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15人もの犠牲者を出した大阪難波の個室ビデオ店火災を契機に、同じように個室を売りものにしている個室型店舗が、火災報知機の設置など安全対策をしっかりと講じているのか、懸念の的となっている。これだけ沢山の犠牲者を出したのだから当然の成り行きだ。
とは言うものの、「個室型店舗は大都市歓楽街の特有のもので、全国的にはそんなにあるものではない」と思っていた。ところが、東京都と全国17の政令指定都市だけで約3500店もあるという(10月4日、朝日新聞朝刊)。良く話題に上るインターネットカフェやカラオケ店は勿論の事、漫画喫茶などにも個室型店舗があるというから驚きだ。個室型店舗でなければ成り立たないカラオケ店を除けば、漫画喫茶は名前の通り普通の喫茶店と同じように大部屋の中に独立したテーブルと椅子があれば事足りるし、インターネットカフェも背後から画面を覗けない工夫と配置が成されていればあえて個室である必要はないのに、何故だか個室となっている店があるのだ。
今回の事件の舞台となった個室ビデオ店にしても、至る所にレンタルビデオ店がありタバコ1箱にも満たない低料金でDVDなどが借りられる事を考えれば、自宅で見るほうがどれだけ勝手気ままか分からない。なのに、何故個室なのだろうか。「きっと、家人には見つかりたくない裏ビデオを見ることができるからだろう」と思っていた。ところが、どうやら違うらしい。報道によれば、最初から「ホテル代わりに使う簡易宿泊施設」を目的にしているのではないかという。
低料金のビジネスホテルにしろカプセルホテルにしろ、宿泊を目的とした施設は厚生労働省所管で知事の許可が必要となる。当然、衛生面や安全面など、許可が下りるためには厚生労働省や各都道府県が定める基準を満たす必要がある。ところが、ビデオや漫画、或いはインターネットを楽しむ為の店舗で"たまたま客がソファで眠ってしまった"、という立場を取れば、宿泊施設に求められる厳格な設備や管理は必要なくなるのだ。ある意味、法の盲点をついた上手い商売だ。今回の大阪難波の個室ビデオ店も、当初からそういった目的を持って開店した、とみられている。更に、被害者の関係者や利用者からも、終電に乗り遅れたときにホテル代わりに利用していた、との証言もある。確かに、遠距離であればタクシー代よりも安いのだろう。
こういった個室型店舗は、設備や管理に金を掛けなくて済む分、利用料金も本来の宿泊施設に比べれば割安になるはずだ。可処分所得が減ってきているサラリーマンにとっても有り難い施設であるし、それこそ「インターネットカフェ難民」と揶揄される人達にとって安心して眠ることの出来る数少ない施設となっている事も想像に難くない。しかし、このような施設で寝泊りする事が常態化している人達が増えている、ということを聞くに付けても、「この国は病んでいるな」と思えてならない。その思いは、こんなニュースを聞くと、より強固なものになってしまう。
大阪難波の火災事件が起こった翌29日、東京のインターネットカフェのトイレで赤ん坊が産み落とされているのが見つかった、とのビックリするような報道があった。その後、30歳の住所不定の女性が出産し捨てていたことが判明したが、「お金がなくて何度かネットカフェに寝泊まりしていた」と話しているという。親のところでもいい、親戚のところでもいい、相談しに帰るところはなかったのだろうか。
また、個室ビデオ店の放火殺人容疑で逮捕された容疑者(46歳)は、「戸籍を売って、金を作った」と知人に話しているという。戸籍が売買されている実態も驚きだが、分別のあるはずのいい大人がそこまで急激に転げ落ちて行ったことを考えると、今の日本の社会には"転げ落ちそうになっている人達を支える余裕"が無い事に改めて気付かされる。
しかし、どちらのニュースを聞いても、「ついに此処まできたか」の感は否めない。勿論本人達の責任に帰するところが大きいのは分かっているが、もう少しセーフティーネットが働く社会でないと、日本は益々荒んでいく事になりはしないだろうか。
このような店舗にした目的がそうであるから仕方がないのだが、個室型店舗では、極めて人口密度の高い店舗にも拘らず、1mと離れていない隣の部屋や狭い店舗で何が行なわれているのか、店員も含めて店内にいる誰一人として知らない状態になっている事が分かる。まさしく、コミュニケーションが死語となった世界だ。しかし、そんな孤独な世界を利用する人達が増えているという。
はるか昔の木賃宿であれば、建物や部屋は粗末であっても、宿の主人と客との交わりは現代の個室型店舗に比べずっと人間味が溢れ、客の孤独感を増幅させるような「全く干渉せず」の接客法は、あり得なかったのではないだろうか。しかし、「現代版木賃宿」と言っても良い――薪代(木賃)の代わりにビデオ代や漫画代を払っている――個室型店舗では、敢えて干渉しないことを売り物にし、客は客で、耐え切れない孤独感をビデオや漫画、或いはインターネットで紛らわしているのだろう。私ではとても耐えられそうもない。
社会制度としてのセーフティーネットの整備が喫緊の課題である事は当然として、例え個室型店舗であっても、店の従業員とのコミュニケーションを取らざるを得ないような形態は成り立たないものなのだろうか。店員との何気ない会話が、客にとって最後に残されたセーフティーネットになる事もあり得るのだが……
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