|
2009年6月3日
先週の土曜日、お隣の県、福井県は大野市で開かれている朝市に行って来た。「七間朝市」と呼ばれ、織田信長の命を受けた金森長近が大野城を築城して以来、400年余りもの歴史を持つという由緒ある朝市だ。数年前にNHKラジオでこの朝市のことを聞き、「一度行ってみたい」と思っていたのだが、これまで中々行動に移すところまでいかず、今回長女の帰省が切っ掛けとなって、やっと願いが叶った。
大野は30年程前に仕事でよく通い、宿泊したこともある懐かしい所だ。しかし仕事での縁が切れてからは、車なら金沢から僅か2時間前後で来られる程の近場で、しかもすぐ隣の勝山には時々来ることがあるにも関わらず、なぜか大野まで足を伸ばすことはなかった。一度だけ、5、6年前に下道を通って名古屋まで行った時に素通りしたことがある。今回はそれ以来だ。
古い町並みが残る七間通りには、地元の山菜や野菜を扱う店を中心に、10軒ほどが仮店舗を構えている。意外と少ない。ひょっとしたら、「7時から市が開く」というから、我々が着いた9時半には、商品が売り切れて店仕舞いしたところが多かったのかもしれない。もしそうだとしたら残念なことをしたものだ。
それでも「折角来たのだから」と店を覗くと、期待していた通り山ウド、野ブキ、水ブキ(カタハ)など、山懐に囲まれた地域ならではの食材が数多く並んでいる。店の数は思ったより少なかったのだが、中に異常なほど元気な"昔のお嬢さん"が大きな声でお客と漫才をやっている店があり、我々も声を掛けられ愉快なやり取りを楽しませてもらった。楽しんだ代償として、結局「エゴマの葉のキムチ」を買う羽目になってしまったのだが……。大阪に限らず、小母さんパワーは凄い!
次の店で良く肥えた水ブキを見つけ、「石川県ではカタハ、この辺では水ブキと言うんですよ」との"うんちく"も付けてもらい買い求めることができた。ところがそうこうしている内に、20分ほどで朝市ショッピング&ウォッチングは終わってしまった。2時間余も掛けてたどり着いた割には、如何にも呆気ない。期待が大き過ぎたようだ。
あっと言う間に朝市通りを見終わり、「さて帰ろうか?」と帰りかけたとき、妻が珍しい物が飾ってある店を見つけた。これが、「2時間掛けても行って良かった!」に繋がる貴重な発見となった。
見るからに歴史を感じさせる店に飾ってあるのは、木の玩具や変わった模様の板だ。入ると、人の良さそうな主人(?)が、「この店は12人で共同運営していること。歴史的建造物の店舗を維持し古い街並みを保存するために大野市から補助が出ていること」を、丁寧に説明してくれた。そして、ある木箱の風合いが気に入り、手にとって欲しそうに眺めていると、「それは黒柿ですよ」と嬉しそうに教えてくれる。自分の作品だという。それから、「黒柿」についての目から鱗の説明が始まった。
「黒柿」は、木材通や木工通の間では珍重されている杢(もく)――木の模様とでも言おうか――だという。柿の木に含まれるタンニンと土中の金属や微生物が長い間影響しあって、墨のように黒変するのだという。中でも、孔雀の羽の模様に似た「孔雀杢」が最高級の黒柿で、1万本に1本の割でしか産しないのだという。それが店にあった。下の写真を見て分かるように、成る程孔雀模様だ。
 孔雀杢の板 |
 孔雀杢の拡大写真(絵に描いたようだ) |
右の写真など、まるで遥か昔の墨絵を観ているようだ。こんな芸術的な現象が、ゆっくりと時間を掛け、しかも人の手も借りずに人知れず木の幹の中で行われているとは、本当に驚きだ。まさに、自然と時間が織り成す妙技だ。稀代の芸術だ。
ところが、妙技はまだあった。左下写真がそれだ。「縮み杢」という。
 栃の木の縮み杢 |
 黒柿で作った駒入れ |
「縮み杢」は、木が曲がったり、病気に罹って縮んだり、あるいは自らの重量で圧縮されたりして生ずる特殊な杢のひとつらしい。主人の話では、同じ縮み杢でも「七縮み」と言って、1寸(約3.03センチ)の中に7本の皺があるのが高級だという。「自分はそれしか扱っていない」と言い、写真の作品もそうだという。大きな板で目にしたことがあるが、こうして見ると、木目に直行した皺とは、成る程不思議な模様だ。悠久の時を自在に使いこなす自然の妙技には、たかだか50年程しか自由に使えない人間など到底勝てそうにない。
「勝てるのは洒落ぐらいのものか」ということで、くだんのご主人が作った将棋の駒入れを最後によく見ていただきたい。蓋の側面に瓢箪が彫ってある。蓋を取って、中から駒を出せば? もうお分かりですな! そう、「瓢箪から…」のアレだ!
【文責:知取気亭主人】 |