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知取気亭主人の四方山話
 

『クマゼミ』

 

2009年8月5日

いつの間にか7月が終わり、早いものでもう8月だ。例年ならば毎日のように"猛暑日"のニュースがテレビや新聞紙上を賑わす時期だというのに、7年ぶりのエルニーニョが原因なのか、つい先日まで沖縄を除く広い範囲で梅雨空がグズグズと続き、大雨や低温による被害がニュースの主役になっていた。ここに来て、やっと各地の「梅雨明け宣言」が出されるような状態だ。平年よりも随分と遅い梅雨明けになってしまった。

お陰で、夏休みに入ったこの時期、いつもなら子供たちの歓声で賑やかな筈の海辺やプールも、静かなものだったという。しかも、気象庁が発表した1ヶ月予報ではエルニーニョの影響で8月も低温予想が出されているから、今年は真っ黒に日焼けした子供たちの姿は貴重なのかもしれない。特に、海は8月のお盆の頃からクラゲが増え始め、もう安心して遊べる日もそう多くは無い。その上低温だとすれば、下手をすると海どころかプールで遊ぶ子も例年より少ないだろう。我々が子供の頃の夏休み明けの自慢は"日焼けの黒さ"だっただけに、この時期に日焼けした子供たちが少ない、と思うと何となく寂しい気持ちになってしまう。しかし考えようによっては、海やプールで遊べない分、夏休みの宿題をする時間がタップリ取れて良いのかもしれない。私だったら御免蒙りたいが……。

宿題といえば、今の子供たちの宿題はどんなものが出されているのだろう。今から50年程前、我々が小学生だった頃の「夏休みの宿題」は、"ドリル"に"絵日記"、そして"自由研究"か"工作"が定番だった。勿論、男の子が大好きな"昆虫採集"の宿題もありだ。私はお尻に火が付かないと動き出さない性格に合っていたのか、夏休みが終わる直前の8月25日頃から泥縄式に作り始める工作を得意とし、毎年工作を提出していた。しかし、外で遊べることと多種多様な虫にも興味があり、昆虫採集というほどではないが虫捕りも良くやっていた。

 

振り返ってみると、私が育った静岡県周智郡森町は、町名の通り自然に恵まれていて、昆虫採集にはもってこいの町だった。町の中心を流れる太田川は、今でこそ護岸も綺麗に整備されてしまったが、当時は堤防にも中州にも立派な樹木が生えていて、虫捕りには困らなかった。カブトムシやクワガタは、毎年決まった木の樹液を吸いに来ていて、相席で食事に来るスズメバチを刺激しないようにしさえすれば、容易に捕まえることが出来た。時には、"ナナフシ"などめったにお目に掛かれない貴重な虫も観察することが出来た。今思うと、本当に自然が豊かだった。

勿論、セミやトンボ、チョウも沢山いた。中でも、木に止まっていることの多いセミは、小学校低学年の頃から良く捕まえた。その多くは、子供の背でも届く位のところに止まっていることが多い、ミンミンゼミとアブラゼミだった。その他、滅多に捕まえることは出来なかったが、たまに羽の透き通ったヒグラシやツクツクボウシを捕まえると、その日ばかりは虫捕りの天才になった気分になり、有頂天になったのを良く覚えている。

しかし、それ以上に貴重だったのが、クマゼミだ。見かけることが少なかった上に、タモを使っても届かない高いところで鳴いていることが多く、当時の子供たちにとってはまさに"高嶺のセミ"だった。子供のころに捕まえたクマゼミは、たった二匹だけだったと記憶している。それほど捕まえることが難しかったのだ。貴重な上に、その大きくて立派な体と綺麗な透き通った羽を持つクマゼミを、私は「セミの王様」と呼び憧れていた。

ところが最近、そんなに貴重で憧れの的だったクマゼミがアブラゼミを凌ぐ程大量発生し、大合唱している現場に遭遇しビックリ仰天してしまった。

 



アブラゼミ


脱皮直後(どちらかな?)


クマゼミ

 

森町の隣に位置する掛川市に出張したときのことだ。事務所の近くの公園だろうか、朝っぱらからうるさいセミの大合唱が聞こえる。何だろう、と耳を澄まして聞くと、「シャシャシャ……、ジー」と鳴くあのクマゼミではないか。鳴き声を聞いていて、堪らなく会いたくなってきた。このチャンスを逃す手はない、と早速早朝の公園に憧れのセミ探しに出かけていったのだが、いるわいるわ、手の届きそうな低い枝にも高い枝にもクマゼミだらけだ。こんなにも沢山のクマゼミを今まで見たことが無い。

関東や北陸地方で南方系であるクマゼミが異常に増えている、というニュースは2、3年前から度々聞いていたが、実際目にするとは思ってもみなかった。増えた原因として、温暖化の影響や植樹用の木の土とともに運ばれた説などが言われているが、いずれにしてもこの光景は異常だ。ましてや、右上の写真のように手で簡単に捕まえられるとは、私が憧れた王様の威厳も地に落ちたものだ。

異常繁殖はどこかに影響を及ぼすもので、クマゼミが光ファイバーケーブルを枯れ枝と間違えて産卵し断線する被害が増えている、という笑えない話も聞こえてくる。はた迷惑は、そんな産卵間違いばかりだけではない。事務所近くの公園での大合唱のように、その大音量の鳴き声は、安眠を妨害し神経を苛立たせる「騒音」そのものだ。やはりセミの鳴き声は、合唱ではなくソロで、しかも遠くで聞く位が丁度良い。

 

ところで、セミを漢字では「蝉」と書く。旁(つくり)の「単」は座禅などの「禅」にも使われていて、どちらの字も物静かな印象を抱いてきた。ところが、先日の大合唱に遭遇して以来、虫偏(へん)の字を見ると騒々しさが先に立ってしまうようになった。最早、先人のように、セミの鳴き声に風情を感じる、という訳にはいかないのかもしれない。

【文責:知取気亭主人】

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