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『忍び寄る魔の手』

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2008年06月04日

最近、BCPなる単語を良く耳にするようになった。Business Continuity Planの頭文字を採ったもので、日本語に訳せば「事業継続計画」となる。簡単に言えば、新潟県中越地震のときに大きな損害を被った三洋電機や中越沖地震のときにニュースで報じられたリケンに代表されるように、企業が「突然の災い」によって万が一にも操業を停止しなければならない事態に陥ったとき、いち早く操業再開し事業を継続していく為にはどのような対策を講じておくべきか、企業が取るべき行動を定めたものだ。

ミャンマーを襲った大型のサイクロンや中国四川省に壊滅的な被害をもたらした四川大地震など、こういった大規模な自然災害に襲われたときの許容できる操業停止期間を目標設定し、その期間内に操業を再開できるよう事前に対策を施しておく事や、実際に発生したときに会社や従業員が取るべき行動を前もって決めておく事などがBCPの基本となる。しかし、「企業を襲う突然の災い」は、自然災害だけとは限らない。

例えば、売上の多くを依存している顧客が"倒産"したり、あるいは"取引が停止"されたりする場合も「突然の災い」だし、社内システムがパンクすることや重要なデータが破壊されることもそうだ。中小のモノ造り企業に多く見られる「重要な工程をある特定の個人の技量に頼っている場合」には、不幸にもその個人が突然亡くなったり、仕事に従事できなくなったりする事も手痛い災いと言える。

個人でさえそうだ。ましてや、不特定多数の社員が出社できなくなったら、企業の多くは操業できなくなるだろう。そんな恐怖が現実のものになろうとしている。今世界中が固唾を呑んで見守っている「新手の災い」が、日本にも"静かに"忍び寄ってきているのだ。

 

静かに魔の手を伸ばしているのは、新型インフルエンザの大流行だ。英語で言えば一時ニュースに良く登場したパンデミック(Pandemic) 、そしてその最有力候補が四方山話でも取り上げたことのある高病原性鳥インフルエンザウイルス(例えばH5N1型)だ。

就任したばかりの東国原宮崎県知事が迅速な対応で評価を高めたのが2007年1月であったが、それ以来日本の国内では鳥インフルエンザウイルスに感染したとの報告はなく、何となく「新型インフルエンザ大流行」の脅威を感じなくなってきていた。ところが、今年の4月から5月にかけて、十和田湖畔や北海道のサロマ湖などで相次いで高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染したオオハクチョウが見つかり、にわかに騒々しくなってきた。一時は新聞の一面に取り上げられるほど話題にもなった。ところが、ほぼ時を同じくしてミャンマーのサイクロン被害と四川大地震の大災害が立て続けに発生し、尚かつ被害が今以て拡大している事もあり、再び人々の記憶から忘れ去られようとしている。

しかし、パンデミックで想定されている被害は、忘れ去られるほど小さくはない。業種によっては、自然災害以上の損害を受ける可能性があるのだ。金融関係に勤めていた友人は、下手をすると日本経済に壊滅的な被害を及ぼすのではないか、とまで言っていた。日本ならずとも、世界にとってそれだけ脅威なのだ。

新型インフルエンザが大流行すると、感染者は勿論の事、感染者の家族や接触者も外出を控えなければならなくなる。「新型インフルエンザ専門家会議」がまとめた「新型インフルエンザワクチン接種に関するガイドライン」(平成19年3月26日)には、「流行の波は複数回あると考えられており、1つの波の流行期間は約2ヶ月間続くと考えられている」と述べられている。最悪の場合、約2ヶ月間もの長期に亘り外出が控えられ、経済が停滞することになる。恐ろしいことだ。

小売業や飲食業、ホテルや旅館、更には飛行機や電車・バスなどの公共交通機関にとっては、致命傷になる危険性が極めて高い。映画館やテーマパーク、ゲームセンターなど娯楽施設もそうだ。

 

暫く前から、東南アジアを中心として鳥インフルエンザの「トリ→ヒト」の感染が度々報告されるようになり、インドネシアでは近親者のみであるが「ヒト→ヒト」の感染も伝えられている。現在のこのような状態は、最悪の状態をパンデミックとすれば、どの程度危険なのだろうか。世界保健機構(WHO)の定義にしたがって見てみよう。次の表は、「鳥インフルエンザ等に関する関係省庁会議」がまとめた「新型インフルエンザ対策行動計画」(平成19年10月改定)を参考に作成したものだ。最悪の状態を"フェーズ6"としている。

 


 

日本国内ではまだヒトの感染者は報告されていない。したがって、素人判断ではあるが、表1に示すフェーズ2で留まっていると考えていいだろう。しかし、先に述べたように東南アジア、特にインドネシアの状況は、既にフェーズ3〜4に常態化しているのではないかと危惧している。しかも、トリからヒトへの感染は欧米でも報告され、世界的に広がる様相も見せ始めている。フェーズ3だ。

そんな中、5月27日の読売新聞(YOMIURI ONLINE)は、これまでパンデミックを惹き起こす最有力候補と目されていたH5N1型とは別のH7型が、ヒトに感染しやすいよう変異し始めている事が分かった、と報じている。パンデミックに向け、ついに"やつら"が進化し始めたのだ。新型インフルエンザになるには更なる進化が必要らしいのだが、いよいよフェーズ3から4へ、さらには5、6へと恐怖の階段を上り始めたのではあるまいか。嫌な予感がする。

 

しかも、頼みの綱の医療体制もどうも心許ないのだ。パンデミックが起こった場合、医療従事者の26%が転職も考えている、という産業医科大学などによる調査結果が今年の1月に発表された(2008年1月26日、読売新聞、YOMIURI ONLINE)。確かに医者や看護師も人の子だが、「強盗に出会ったら警察官が真っ先に逃げ出してしまった」と同じで、残された一般庶民はどうしたらいいのだろう。政府の医療機関への支援体制が明瞭でないということもあるのだろうが、何となく割り切れないものを感じてしまう。しかも、病院側の受け入れ態勢が不十分だとなると、尚更不安になってしまう。

どう考えてもベッド数が足りないのだ。「新型インフルエンザ対策行動計画」では、都道県に対してフェーズ4、5で感染患者の診療・治療に当たる指定医療機関の整備を要請する、となっているが、2007年3月31日現在、全国で特定感染症指定医療機関はたったの3医療機関8床、第一種感染症指定医療機関で26医療機関49床、第二種感染症指定医療機関にしても315医療機関1,635床と、想定される入院患者数――「新型インフルエンザ対策行動計画」によれば最大10万1千人――からするとお寒い限りだ。こんな現状で本当に大丈夫なのだろうか。

 

因みに、最悪の場合、日本の死者は64万人に上ると見られているが、手当てをしてくれる医療従事者の減少やベッド数の不足は考慮されているのだろうか。どうやら、BCPにもその辺の所を考慮しておく必要がありそうだ。

【文責:知取気亭主人】

 


ユリノキ

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