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2009年5月7日
今、世界中に不安を蔓延させている新型インフルエンザに関する動きが慌しい。先週の四方山話で「警戒レベルがフェーズ3から4に引き上げられた」と書いたばかりなのだが、世界保健機構(WHO)は、瞬く間に広がりを見せるその感染の速さに警戒を強め、直ぐにもう一ランク上のフェーズ5に引き上げた。更に、5月5日の新聞記事にはもう一歩進んで、「世界的大流行が起こっていることを表す、最終段階のフェーズ6の宣言もあるのではないか」と書かれている。今のところ弱毒性のウィルスが幸いして死者の数は驚くほど増えてはいないものの、突然致死率の高い強毒性に変異する可能性もあるという。そうなると、対岸の火事を決め込んでいる日本も、のんびりと構えているわけにはいかない。
日本ではまだ"感染者が出た"との報告はないが、他の国と同じように予断を許さないのは言うまでもない。感染者が出れば、不急不要のお出かけは控えることが求められる。このゴールデンウィークには、1,000円乗り放題の恩恵にあやかろうと沢山の人が高速道路や観光地に繰り出したが、感染者が出ればこうはいかない。ましてや、家族に感染者が出れば、外出を控えなければならない。そのときのために水や食料の備蓄が叫ばれており、その準備を怠りなく進める必要性が急激に高まってきているのだ。
そんな心配もあって、我が家もついにその準備に取り掛かった。水や主食はそこそこ備蓄しているので然程心配ない。不足しがちなのは生野菜だ、ということで野菜を庭で栽培することにした。こう書くと大層に聞こえるが、実を言えば、毎年やっているプランタでの野菜栽培を今年もやろうという単純な話なのだ。
早速、キュウリ、ナス、ミニトマトの苗を数本ずつ買ってきた。夏の間だけでもこの3種類の野菜は自給しよう、との目論見だ。自給といっても、所詮はプランタ栽培だ。栽培できる数にも種類にも限りがあって、これ以外に葱類を栽培してはいるものの、たったこれだけでは自給自足の生活に程遠い。そこで、せめて今から植えつける3種類については、より多くしかも確実に収穫できるようにしよう、とその準備をし始めたわけだ。そうなるとまず手始めにやるべきは耳学問で得た「農業は土作りから」だろう、ということで先週の水曜日(4月29日)、丸1日掛けて古いプランタの土の入れ替え作業をした。
半年以上も放置して雑草の楽園と化してしまったプランタを、人間様の手に取り戻す作業だ。プランタをコンクリの上で引っ繰り返して中の土を出し、我が物顔で占拠している雑草やびっしりとはった根を取るため、"ふるい"に掛けた。プランタの内側に接触していた土は、草の毛根が網の目のようにはびこっている。プランタ用のミニスコップで切ろうとするのだが、敵もさる(サル)者引っ掻く者で、容易に切れない。何とか切り崩して"ふるい"に掛けると、髪の毛ほどの細い毛根がどっさり姿を現してくる。改めて、"我が家のずぼらさ"と"雑草の逞しさ"を思い知らされる。そして、それ以上に逞しいのは、静かな生活を突然妨害されて、土の中から追い出される虫たちだ。
プランタを持ち上げると、まず下に隠れていたダンゴ虫の大群が目に飛び込んでくる。昼寝の最中だったのか、大概は日光を浴びても動きが鈍い。ところが、暫くすると目が覚めるのか、蛛の子を散らすように一斉に逃げ出すから面白い。そういえば、このダンゴ虫には忘れられない思い出がある。次男がヨチヨチ歩きだった頃に、あろうことかダンゴ虫を食べてしまったのだ。口から出てくる見たことのない殻のかけらにビックリし、やがてダンゴ虫だと気付いて飛び上がらんばかりに驚いたのを覚えている。
「そんな虫だから愛着がある」ということではないが、「ダンゴ虫のいる土は健康な証拠だ」と聴いたことがあるから、あえて退治する必要がないと思っている。必然的に、我が家の庭はダンゴ虫の楽園になっている。
ダンゴ虫の大群の次に良く目にするのは、"ふるい"に残る、長さ2、3pの白っぽい"蜂の子"に似た幼虫だ。カブトムシの幼虫ほど大きくはない。ダンゴ虫と同様、明るいところは苦手のようで、コンクリの上に放り出すと必死になって動き出す。調べたところによると、プランタでよく見かけるこの虫は、コガネムシ類の幼虫で、植物の根や腐葉土を食べるという。家庭菜園家にとっては有り難くない虫だ。しかし、ダンゴ虫同様、この幼虫がいるということは、土が健康な証拠なのかもしれない。
そして、何と言ってもビックリしたのは、最後のプランタを引っ繰り返したときに目に飛び込んできた、見たこともない生物だ。底に当てていたプラスチックの網の裏側に二匹のナメクジを見つけたのだが、その周りに生まれて初めて見る"綺麗な半透明をした生物"がいるではないか。良く見るとどうやら卵らしいのだが、私にとっては「未知との遭遇」だ。思わず、「証拠写真を撮らなければ」とシャッターを押した。それが下の写真だ。

ナメクジとその卵(もう一匹いた) |

卵の拡大写真 |
一粒の大きさは丁度米粒の半分位で、見たところ40、50粒も集まっているだろうか。それらが粘液で葡萄の房のように固められている。手に取って食べる勇気もないので、ミニスコップの裏側ですり潰してみたのだが、くるんでいる粘液の粘着力がかなり強い。
インターネットで調べると、想像していたとおりナメクジの卵だ。ナメクジは雌雄同体で、一匹だけでは産卵できないという。ただし、二匹いると両方とも産卵するらしい。少子化対策に悩む日本にとっては羨ましい話だが、それを裏付けるかのように、確かにナメクジは二匹いた。そして、産み付けられた卵は、各々のナメクジの周囲を取り囲むように見つかったのだ。この親子の位置関係からすると、ひょっとして産卵直後の母と子にお目に掛かったのかも知れない。野菜の収穫量確保を優先して駆除したのだが、今考えると、ちょっぴり可哀想なことをしてしまった。
しかし、プランタという狭い空間、そして真っ暗闇の中でも、こんな神秘的な営みが繰り広げられているとは驚きだ。本当に自然は凄い。営々と続けられているこんな小さな虫たちの生命のリレーに、大きな拍手を送りたい。そして、共生している同じ地球上の生物として、これからも続いていくことを祈るばかりだ。
虫が苦手な人たちにとっては遠慮したいところなのだろうが、今回体験したこういった"未知との遭遇"は、虫取りに夢中になった少年の頃に忽ちタイムスリップさせてくれるから堪らない。自然界にはまだ見たこともない動植物がいっぱいあり、"未知との遭遇"の可能性もタップリとある。そう考えると、これからもどんな"目から鱗の遭遇"を体験できるか、楽しみで仕方がない。勿論、楽しみに待っているのは、新型インフルエンザウィルスなどという人間に危害を加える生物との遭遇ではなく、心をときめかせてくれる生物との遭遇であることは言うまでもない。
【文責:知取気亭主人】 |