年度の国宝重要文化財等買上げ予算(案)は15.91億円――結果的に買い取りを断念したのだという。運慶の作だとしても、8億円が「高い、安い」の議論はあるところだろう。では、15億円の予算というのはどうだろうか。浮世絵を始めとして世界に流出してしまっている日本の文化財を買い戻す為には、あまりにも少ないような気がしてならない。観光立国を標榜し、外国人観光客にたくさん訪れてもらおうとするならば、貴重な観光資源である文化財にもっと目を向けるべきだ。
財源として、同盟国の中でダントツに多く、格差が広がる中で矛盾を感じる事の多い「米軍への予算」を見直すのはどうだろう。2007年度で2,173億円に上る米軍への思いやり予算を少し絞るだけで、2倍や3倍の予算が直ぐに付けられるような気がするのだが……。
さて、そんな愚痴の解決は政治家に任せるとして、我が家と同じように「貯蓄額は平均にまで達していないが、借入ならタップリあるぞ!」というご家庭のために、最後に「世帯主の年齢階級別にみた借入額階級別世帯数の構成割合」の一覧表を示しておく。酒でも飲みながら、溜め息とともに見ることにするか!
表-2、世帯主の年齢階級別にみた借入額階級別世帯数の構成割合

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