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『引退』

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2008年07月23日

とうとうこの日がやってきた。大リーグのオールスターゲームが終わり、後半戦がスタートした7月17日、日米のプロ野球で活躍しあの独特のトルネード投法で一世を風靡した野茂英雄投手が、突然引退を表明した。最近の成績からすると「矢張りな!」との感は拭えないが、驚きとともに一抹の寂しさを覚えるのは、私だけではないだろう。1995年にさっそうと大リーグデビューを果たし、当時のクリントン米大統領から「日本からの最高の輸出品」と賞賛され、イチローや松井秀喜などその後に続く日本人選手の大リーグ進出の道筋をつけた野茂投手に、ついに引退のときがやってきたのだ。39歳という年齢を聞けば、確かにもう現役復帰は難しいと思う。野茂ファンとしては寂しい限りだが、「お疲れ様、そして沢山の夢を有難う」とねぎらいの言葉を送りたい。

 

大リーグをグッと身近なものにしてくれた彼の野球人生には華があり、そして波乱に富んだものだった。1994年、当時の近鉄を"任意引退で退団する"という思いもよらぬ方法で退路を断ち、単身渡米して華々しくデビューを飾ったその姿は、ドクターKなどと呼ばれ野球人のみならず多くの日本人に夢を与えてくれた。しかし、強打者揃いの大リーグで2回のノーヒットノーランを成し遂げ、日米通算で201勝を挙げた偉大な投手も、ここ数年はメジャーへの復帰もままならず、イチロー選手などの陰に隠れ、殆ど紙面を飾る事はなかった。今年久しぶりに大リーグのマウンドに戻ってきたが、往年の球威は戻らず、3試合に登板して4回と1/3を投げ、10安打9失点、防御率18.69、という散々の成績を最後に、姿を消す事になってしまった。本当にプロの世界は厳しいものだ。

しかし、最後のシーズンが散々の成績だからと言って、決して彼の功績や名声が傷付くものではない。それは、イチローや松井など現役日本人大リーガーが異口同音に「今僕らがあるのは野茂さんのおかげです」と口を揃えている、との報道でも良く分かる。大リーグへの移籍方法に賛否両論があることや、「優秀な選手が次々と大リーグに移ってしまう」などの負の一面はあるが、大リーグへの道を切り開いたパイオニアとしての功績は計り知れないものがある。日本人選手の実力を大リーグファンが認めてくれたのも、彼の活躍があったればこそだ。

しかし、野茂自身は我々が賞賛するそんな功績や過去の栄光には全くこだわらず、最後までこだわりを持っていたのは現役復帰だった。引退のインタビューに答えた、「悔いが残る」がそれを物語っている。彼の中では完全燃焼しきっていないのだ。

 

人は必ず歳を取るものだ。そして、ある年齢を越すと体力は下降の一途をたどり、スポーツの世界では「若いときに出来たパフォーマンスが出来なくなってきた」の現実に愕然とする事になる。特にプロスポーツの世界では、世代交代が世の常だ。例えば、サッカーでは35歳を過ぎると途端に現役選手が少なくなる。プロ野球では40歳だ。そう考えると、野茂の39歳はやはりそれなりの年齢ということになる。本人は完全燃焼しきっていない様だが、資本足るべき体がもう言うことを聞かなくなってしまっていたのだろう。「本当にお疲れ様でした」と言ってやりたい。

ところが、日本のプロ野球に目を向けると、その世代交代の目安である40歳を超えて未だに現役で頑張っている選手がいる。中でも、私が注目しているのは、「無事これ名馬」の諺を地で行く二人の選手だ。プロ野球への興味が半減した今、昨年からこの二人の"おじさん投手"にエールを送っている。

一人は、45歳になった横浜の工藤公康投手だ。野茂の引退記事と並んで、工藤投手が自分の子供と同じような年齢の若手に交じり、一軍復帰を目指し二軍でトレーニングしている記事が掲載されていた。45歳になっても二軍で調整しているという事は、野茂と同じように現役に強くこだわっているのだろう。「こんなもんじゃない、まだ出来る!」の思いが強いに違いない。現役への強いこだわりを人一倍強く持っていたからこそ、標準的な世代交代の年齢を過ぎてもなお実績を積み重ねる事ができたのだろう。工藤は既に222勝を挙げている。現役で200勝を挙げている唯一の投手で、勿論現役最多だ。

投手にとって200勝は、誰もが目指す金字塔だ。今から16年前の1992年、広島の北別府学投手が200勝を達成したときに、解説者が「以前に比べるとピッチングマシンなどの発達によって投手受難の時代になった。もう200勝投手は出ないのではないだろうか」と言っていたが、野茂と工藤が見事にこの予想を覆してくれた。北別府以降、200勝を達成したのはこの二人しかいない。もの凄いことだ。

そしてエールを送るもう一人は、42歳で200勝を目指している中日の山本昌広投手だ。8月に43歳になる彼は、7月22日現在、200勝まで後2勝に迫っていている。誕生日を迎えるのが先か、200勝達成が先か、大いに興味をそそられるところだが、1勝でも多く、1年でも長く現役を続け金字塔を打ち立ててもらいたいものだ。

 

しかし、何れ工藤にも山本昌にも、野茂と同じように「引退」の二文字が現実のものとなる日がやってくる。そのときに、彼らは何と言って現役を去るのだろうか。やはり「悔いが残る」と言うのだろうか。我々会社員が現役を引退するときは……。「悔いが残る」とは言いたくはないな!

【文責:知取気亭主人】

 

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