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2009年1月21日
米国時間の15日午後3時半ごろ、乗客乗員155人を乗せたUSエアウェイズの旅客機がハドソン川に不時着した。スワッ大惨事、と心配されたのだが、その後「乗客乗員全員が無事救出された」との嬉しいニュースが流れ、ホッと胸を撫で下ろした人も多かったのではないだろうか。ベテラン機長の沈着冷静な判断と類まれな操縦技術が、この困難な状況の中で155人の尊い命を救ったのだ。
報道によれば、事故の原因は離陸直後に2基あるエンジン全てが停止したことによるらしい。推進力を失ったジェット旅客機など、考えただけでも恐ろしい。通常、複数あるエンジンのうち1基が停止した場合の訓練は頻繁に受けているのだが、全エンジンが停止した場合の訓練は、年1回ほど地上のシミュレーターで実施しているだけだという(2009年1月17日、朝日新聞朝刊)。確かに、すべてのエンジンが停止した訓練を、実際の飛行機を使って行うには危険が大きすぎる。したがって、当該機長にとっても初めての経験だったに違いない。そういった極めて困難な緊急事態にも拘らず、ニューヨーク市街への墜落を避けたのは勿論、冷静に不時着水を成功させ155人全員を無事救出させたこの凄腕機長に対し、「ハドソン川の英雄」との称賛の声が上がっているというが、誰が考えてももっともな話だ。私も惜しみない拍手を送りたい。
一方、エンジンが停止した直接の原因は、鳥の群れがエンジンにぶつかったためではないかとみられている。鳥が飛行機にぶつかるのは「バードストライク」と呼ばれる現象で、日本でも時々報道され、増加傾向にあるという。先の朝日新聞によれば、騒音対策のために海上空港が多く造られるようになり、こういった海上空港を飛行機ならぬ鳥が"えさ場"や"生息地"として"ちゃっかり有効利用"していることが、鳥と飛行機の衝突事故増加の原因だという。海上空港は、騒音被害が回避された地域住民にとっては有効な対策であり、"ちゃっかり鳥"にとっては思わぬ贈り物だったはずなのに、使用主体の飛行機にとっては致命的となりうる「思わぬ障害」を発生させている。皮肉なことだ。
鳥に関する障害といえば、風力発電の風車に鳥がぶつかる事故も、風力発電の増加とともに最近よくニュースで聞くようになった。特に、渡りのコースに建てられた風車にぶつかる例が報告されており、自然環境保護団体から風車設置反対の運動も起こっている。自然環境に優しいエネルギーとみられていた風力発電にも思わぬ障害が出た格好だ。勿論、風力発電には雷被害や考えていたほど風が吹かないなど他の障害も多々あることは知られているが、環境に優しいとみられていた発電方式だけに、環境保護団体から反対運動を受けるとは思ってみなかったに違いない。
初めての技術を実用化する場合には、そういった思わぬ障害によって失敗をすることが多いが、それを乗り越えることによって技術は更に発達することになるのだ。畑村洋太郎が言うところの「失敗学のすすめ」である。と言っても、すぐに取り除かれる障害ばかりではないため、「思わぬ障害」が余りにも大きく解決に時間がかかり過ぎると、逆に社会に受け入れられることなく衰退していってしまう技術もある。日本における風力発電がそうなってしまわないか、少し心配になってきた。と言うのも、風力発電には"鳥がぶつかる"以外の「思わぬ障害」が顕在化しているというのだ。
1月18日の朝日新聞朝刊によれば、風力発電所近くの住民から、頭痛やめまい、不眠などの健康被害を訴える人が増えているという。風車から出る音が関係しているのではないかとみられており、騒音を測定すると、周波数100ヘルツ以下の低周波音で家が振動していることが分かったという。そう言えば大分前のテレビで、不眠症に悩む人の原因を探っていたら自宅の冷蔵庫が発生させている低周波音が原因だった、というような番組を見た記憶がある。確かに我が家でも、居間のソファに座っているときは気が付かないが、酔っ払って居間の床に寝転ぶと思わぬ音と振動にびっくりすることがある。原因を探ってみると古びた冷蔵庫のせいなのだが、普段は気がつかないのにこんなにも大きな音と振動がしていたのかと、改めて驚かされる。
こういった低周波音が風力発電装置から発生して周辺住民に健康被害を与えている、と考えられているのだ。「それを受けて環境省が調査に乗り出した」と新聞にはあるが、環境省が推進しているクリーンエネルギーに「思わぬ障害」が立ちはだかる格好とになった。尤も、考えようによっては、この障害を取り除くことができればより発電効率の高い装置開発の切っ掛けになる可能性があるのだ。日本発の夢の風力発電装置の実現も夢ではない。そういう意味でも、この不況下で求められているのは、「思わぬ障害」を「絶好の好機到来」と捉える"発想のしなやかさ"なのかもしれない。
【文責:知取気亭主人】
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マンリョウ |
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