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知取気亭主人の四方山話
 

『ミュンヒハウゼン症候群』

 

2009年1月28日

最近、「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」という聞きなれない名前の精神障害が話題となっている。入院中の我が子(五女、1歳11ヶ月)の点滴に汚れた水を混入したとされる事件が発端だ。容疑者として逮捕された母親にこの名前の精神障害があるのではないかと報道され、我々一般市民の知るところとなった。大きく取り上げられているので概要は皆さんご存知だと思うが、極めて特異な事件だ。点滴に異物を混入したこともそうなのだが、この五女以外にも同様の手口で我が子を殺した疑いが持たれている、というから驚きだ。容疑者には乳幼児期に死亡している次女、三女、四女がおり、この三人に対しても同様の汚水混入を行い殺した疑いもあるというのだ。愛しい我が子にそんな恐ろしいことをするとは、どう考えてもまともな精神状態でない。

報道によれば、警察の調べに対してこの母親は、「つきっきりで看病している姿を見せることにより、周囲の人に頑張っていると思われたかった」などと話しているという。人間誰しも似たような感情は持っているものだが、犯罪に手を染めることまではしない。いわんや我が子を傷つけてまでやる親は殆どいない。理性がしっかりと悪魔の囁きをコントロールしているからだ。ところが、この難しい名前の障害では、コントロールシステムが機能しないとみえる。

 

娘が送ってくれた資料(「カプラン臨床精神医学ハンドブック DSM-W-TR診断基準による診療の手引き」、編:ベンジャミンJ,サドック、バージニアA,サドック、監訳:融道男、岩脇淳、発行:メディカル・サイエンス・インターナショナル)によれば、「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」は「虚偽性障害」のひとつであり、その「虚偽性障害」は、「意図的に身体的あるいは精神的な症状を作り出し、病人として扱われようとする」と説明されている。そして、身体的特徴と症状が優勢なものを――ほら吹きで有名だった男爵の名前にちなみ名付けられた――「ミュンヒハウゼン症候群」と呼んでいるのだという。さらに、その症状の説明文には、「患者は意図的に大小便に血液を混ぜたり、体温を人為的にあげたり、……」と書かれているから、「医師にかかり、優しく面倒を見てもらいたい」という願望が相当に強いらしい。

親から虐待や無視などを受けていた幼児期に本当の病気に罹り、医師に親切にしてもらった経験を持つのが特徴で、大人になってからそのときの状態を意図的に作り出し、再び医師に親切にしてもらおうとする、とある。つまり、幼児期にたっぷりと注がれるはずの"親の愛情"が、決定的に不足していることが根本原因にあるらしい。

「親の愛情を一身に受けたい」と願うのは子供として当然で、いつもは口やかましい親が病気になったとたんに優しくなり、「いつも病気になっていたい」などと思うのは子供の常である。時には仮病を使い、愛情を注がれる心地よさを求めることもある。しかし、対象は医師ではなくあくまでも親だ。そこのところが、「ミュンヒハウゼン症候群」と違う。この難しい名前の障害は、医師に愛情を求めるのだという。幼児期の体験で、「親に愛情を求めても無駄だ」と学習してしまったのだろうか。いずれにしても、愛情を求める先が親ではなく医師だということは、本当にいたたまれない。

また、「代理人による」が頭に付いているのも特徴的だ。患者本人ではなく子供や親に病気の症状を作り出し、「代理人」として仕立てることからこう名付けられたようだが、容疑者が語っているように「周囲の人に頑張っていると思われたかった」との思いが異常なほど強いのだろう。法を犯してまでそう思われたいとは、どんな心境なのだろうか。よほど愛情に飢えているのだろう。

 

今回の四方山話を書きながら、容疑者の幼児期に思いを馳せてみた。可愛そうなことに、幼児虐待のひとつである無視(neglect)が日常的に行われていたのではないか、と勝手に想像してもさほど突飛ではないように思える。それほど、容疑者の心は優しさと愛情を求めているのに違いない。「愛されていたい」、「必要とされたい」の欲求が満たされないまま、母親になってしまったのだろう。そう考えると、素人判断ではあるけれど、この事件の容疑者は加害者であると同時に被害者でもあると言える。悲しい事件だ。

 

乳児はしっかり肌を離すな

幼児は肌を離せ、手を離すな

少年は手を離せ、目を離すな

青年は目を離せ、心を離すな

 

子育ての極意(子育て四訓)だそうだが……。何故出来なかったのだろうか?

【文責:知取気亭主人】

 

アオキの実

 

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